233:兄上
「お前がサノブ……か。言え。なぜ、弟にいらぬ知恵を授け、物を与えた。その答えによっては斬らねばならぬ」
目の前の武人。立ち上がったその身長と体格。俺よりもデカい。身長二メートル弱か。さらに筋肉質でいい身体をしている。
髪は黒と金髪のオールバック。油で固めてるのかな。簡易だけど、革の鎧を身につけている。上質そうだ。腰には剣を佩いたまま。まあ、領主の館は領主が最上位、この人は確か、領主補佐だ。帯剣も問題無いのか。良く判らんけど。
顔面は……もう、ディーベルス様の兄って感じで、ちょい無骨系のイケメンだ。この人もイケメン貴族オヤジだ。目つきが鋭いのは戦闘をする者としては多分、重要だしな。敵だな。
それにしてもこわい。ビリビリ来ている。【威圧】か【脅威】とか判らないけど、そういうスキル使ってるよなぁ。絶対。
「あ、兄上、兄上、何とぞ。まずは、話を」
ディーベルス様が慌てている。って弟なのに兄のこれには慣れてないのか~。お付きの武官は部屋の扉前だから、いま、この……領主補佐お仕事部屋? には俺たち三人しかいない。
「話をしろと言っている。サノブよ。答えよ」
まあ、そうだね。最初から話をしろと。でも、まずはアレでしょ、形式とは言え、カンパルラの代官にして、フランカ商会の商会長でもあるディーベルス様が説明するのが筋でしょう。
と。そういうのを取っ払って話せって言ってるのは判るんだけどな。
「まずは名乗れよ? 呼びつけておいて一方的に話せとは。さすが辺境。貴族もマナーを知らぬか」
「なっ」
兄と弟が仲良く、声を揃える。
「ああ、ディーベルス様。私は礼儀を尽くされた相手には礼儀をもって返し、無礼を受けた相手には無礼で返すことにしております。貴方の兄上は少々、井の中の蛙過ぎる。自分が何者と話そうとしているのかも理解しないまま、頭ごなしの命令。辺境という狭い地域でしか役に立たない領主補佐という身分、さらに貴族子爵という爵位称号のみで、その空威張りは滑稽でしかありません」
「な、なんだと……私が領主補佐という肩書きだけではない所を……見せてくれよう?」
「どうぞ? その代わり……抜いたら殺される覚悟で来いよ?」
……ちょっと機嫌がさ。悪かったのさ。だって、ここへの道中、色々考えてたんだけど……あの……その……そもそもさ……
現状、カンパルラから離れちゃったからね。シロと会話は出来ない。だからなおさら焦る。
シロが文句とか、反対意見を言ってこなかったのを考えれば、多分、大丈夫だと思うんだけど……正直、敵の強さがどれくらいなのか判らないと、作戦というか、計画も立てられない。
アレでしょ、状況によってはレベル上げとかしないとだろうし。
「
俺が有りで考えた場合、城砦都市が生き残るのは何%なのかすぐに確認しないとダメでしょ……ね。そうでしょ? 俺よ。
そんなモヤモヤを抱えたまま馬車に乗ってしまったので、移動中、嫌な予想を考えまくってしまったのだ。
ということで、機嫌が悪かった。特に、シロと連絡取れない
せいで答えがね。出ないからさ。どんどん貯まってた所に……いきなり上から命令だったからさ……。
剣に手を置いたまま……イケメンオールバック兄がこちらを睨み付けている。
あ。そうか。そういうことか。この人、弟のことが心配なのか。明らかに人の良い弟が大胆な詐欺師に騙されてここまでつれて来ている……っていう感じか。
「と、思いましたが~まあ、ここは。ディーベルス様に免じてこちらが「折れ」ましょう。最初から揉めるのは本意ではありません。まあ、これで対等な立場での交渉では無くなりましたから、「貸しひとつ」ということになります。よろしいですね?」
「なっ!」
「くくく……兄上。負けです。サノブ殿が言いたいのは……もしも、彼が、他国の王族、皇族であればその物言いはいかがなものかということです」
「だが、報告では行商人、錬金術士と」
「その報告がどこまで真相に迫っているか? ということです。兄上自身が確認されたわけではありますまい? 現実問題として、サノブ殿と面会したのは今が初めてなのですから。ちなみに、私がサノブ殿に「殿」と付けているのは、私から付けさせて欲しいとお願いしたからです。最初は普通の平民の様に……と言われました」
この辺、引かないのよねぇ……ディーベルス様は。
「ええまあ、結果として私は行商人で有り、錬金術士ですから、問題はないのですが……ですが、貴族たる者……初見で自分が測りきれない相手に対して勇んで出てしまうと、このように足元をすくわれる可能性もあると覚えておいてくだされば。領主補佐閣下」
ふう……と息を吐きながら、兄上が椅子に腰を下ろした。
「……ああ。覚えておこう。それで……サノブ殿。貴殿は何者だ? ここまでで、弟が……師のように慕っているのは判った。こう言ってはなんだが……弟は公明正大を具現化したかの様な人間だ。それは貴種が貴種たらんと胸を張るリドリス家の象徴と言っても良い。ただ。この国だけでなく、貴族の社会は一筋縄ではいかぬ。綺麗事では立ちゆかぬ。時に、濁った水をあえて飲み込まねばならぬ。それが現実だ。そのため、ディーベルスには一番中央の力及ばぬ地で、「好き勝手に」させていたのだ。それが一番リドリスのためにもなると考えての事だがな」
と……ディーベルス様が兄上を睨んでいる。
「ああ、私はこのリドリス領の領主補佐、ドノバン・ベアロ・リドリス子爵だ。ここにいるディーベルスの兄だ」
ディーベルス様が笑顔になった。
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