228:ランタン配りおじさん

「本当にもらえるのかよ?」


「ああ、この都市に住んでるなら平民でもいいんだってよ」


 とんでもない噂になってるな。まあ、そりゃそうか。城砦都市カンパルラの住民であれば、尽く、全てに、小型ランタンの魔道具が配られる。ことにした。


 小型とはいえ、性能は俺がこれまでディーベルス様達に見せてきたランタンとそう変わらない。というか、既にランタンの魔道具も進化している……。


 これまでのランタンの性能がとんでもなく高くなっている。主に連続点灯時間の点で。これは、街灯に標準装備している集魔装置の小型版を付け加えたからだ。

 これにより、最大光量で最低でもかなりの長時間……多分、一カ月以上……は輝き続けるだろう。というか、魔石に残っていた魔力から考えると、その数十倍……多分、三年くらいは余裕で光っていそう。ただ、純粋に魔道回路の方が保たないのではないか? とシロが言っていた。


 で。それをさらに小型簡略化して、集魔装置を付けていないのが小型ランタン(名前通り)の魔道具だ。


 外見はちょっと丸みを帯びた長さ十センチ、直径二センチくらいのサイリウムだ。その両端を金具で挟んで、ナスカンが噛ませられる様になっている。


 うーんと。某ロボットアニメのシズマ〇ライブの小さいヤツだな。これ。


 これが光る。とんでもなく光る。それこそ、天井から紐をぶら下げて、そこにこれを引っかければ、昭和映画なんかで見たことのあるぶら下げ式の照明、白熱灯だ。100Wの電球よりも遙かに明るい。

 なんていうか……光量だけじゃなくて、光が広がる範囲が広いのだ。


 それこそ、これ一つで、最初に宿泊したフジャ亭の部屋くらいの広さならもれなく隅々まで明るくなる。


 性能は前のと変わらず、小型になった分、持続時間が落ちている感じかな。


 というか、わざと、大体……一年間(計測値なので多分)の使用で光らなくなるように調整した。日が落ちて使用して一年なので、常時使用すると、当然半年で使用不可能になる。


 さらに洞窟やダンジョンなど、この小型ランタンを都市外に持ち出した場合、約一カ月で点灯しなくなる。こちらはそういうリミッターを付加した。


 これは魔石交換式ではなくて、魔力充電式にした結果でもある。

 魔石交換が出来ない代わりに、再充電が可能なのだが、魔石があっても、専用充電器じゃないと充電できない。


 一年に一回の再充電は無料。それ以上は有料となっている。


 で。この小型ランタンを……「住民登録」を行った者にはもれなくプレゼントしている。そりゃさきほどの様に、都市中で話題になるのは当たり前だろう。


 まあ、だけど。当然ながら、この小型ランタンは……餌だ。


 獣脂のランプで生活していたのが、いきなり、灯りの魔道具を無料で貰えるとなると、住民は飛びついたし、それ以外の者達も飛びつく。


 だが。この小型ランタン。非常にくせ者なのだ。

 

 第一に。この小型ランタンは魔力登録型だ。つまり、登録した魔力でしか点灯しない。なので、魔力の登録が必須となる。本人以外には使用出来ない=転売しても、本人以外は点灯不可能ということになる。


 第二に。この小型ランタンに本人の魔力を登録する際に、俺の新規開発した魔道具「魔力認証データベース」にも登録される。


 形は……石版。アレですよ、


 そもそも。過去のほぼ全ての魔道具は魔力認証システムで、個人にイニシャライズされるようになっている。

 現在、貴族階級で一般的に使われている、家電系魔道具の様に、誰が押してもスイッチが入る汎用の魔道具は少なかった様だ。


 で。ランタンをもらうためにやって来た住民達は、書面にサインさせられ、魔力を登録する。で、そのついでに、データベースにも登録される。名前も、劣化鑑定石で判明し自動で登録されるので、偽名は使えない。まず、ここで第一審査だ。


 第三に。公開していないが、小型ランタンには子供用、奴隷用、不審者用が存在する。

 シロの指示で、魔力アンテナを都市全域に張り巡らせた。まあ、もうお判りだろう。


 街灯だ。


 アレには携帯の基地局の様な機能を持つ装置も装備させている(副産物で、これによって、都市内なら俺とシロか即連絡が取れるようになった)。

 

 子供用、奴隷用、不審者用の特殊小型ランタンから、様々な信号が送られてくる。

 この辺はHPの緊急上下等が一番のキモになっている。

 で、これはなんかヤバいんじゃ? と判断されると、警告と共に危険に晒されている個人が提示される。その場合、直ぐに役所から人が派遣されて保護される様にした。


 ちなみに、この都市以外の者がランタン欲しさに登録した場合。正直、ある程度の調査は入るが、現状の戸籍制度では厳密には精査できない。なので、もれなく小型ランタンをゲット出来てしまう。身元確認出来ていないだろうから、不審者用かもしれないが。


 多分、そんなヤツは小型ランタンを誰かに売り払い、地元に帰る……のかもしれない。それこそ、地下組織の人間に脅されて……なんて場合もあるだろう。

  

 小型ランタンをゲットして即、都市を離れるのは冒険者や行商人、地下組織の人間ぐらいだろう……ということで、その辺のチェックは厳重になっている。まあ、抜け道は……どこかにあるだろうけどね。


 って……ごめん。やり過ぎた。ちょっと複雑にしすぎた。と。ディーベルス様には頭を下げておいた。


「……悪い事ではないんだ。ああ。悪くない。というか、私も代官とはいえ、為政者の一人だ。この都市で生活する者達が安心して暮らして行けるような状態にしなければならない。良い都市だという噂が流れれば、人が集まり、それは力となる。ここは辺境でも一番端で、何か事があればすぐに人口が減少する。夜光城も教会も、アレを目当てでここに訪れる様になれば……と思うしな」


 そうだね……急すぎるね……。この手の生活密着系の行政改革は時間をかけて不具合を修正しつつじっくりと……それこそ数年単位で進めて行かないとですよね……。

 

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