227:すすんで灯りを付けましょう

 まずは。判りやすく、城砦都市カンパルラの夜を明るくする事にした。


 街灯型ランタンを壁内に設置していく。【大地操作】はここでも大活躍だ。


「サノブ殿、これは……」


「ああ、結界の魔道具で街灯自体に触れなくしてあります。強力に固めてありますから、盗まれる事はありませんよ」


「いや、そういうことではな……そうなのか……」


「これと同じモノを「城」から設置していきます。ああ、そもそも通常、城には誰が?」


「基本領主の居館……父はここを本拠地にしているわけではないから別宅扱いになるのか。特に有事の際に指揮を執る為に使用できるように、守備兵と使用人達が手入れをしている」


「なんて無駄な」


「言うな。一定以上の大きさの城砦都市では、それが当たり前だ。まあ、あの建物の半分は都市役場だ。私の仕事場もあそこにある。なのでそこまで遊ばせてはいないのだよ」


 まあ、そりゃそうか。城は役場、役所か。


「それに、もしも他の貴族の訪問を受けた場合、適切な応接施設が無いと、舐められるからな」


 ああ、そういう意味なら、装飾をパワーアップと言うことで。


「夜光城、明るい城って良くないですか?」


「良いとかそうでないとかじゃなく……こんなものは見たことも聞いたことも……」


 なので、ちょっと調子に乗った。某おとぎの国のお城宜しく、思い切りライトアップしてやった。


 残念なのは城、城と言っているが実際の所は他の城砦都市の建造物と同じ、四角い館だ。違いは物見塔が付いているのと、巨大な位だろうか。


 ついでにその隣で寂れていた教会も【大地操作】で外壁などを修復し、ライトアップだ。教会は唯一神である女神を奉っているということだったので、多分、俺の知っている女神様かな? と、サービスしておいた。

 どこの映えスポットだよって位、明るいし、特別仕様でピンスポもかましておいた。


「お、おお……」


 夜になると、都市中央の「光る」城と教会に向かって祈りを捧げる人が増えているらしい。女神に対する信仰心が高まるのは良いことだ。


 実は、検証時間が無くて成功しているか判らないが、この街灯やイルミネーション、スポットライト等には、ソーラーパネルの様な、魔力吸収装置……を付け加えてある。


 シロが言うには、この都市周辺は深淵の森の影響で、魔力が非常に濃いらしい。なので、大気中の魔力を吸収し、それを灯りに変換する装置を付け加えてある。正直、効率的にそれほど良い……とは思えない、非常に微量な集魔能力なのだが……灯りの応力として使用している魔石を充電ならぬ充魔できることは判っている。


 まあ、発光能力が下がってきたら、魔石を補充すれば良いだけなんだけどね。都市中に設置したし、イルミネーションなんて幾つ使用したか判らないくらい使用しているから……うん。付けといて良かった。


 と。まず、なんでこれをやったかと言えば。カンパルラは城砦都市だけあって、暗いのだ。というか、この世界の都市はほぼ城砦都市らしいので、壁に囲まれ、土地が限られている。建物も狭く密集しており、そのため日陰が多くなる。

 つまりここでの生活は昼間でも、全体的に薄暗い場合が多い……ということになる。


 それを少しでも解消したかったのだ。


 それと、レベル上げのために無駄に入手したゴーレムのドロップアイテム、素材。ほぼそれのみで作成可能だったというのも大きい。ランタンの魔道具なんて、素材量も異常に少ない。


迷宮創造主マスターが少々おかしいだけです」


 らしいのだが、分担制手工業的な考え方でパーツを製作し、それを組み合わせていくのもベルトコンベアーな思考で行っていたら、スゴく制作量が増えた。


 スキルで【量産】なんていうのを覚えたのかと思ったくらい、あっという間に千や二千の在庫が積み重なっていく。


 素晴らしい。


 俺がグロウス様に、千個なんていう大口叩けたのも、ランタンの魔道具の量産能力に自信があったからだ。


 さて。そんなグロウス様との契約だが。条件を付けておいた。


「香辛料と、魔道具の、この都市以外の一般庶民への販売をグロウス様にお任せする」


 多分、グロウス様は「フランカ商会の店頭では俺の持っている商品全てを売るため」にそういう理由になっていると思っているはずだ。


 実はそうではない。


「そんなことは……通常であればあり得ない……ぞ?」


「ええ。だからこそいいんじゃないですか」

 

「……まあ、確かに入手出来る情報は非常に有益だと思うが……」

 

 カンパルラの人口は約二万人。この国の都市としては多いらしい。が。巨大都市国家であるところの日本出身者としては、人口二万人なんてそれほど大した事は無い。

 ニュースの切り口によっては、人口減少をどうのとか、そんな題材になってしまうくらいの数だったハズだ。


 そんな二万人都市であるにも関わらず、詳細な戸籍が存在していない。そもそも、作っていないのだ。

 代官であるディーベルス様に都市人口の内訳や詳細を確認していた際に判明した。


 そんなズボラで税金はどうしているのか? と言えば、まあ、大事になるのは身元証明書だ。俺がこの都市に着いて真っ先に入手した商人ギルド会員証や、冒険者カードなんかが、その人の全てとなるのだ。


 これらの身元証明書は年に一回更新される。維持していくことが、納税証明となる。

 まあ、当然、都市の居住証明書というのもあるが、これは都市から都市への移住とか、各種ギルドを引退した年長者が発行してもらうことになる物で、発行の際に「以前自分が使用してた証明書」が必要になる。

 

 まあ、番号制度で管理されている向こうの社会ですら、戸籍やパスポートなんていう各種証明書の偽造は存在する。こちらの証明書はその辺さらに中途半端だ。当然……まあ、うん、色々と偽っている者が普通に生活している。


 これを改善していかないと、真っ当な税収は望めないわけだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る