237:プライバシーとか無い
「まず。カンパルラ城砦都市に、大型の灯りの魔道具を設置しました。これは、夜、暗くなると自動で点灯する様になっています。明るくて眠れない……などの苦情が来れば位置を移動するつもりでしたが、今のところその手の苦情は受けておりません」
「それが……都市が光っているという情報に繋がるのだな?」
「ええ。多分。そして、その流れのまま、都市中央の「城」と「教会」をライトアップ致しました。こちらは深夜0時頃には点灯終了をいたします」
「そ、それが、神々しい光に包まれる教会と領主館という情報の真実か。一応理由を聞こう」
「きっかけは城砦都市が暗かったから……なんですが、まあ、それは私の我が儘で。今後……フランカ商会はポーションや魔道具業界、いや、国の物流全体すら変える事業を開始する……という狼煙となります。何よりも、カンパルラという最東の城砦都市から「最新」が始まる。その幕開けと言いましょうか」
本当はシロさんのアンテナ用なんだけどね。
「派手な……幕開けだな……」
「そう……だと思います」
まあ、ディーベルス様はほぼ知らなかったしね……。最初。ごめんね。
「そして。カンパルラの住民に配った魔道具は、こちらです」
小型ランタンのスイッチを入れて、渡す。
「おお。明るい……な」
現在は既に夕方過ぎ。夜に近い。日が陰り始めている。まあ、そうでなくても、基本、この世界の建物内は暗い。そろそろ灯りが無いと仕事にならないだろうし、実際、この執務室にも灯りの魔道具が置いてある。
「こ、これを……無料で配った……とは……」
光量の可変も実演して見せた。やはり、明るさを変化させられるのは驚愕の新機能らしい。いやいや。
「こちらはカンパルラ城砦内であれば……夜のみ使用で、約一年ほど光らせることが可能です。が、外に持ち出すと約一カ月で点灯しなくなります」
「持ち逃げしても使えるのは一カ月か」
「魔力が無くなったら、充魔といって、魔力を装填する必要があるのですが、機材はカンパルラの役場にしかありません。一年に一回の充電は無料となります。それ以降の充電は有料で承ると」
「よく出来ているな……」
「兄上、スゴイのはここからです。この小型ランタン……当然ですが、魔力登録した者にしか使用出来ません。つまり、カンパルラの住民はほぼ全ての者が魔力登録を行ったことになります」
「ああ。それはそうだろう? 魔道具とはそういうものだ」
「これを……ご覧下さい」
ディーベルス様が取り出したのは、魔術石版。タブレットだ。現状距離が離れてしまっているので通信は不可能だが、カンパルラで接続していた分の情報にはアクセス出来る。
「こ、これは……。住民の戸籍情報……いや、魔力情報を元にした個人情報か」
「この情報を元に、カンパルラの人口や、男女比、子供の管理を行い、素早い救済が可能です」
「違法奴隷……にも迫れるな……」
データは蓄積していく。犯罪に近しい現象を確認した場合は、その辺を深掘りするが、それ以外はあまり触らないことになっている。というか、そこを触り始めると人員が圧倒的に足りなかったからだ。まあ、おいおいって事で。
「はい。都市に定住し、生活するには、魔力登録が必要となる……のは多少面倒でも仕方ないことかと。その分、この魔道具がもらえるワケですから」
「住民が売り払った場合は?」
「最終的にはそれを持っていることが都市住人の証……となるので、売り払う行為は認められないのですが、最初の数年、これが当たり前になるまでは、仕方ないでしょうね……。なので、金を出して再購入するか、都市の公共事業などで働いてもらう予定です」
俺的には。都市外に流出した小型ランタンは、実は効率の良い広告塔のつもりだ。
これの価値的にお二人には納得してもらえないだろうけれど、他の都市、他の領、そして他の国へこいつが流れ着いた場合を想像する。
魔力切れでタダの棒になったか、ギリギリ光っているランタンが領主なり国王の元に届けられる。そして、それを確認するのはそこで一番の……それこそ宮廷錬金術士となるはず。
くくく。
そうなって困らない様に作ってある。少なくとも俺が見たこの世界の魔道具とは根本的な作りが違う。
普通の錬金術士では、何が何だか判らないだろうし、優秀な錬金術士なら、施されている隠蔽の仕様に驚愕するだろう。
もしかしたら、天才なら……多層構造に細分化して、小型化に成功している部分に気がつくかも知れないけれど、「これを、どうすれば作れる」のか……は絶対に判らないハズだ。
つまりは。世界の果てであるこの東方の城砦都市に、大勢の錬金術士が、遠路はるばる旅してくるはめになる。このランタンを見て、そう思えない者は技術者ではない。
錬金術は「東」からやって来るのだ! あれだ! 「錬金術の夜明けぜよ!」だっ! 見ろ! これが、革新だっ!
……ってやばいやばい、厨二病的幕末維新男になってしまっている! シロがいないとツッコミが……。
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