231:いつよ?

「いつ? 狂乱敗走スタンピードはいつ発生する?」


「詳細は……もう少々測定を重ねなければなりません……が。半年から一年以内と」


「広いな……」


「申し訳ありません。この計測結果も、街灯設置による情報収集開始後、すぐに計算を開始したのですが……答えが出たのは先ほどでしたので」


 ま、まあ、そりゃそうか……シロを責めたってしょうがない。そもそも、これ、普通なら知り得ない情報だもんな。


「シロ……今回さ、俺がこっちの世界に来たから狂乱敗走スタンピードが発生するわけじゃない?」


「はい」


「女神は……どう考えてるの?」


「?」


「だって、死ぬのは彼女の世界の住人でしょう?」


「ああ……あの……その。女神は、「神」であられます。ですので、この地に住む人間達、動物達、魔物達、全てに平等です」


「うん。なので?」


「ですから、些少なことにはあまり、かかずらわないかと……」


「あー。人間が多少死んでも~別に~っていう?」


「はい」


 それにしては、俺に色々としてくれた気がするんだけど……。


迷宮創造主マスターは寵愛を受けている状態だと思っていただければ……」


「直接、話したり手紙でやりとりしているし?」


「はい。あれはそうとうとんでもないことなのです」


「そっか……」


「まあ、神は自分の生み出した世界の人間に対しては遍く平等ですが、自分の力の範囲外からの助力に関しては、非常に敏感です。迷宮創造主マスターにこのダンジョンシステムを託した時点で、女神には借りが発生しています。「神が自分では出来ないこと」を「貸し借り」するのは非常に重い契約なのです」


「うーん……」


 まあ、そういうことか。そういうことなんだろう。だが。知ってしまったら、それを無視することは……出来ないよなぁ。


「シロ……少なくとも「俺」が原因で発生すると思われる狂乱敗走スタンピードは、「俺」が食い止める。そのための情報収集、対応を最優先で行ってくれ」


「はい……了解致しました」


 んじゃ、まあ、まずは……。


 小型ランタンの在庫は既に二万を超えている。すでに人口よりも多いんだから十分だろ。

 街灯はメンテナンスフリーだから大丈夫なはずだ。

 戸籍管理のシステム、データベースも簡単な作りだからか、不具合は生じていない。


 これで夜光都市、領役場関係は、しばらくは問題無いハズだ。


 グロウス様用の品物もそれなりに整えた。


 小型ではなく、通常のランタン。これを既に二千ほど納入した。さらに、香辛料も在庫はバッチリだ。あまり大量に納入しても湿気っちゃう可能性もある。

 そもそも、異世界に来る際に、香辛料は大量に仕入れている。別に高額で売りさばけなくても、品質のみで商売になると思ったので、備蓄しておいたのだ。購入先は前職の関係上いくらでも伝手があったからね。


「とりあえず……これ以上の企画の進行はちょっと置いとこう」


「まだ……これ以上考えていらっしゃったんですか?」


「やりたいことはまだまだあるよー。排水機構を調べて【浄化】の謎に迫りたいし、フランカ商会の新商品もじゃんじゃん提案していきたいし、カンパルラ城砦都市の施策もまだまだやりたいし、冒険者としても活動してみたいし……」


ゴンゴン。


 工房のドアに付いている、鉄の輪っかが、重く打ち鳴らされた。なんていうか、ビクッとしちゃうな。慣れない。


 ドアの裏側に近付いて、声を掛ける。


「はい」


「サノブ様、ディーベルス様がお呼びです」


「判りました。すぐに行きます」


 現在の生活拠点は、この工房だ。完全一人暮らしで、久々に自由を満喫している。ってまあ、ダンジョンに籠もっていた時と一緒なんだけどね。


 ディーベルス様は用があるとこうして使いを出してくれる。電話とかメールじゃなくて、人力なんだよなぁ~。

 使用人も若干だけど雇い入れたりして、経済状態が上向きなのが判る。


「参上しました」


「……来たよ。ほら。早々に。もの凄く「早く説明しろよ」感が溢れている手紙が」


 ディーベルス様が机に、結構分厚い手紙を放り投げた。まあ、うん、そりゃそうなるよね。下手に王都とかで話題になる前に、ちゃんと把握してないと大問題になりそうだし。


「さすがですね。対応が早い」


「うちの兄は優秀だからね。一見武闘派の振りをして、この辺の「権威の匂い」や「金の匂い」には敏感なのだよ。私と同じようにはいかないと思っておいた方がいい。父であれば……さらに……だ」


「はい。では、早急に?」


「兄に全てを話して、一気に怒られてしまおう」


「いえいえ、全てはお家の利益に、さらには、領全体の利益になるのですから問題は無いかと」


「ああ。そうだな……そうなんだけどな。やり過ぎ……だとは思わないか?」


「どの辺が?」


「……いや、いい。確かに、戸籍の管理は今後非常に役に立ってくれそうだし、既に地下組織の全体像すら浮かび上がってきているからな……」


「はい。戸籍と共に税の細かい管理ができれば……困っている人に対応も出来ます」


「そうなのだよな。不正を正すばかりでなく、弱者の救済にも役立つのはありがたい。私の……理想の一つだった。感謝しているよ」


「それは良かった」


「私を含め現場は地獄を見ているけれどな……」


 そりゃそうですよね……。夜光都市への問い合わせ、街灯への問い合わせ、さらには……小型ランタンの配付。

 一般的にはもう、ただただ、小型ランタンが貰えるお得イベントとして認識されている。魔力登録したり、小型ランタンの使い方説明で、個人認証しているよとか、そういう細かい説明もしているんだけどね。

 

 まあ、それらを全て、ディーベルス様指揮の元、領役場の方々にがんばってもらった。さらに登録時の聞き取りで「手の空いている領民」を抽出。臨時で雇い入れるアルバイトシステムも導入し、なんとか乗り切った。


 それにしてもお疲れの御様子。


「一本いっておきます?」


 初級精力回復薬を机に置いた。向こうの世界のドリンク剤よりも性能良いよ? 

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