232:領都リドリス
領都は大きさが数倍なだけで、カンパルラと外見的には大した違いは見られなかった。
「外壁の数が違うのだよ。カンパルラの外側に外壁が……三つ建造できれば領都と同じ規模になるな」
領都への移動は緊急で丸々一日。馬車利用だ。今回、領主専用の特急便を使うそうで、途中の中継所で、馬を変えて約10時間ノンストップで爆走する。
馬車というと想像するのは時速20㎞程度。自転車くらいの速度だろうか? それで一日五時間程度進むので、約120㎞ということになる。
このマール馬車はその辺が大きく違う。ガソリン自動車程度のスピード……しかも40㎞ではなく、60㎞くらいは出ている気がする。
特急便なので、時速60㎞×十時間だ。600㎞……か。東京からだと広島くらいだろうか? 結構あるよな……。
マールという馬と牛の中間の毛の長い力強いロバの様な生き物は非常に足腰が強いらしい。
箱車を轢かせてこのスピードを維持するのだからとんでもないよな。
荷運び様の小型なモノから、戦闘様の大型まで、様々な種類が存在するそうだ。
ちなみにこのスピードなので……事故も多いようだ。
翻訳能力に、馬というとマールの事を指している……と理解させられる。馬なのかマールなのかちょっとハッキリして欲しい気もするけど、まあ、でも、いいか……。
で。当然、そのスピードに合わせて箱車はそれなりに工夫が為されていて、魔物素材を使用した、ショックアブソーバー、衝撃緩和システムが採用されていた。これによって、馬車の乗り心地はそこまで悪くない。
ちなみに道はそれなりに舗装された土の道だ。アスファルトとか古代コンクリとかは使用されていない。されていないが、過去に数度、土の魔術を使える魔術士によって、固められているらしい。
ここでも過去の偉業が未だに生き抜いている。ってでも、劣化している箇所も何個かあったので、本来なら修復が必要なんだろうけど……手が足りていないようだ。
土の魔術……俺が【大地操作】でパパッと修正しちゃえば早いんだけどね。それをやってしまうと、今後、俺がいなくなってから絶対に困ることになるし、目立っちゃうので×だ。
生活に関係している問題は、ちゃんと継続して対応出来るシステムを作らないとだし。
ということで、早朝。日の出と共にカンパルラを出発したのだが、午後四時くらいには到着してしまった。
カンパルラと同じ作りで(大きさは大体二倍程度だが)……領都リドリスの……中央の城が領の役場であり、領主一族の居館だった。
ちなみに、この居館まで一切誰何や咎められることなく到着している。ディーベルス様の顔バスってヤツだ。
ディーベルス様は、領主一族の中で最も、領の役人や住人達に慕われている。そうだ。宿屋の料理人、ハルバスさんが言っていた。
まあ、職場的にそうならざるを得ない感じだったということかな。
「王都からこちらに移動してすぐは、領都の役場で仕事を教わったからね。その際に領都中の現実問題に直面したよ。食事の出来ない子供達が多かったから」
貧民窟ではないが、領都レベルの大きさになると、貧しい者達が暮らすエリアが存在する。そこには少なからず、親を亡くした子供達がいて、貧しさから犯罪行為に手を出す者が多かったそうだ。
「なので、彼らに都市内の清掃をさせるようにしたんだ。小さい子どもに酷かもしれないが、給金を出すにはそうするしか無かった。カンパルラも同じシステムを取り入れているよ」
お、おう……カンパルラで感じた清潔感は、この人の施政によるものだったのか。うむうむ。素晴らしい。
「素晴らしいと思います。仕組みとしてもよく出来ているし……ということは、他の城砦都市は匂いとか酷い感じですか?」
「ああ……特に王都は酷い。規模が違い過ぎるからかもしれないが、【浄化】システムも「城」と「上」「中」地域にしかないからな。そもそも、「外」の地域が広すぎる。私はあの臭いが常にしているだけで、心だけでなく、身体も病むと思うのだが……」
……凄いな……この人……独自路線で汚物からの感染症などの可能性に気付いてるのか……。
「確かに……。その考えは正しいです。というか、汚物から発生する微細な粒子は人体に悪影響を与えます。伝染病も多いのではありませんか?」
「ああ……多い。特に王都だけでなく、都市の「外」地域は毎年冬になると多くの死傷者が出る。凍死者と餓死者……の根本は病死者だという。まずは病気になった者が、働けなくなり、餓死あるいは凍死する。両方の理由で死亡者が跳ね上がる」
そりゃそうだよね……。負の連鎖は、現代社会でも大きな問題になっていた。
「さらに新興の城砦都市も酷いな。あちらは、【浄化】システムが用意出来ない場合も多いのでな。そうか……やはり病に関係していたのか……」
あー新しい【浄化】システムって開発されてないみたいだしなぁ。新規で作られた城砦都市(ひとつだけだそうだ)は厳しそうだ……。
「王や領主、その土地を司る者達は尽く、「城」「上」の地域に暮らしている。ずっとそこに居ては、庶民の暮らしは判らんのだよ……これは、王都の役場に居た頃も何度か提案したのだが……」
「尽く突き返されましたか」
「ああ。なので、私は国政ではなく、領政に関わることにしたんだ。規模が大きいと、小回りが効かなくなる」
「領政なら……邪魔も入らないですしね」
「ああ。そうだな。領主の血族というのを便利に使わせてもらったよ」
それにしても……こないだの御嬢様の病気からも判るのだが、この世界の病気は俺の知ってる病気情報とは微妙に違っている。
なので、向こうの世界の医療常識がそのまま通用するのか怪しんでかからないと……と思っている。
微妙に違う、ほとんど合っている……っていうのが、何か大きな判断ミスを犯しかねない気がする。
とりあえず、御嬢様が完治した……と思われた際に、関係者全員に薬は飲ませてある。でも、あの病気がもしも、向こうの世界の結核とか、肺炎とかであれば、あの屋敷関係者全員に感染していても、おかしく無いんだよなぁ……。
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