236:作り話

「ディーベルス……その……お前、良く……引き受けたな……」


「いえ……あの……」


「うやむやのうちに、契約させていただきました! 申し訳ありません。御迷惑おかけ致します!」


「サノブ殿……悪いとは思っていないよな……」


「はい! カンパルラ、及び、リドリス領の主な城砦都市の各種情報を見せていただきました」


 ドノバン様がディーベルス様を睨む。


「公開されている情報のみです。極秘資料などは当然、見せておりませんよ」


「まあ、そうだな……」


「そこから予測するだけでも……今年の秋の収穫時に、リドリス領は多大な借財を負うことになります。そこに……さきほどチラッとお聞きした、他領との訴訟やトラブルによる賠償は含まれておりません。食糧不足もあるかと思いますが……まずは先立つもの、早急に現金が必要なのかな……と」


「……」


 ドノバン様の顔が歪む。弟ほどギリギリでは無かったものの、既に、愛剣を売り払ってしまったくらいには……リドリス領は追い詰められているのだ。


「非常に秘密主義の錬金術士集団がカンパルラ近郊……そうですね。深淵の森周辺に定住した……としましょう。元々、我が娘の病治療のためにポーションを求めていたディーベルス様が、偶然、その錬金術士集団の子供を魔物から助けることに。その行為に恩を感じた錬金術士集団は、ディーベルス様に庇護を求め、フランカ商会は魔道具やポーションを売り出すことになる。どうでしょう?」


「……どうでしょう……と言われてもな……」


「そんなわかりやすい作り話が……」


「大丈夫です。本当の所の方が、嘘くさいですから。多分。魔道具からポーションまで全て、私一人で作っている……って信用できます? 錬金術士の少ないこの世の中で」


「出来ないな……ポーション千本とか余裕なのだろう?」


「はい。しかもです……サノブ殿のポーション……体力回復薬の方ですが、効果は比べものにならないくらい「上」……です」


「「上」……。傷口にかければ傷があっという間に癒え、飲めば内部から癒やす。現状手に入るポーションですらそれくらいの効果はあるのだ。味はともかく。それ以上……というのは……」


 カツカツ。机を指が叩く。


「厳密に言うと。ポーションには種類と等級があります。怪我であれば初級体力回復薬で瞬時に癒やせます。私自身、現在の所持素材的に量産できるのは中級体力回復薬までなんですが、それがあれば……斬り落とされた腕を付け直すことくらいは問題無く」


「なっ……」


 そういう基礎情報も失われてるんだよなぁ……。俺が見た限り、売られているポーションは全て「劣化回復薬」だった。


「……ポーションや魔道具を生み出すには、魔力が必要で、一つ、二つ、作っているうちにそれが無くなり倒れる……なんてことも多いと聞いたことがある」


「まあ、それは……我が一族の技。私の父は若い頃、レリシアの森で魔道具職人を務め、その際にオーモッドの印可をいただいております。複雑な事情があって森からは離れましたが……」


 これは、シロが考えてくれた作り話だ。


 ただ、シロが以前情報収集した時代ですら、伝説だった超有名エルフ錬金術士の屋号らしい。なんでも女神と共に錬金術を生み出したとか、そうでない、とか。


「本当はただ、魔力が多かったから、沢山練習できて、レベルが上がっただけですけどね」


 レリシアの森も「謎の魔力爆発」で失われたエルフの森都だそうだ。


 今の世の中、人種とエルフ種は交わりを持っていない。なので人種世界では、エルフは既に息絶えた……と思われている。


「ですが、多分……生き残りは存在します。エルフ、特にハイエルフは女神に最も近き存在。あの傲慢なクソドモがそう簡単に種滅するとは思えません」


 と。シロさんが何かを思い出して、普段使わない毒舌で怒り出すレベルで力説されたのを思い出した。


「な、なんと!」


 イケメン兄弟が驚愕の表情のまま固まった。


「ちょ、ちょっと待て。レシシアの森のオーモッド……錬金術の先駆け、源、そして全てではないか!」


「ならば、サノブ殿は……サノブ殿は……」


「ええ。外見はこのように人族でございますが、中身は先祖帰りのエルフでございます。この件はお二人以外で知るのはグロウス様だけでございます。どうか御内密に」


「そ、そうか……判った……。貴殿が尋常では無い技量の持ち主であることは納得がいった」


 ふう……とやっとひと息ついた様だ。兄上、真面目だな。


「説明済まないな。で。もう一つの件だ。夜光城、光る都市、住民に魔道具配り……こちらは何だ?」


「フランカ商会の名を上げていこうかと。さらに言えば、ディーベルス様の代官としてのお仕事の一面もサポートできないかと考えまして」


「それが何故……光に繋がる?」


「まず、一番の疑問点であろう灯りの魔道具です。こちらになります」


 これは俺が魔法鞄から出した。通常のLEDランタンの魔道具と、カンパルラで配ったシリンダー状の小型ランタンの魔道具だ。


「この他に、カンパルラには街灯という、柱の先に灯りが灯るようになっている魔道具を数百本配置しました」


「まてまてまてまて……一つずつ頼む。一つずつだ」


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