235:プレゼン
「では。兄上。まずはこれを……」
目で合図をして……ディーベルス様に事前に渡して置いたポーションを出してもらう。
「これが……サノブ殿のポーションになります」
目の前に置いたのは初級精力回復薬、だ。目の前のドノバン様もディーベルス様と同じ様にお疲れだ。判りやすく目の下に隈。
以前のディーベルス様と同じ……っていうか、兄弟だからか。経済的に苦境に立っているからか、似た感じで弱っている。
そこで、ドアが開き、メイドさんがティーセットをトレイに載せた運んできた。
「シグノ、カップだけ貰えるかい?」
カップを三つ、並べて、そこに取り出した精力回復薬を三分割する。
「兄上、好きなカップをどうぞ」
ディーベルス様が、ドノバン様にカップを選ばせた。まあ、領主代行だからね。毒味的にそれくらいはしないと。
「弟が保証して売ろうとしているモノを疑いはせんよ」
それでも、カップを手に取った。俺たちも一つずつ分ける。
「ああ、シグノ、すまんな。カップをもうワンセット」
背の伸びた……ベテランメイドさんが御辞儀をして再度外へ出る。メイド長とかそういう立場の方だろうか。スゲーきっちりしてる。動きが綺麗だ。うちのメイドズも大概所作が綺麗なんだけど、確実に彼女の方が上だ。
「! これはっ……」
ドノバン様が驚愕……いや、なんかもう、訳がわからない顔をしている。
「これは……なんだ」
「ええ」
ディーベルス様が……どや顔だ。この顔……絵になる。
「過去、王国騎士団に所属した者として、ポーションを優先的に飲ませていただくことが多かった。特に若い頃は最前線に出張ることも多かったからな……」
「いま、飲んでいただいたのは、御自身の精力を回復する薬になります。……まあ、元気になる薬とでもいいましょうか。体力回復の薬は傷付いていないと使ってもあまり効果が判りませんから」
「なんと……ポーションにはそのような違いが……」
「兄上。サノブ殿から得られるものは……ポーションだけではございません。今の知識ひとつでも、とんでもない価値があるとは思いませんか……」
「……あ、ああ。そう……だな……。通常の……その、我々が知っているポーションは体力回復薬というのか。そちらは?」
「当然、用意してありますよ」
ディーベルス様が、緑のラベルのポーション瓶を取り出した。ちなみに、判りやすい様に、緑が体力、青が精力、赤が毒消しだ。ちなみに魔力回復薬は、未だに素材がないので手を出せていない。
「……この……ポーションは……数を用意出来るのか?」
「出来ます。既に……」
「フランカ商会の倉庫には、数百本単位で在庫が」
ディーベルス様がさらにどや顔だ。ちなみに、俺特製の【結界】で守っているので何人たりとも中には入れない。
「なっ! 本当かっ!」
「そして……個人ごとに対処法、素材が違うので、個別対応になるのですが、病気に関しても治療が可能です」
「まずは王族から……でしょうか。さらに、クーリア様と同じ様に、御病気の方が居ればその治療も行いましょう」
「兄上。私が商会を再立ち上げし、サノブ殿の作るモノを扱うことにした理由、お判り頂けましたか? このポーションがあれば、成功だけなら確実に成功するのです。例えどのような者が仕切っても。ですが。事が国のレベルまで上がってしまうと……儲かる、儲からないの話ではなくなる可能性がある」
「そこまでの……覚悟……だと?」
「サノブ殿に……恩を返せていない、と。訴えた所、そう言われまして……「心労甚だしい仕事になりますよ」と。確かに」
ドノバン様が呆れた様な……そんな馬鹿なという様な顔をしてこちらを見る。
「これで、私が。一介の行商人でしか無い私が、これらの商品を自らの商会で売りに出さない理由が分かっていただけたでしょうか?」
「つ、通常の……体力回復薬とやらも、味は……」
「はい。似たような感じです。私が飲んでいます」
ディーベルス様は売り物は全部試食している。真面目だからね。
「これまで……どんなに創意工夫がされようとも、ポーションの「味」は改善されなかった。これ以上どうにもならない。それが全国の、いや世界中の国々から出された答えだったはずだ。もしもこんなポーションが流通している国があれば、噂にならないハズが無い。……だが……」
「はい。兄上、ここにあるポーションは嘘ではありません。偽物で無いのです」
「サノブ殿……こ、このポーションは……他の者で作成できる……ものなのだろうか?」
「天職が錬金術士であり、適正な修行を行えば……作れる様になるはずです。ああ、やる気さえあれば、天職が錬金術士じゃなくてもいけますよ。現在の他の仕事と同じく。まあ、いちばん大きいのは素材……特に薬草である、新鮮なホルベ草の入手が最大の問題かもしれません」
「そうか……いや……これは……」
「私もフランカ商会で……と最初言われたときはピンときませんでした……が。考えれば考えるほど……」
「ああ。これはカンパルラ、そしてリドリス領で済む問題ではないな……父上にも……相談しなければ、いや、もう……」
「私への報酬は、そういうことです。これをフランカ商会で扱うことになれば、イヤでも、リドリス領、そして、辺境伯一族の貴方様方を巻き込むことになります。ディーベルス様と話していて良く判りましたとも。その一族であれば、貴種たらんとされるその心意気、目先の利益に惑わされ、正しき為す術を失う……ことは無いでしょう。リドリスの名はそれほど誇り高い」
「……弟ほどではないのだがな……私が領主代行になったのは、騎士団在籍時に清濁併せ飲むことを覚え、それで納得が出来るようになったからだ。父上に、貴族は綺麗事だけでは成立せぬと言われてな」
「ええ。その通りでしょう。フランカ商会も今後……商売を続けて行く上で、濁りを消化せねばならぬ時がくるでしょう。それは……私が。引き受けましょう。ディーベルス様にはあくまで商会長として……偉そうに笑っていて、いただきたいと考えております」
「そ、そうか……」
はぁ……と。椅子の背もたれに背を預け、何度目かのあきれ顔だ。似合うね。そういう顔も。さすがイケメン貴族。イケオジ。感情表現が判りやすく素晴らしい。この辺、堀の深い西洋系の顔立ちは良いですよね。
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