238:全部、ここから

「病人等のどうにもならない者達は?」


 おおう。やばい、錬金術の夜明けを叫んでいたらここでの会話がどうでも良くなっていた……。


「どれだけ働けない者がいるか確認出来次第、炊き出しなどを定期的に行う予定です。最低限、生きていけるように。そこから這い上がるかどうかは、本人次第という事でよろしいのでは無いでしょうか?」


「あ、ああ……」


 ディーベルス様がどや顔だ。まあ、うん。本来、この辺の事をやりたかったのは彼だからなぁ。


「つまりは、ディーベルスは代官として、カンパルラ城砦都市の全住民の情報を入手したということか」


「ええ。公言しておりませんが。公言しているのは、灯りの魔道具はフランカ商会が販売する物を無償提供しているという噂くらいでしょうか」


「住民情報の把握、か」


「世間では、私は大馬鹿と言われております」


「都市代官としては非常に立派だという声もちゃんと聞こえてきてますから」


「まあ、そうだろうな……これだけの魔道具……売れば相当高額で値が付くだろう。それをタダで配ったのだから」


「ふふふ。タダより怖いモノはない……と言いましてね。まあ、騙されて売られるようなことにはならない分だけ、マシでしょうかね」


「そうだな……これが……そうか。しかし錯綜した情報の……訳がわからなかった情報の真実か。ふう……話を聞けば聞くほど疲れてしまった……。今日はこの辺にしておこう。二人は……明後日の朝に出るのだったな? では、明日、今後の方針に付いて話をすることにする。今日は灯りの魔道具に終始してしまったが、実は大切なのはポーションに付いてだからな……」


 そうそう。さすが、兄上様。御理解されていらっしゃる。施政開始しているランタンばら撒きなんて、別に今はどうでも良いのだ。大事なのは、今後、ポーションをどうやって売っていくか。だ。


 リドリス領は、金が、現金が必要になる。それを用意するためにはポーションを「キチンと」売っていかなければならないのだ。


 下手すれば……いや、下手しなくても、戦略物資として重要視される。出来る限り、国に対して直接納入していく形にしなければならない。


 だが、このポーションの効果が判れば、即そのまま、領土拡大に結びつけ様とする者も出てくるハズだ。それが王では困る。

 シロの情報収集によれば、この国、ローレシアの王はここ三代に渡り、賢王として名を馳せており、攻め込まれた際に攻め返しての領土拡大はあるが、それ以外で国の形は変わっていないそうだ。

 元々資源産出が可能な土地なのもあるが、深淵の森に接していることで、魔力の高い地域が多く、そこで入手出来る魔石が、非常に大きな輸出商品となっている。


 そう。魔石がこの国の主な輸出品。魔石は主に何に使うのか。

 少々、効率は悪いが、そのまま使う事で、魔力回復が可能だ。つまり、俺の魔力電池という考え方は間違っていなかったのだ。

 経験値やDPにする物っていうのは、ダンジョン内限定の話で、ダンジョンから出てしまえば、使用することで経験値は手に入らない。


 で。一番魔石が使われているのは、ご存じ、魔道具の動力源として、だ。


 はい、ここでよく考えて欲しい。既に商人ギルド支部長、グロウス様にLEDランタンの魔道具は販売委託してある。


 あれ……「あえて」魔石の消費量は現在の灯りの魔道具よりも「若干」良い程度に抑えてある。


 明るくすることは可能だ。だが、そうすると、魔石の消費は10倍以上になり、ゴブリンクラスの魔石であればそれこそ、五分程度で消費してしまう。


 魔石という資源。その資源の消費量をコントロールできる「これまでよりも高性能」な魔道具。なんというマッチポンプ。多分、じんわりじわじわ、何十年と時間をかけて企めば……確実に他国を経済的に支配可能になるのは間違い無い。


 まあ、そうなる前に色々と起こるだろうけど。

 

 ポーションをグロウス様に委ねなかったのも、そういう理由だ。市場を席巻する……という意味では複数の商会で売り出すのが良いと思うのだが、こいつばかりは危険すぎる。


 それこそ……潤沢に……中級体力回復薬が使える精鋭騎士団があれば……。戦場を縦横無尽に斬り刻む、突撃する無双攻撃が可能になってしまう。

 それを自国が行うのはともかく「受け止める」側になるのは避けなければならない。


「ああ、では最後に、ドノバン様にお願いが。領主、又は領主代行という役職にある以上、情報収集する者達をお使いではないかと思うのですが~」


 何故それを! という目でこちらを凝視する。


「いや、お答え下さらなくて結構ですよ。当然。領主としてそういう裏の手が無い方が「恐ろしい」ですから」


「あ、ああ」


 ドノバン様は少々わかりやすすぎる気もするなぁ。ちょい心配だ。


「それで。ここ以外の辺境領、及びその周辺の領で……クーリア様と同じ様に、一族の御子息や御令嬢が……病気にかかっていないか……早急に確認していただけませんか。既にある情報で、ここ一年程度、何故か社交界に出席していない……程度の情報でも結構です」


「それは?」


「まあ、気を回しすぎであれば問題無いと思うのですが……」


「判った調べておこう」


 その後、豪華な食事でもてなされた。ドノバン様の奥様は現在、王都にいるらしい。なので、テーブルに付いているのは、御兄弟、そして俺の三人という会議と変わらない面子というか。

 料理は丁寧な作りだったが、ハルバスさんの方が腕が上なんだろうなぁ。っていう味だった。素材は良さそうなのにもったいない。


 あ。香辛料を貢いでおこう。忘れるところだった。





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