226:同級生

 ディーベルス様とグロウス・マートマンズ支部長は同級生だった。さらに、今ココには居ないが、冒険者ギルドのギルドマスター、ゲルク・フレーム様も。だ。


 え、ええええええええ!


 同い年? 揃わん。明らかに商会長だけ貫禄がありすぎる。全員……い、いくつなのよ……。


「ディーベルス……それは無いだろう。サノブ殿は「私」が丁重にもてなして、ここに定住してもらおうと、時間をかけて、嫌な思いをしないように……と手を回して……いたところだったのに!」


 王都のフェイラーム王立学院の同学年、学生寮で同部屋。それ以来の親友だという。ちなみに寮は四人部屋で、ディーベルス様、支部長、ギルドマスター、そしてもう一人。この四人は貴族の爵位、身分を越えた関係なんだそうだ。


 人前ではアレだが、こうした密室での打ち合わせなんかではすっかりと本性というか、素のままの砕けた口調になるらしい。


「しかたないだろ、グロウス。こちらは本当に助けられただけなのだから。今回の申し出だって、全てサノブ殿からだよ……。俺が望んだのは、適当な対価を受け取って欲しい、請求して欲しいとお願いしただけで」


「まあ、そうなんだか。さらに言えばお前が嘘を吐くとも思えん。だから、どうにもならんのだが……だが、かっさらっていかれた様で納得いかん!」


 まあ、その気持ちは判る。うんうん。


「それこそだ。つい昨日、サノブ殿から仕入れた香辛料を売りさばく予定の……さる御方から返信が届いた。予約が取れたので明日にも王都へ向かう所だったのだ。ほら! 私はこんなにサノブ殿のために動こうとしているだろう?」


「くくく。それは、売値に自分の儲けを加えていない者の言うべき言葉だな。その辺ちゃんと仕込んでいるのだろう?」


「それは当たり前だろう! それはそれ、これはこれ、だ」


 まあ、うん、支部長の言う事は間違ってない。そこで儲けを加えていないと、俺は今後もお願い出来なくなってしまう。


「さて。ディーベルス様、グロウス様の言い分にも一理ございます。支部長様は、初めて訪れたこの都市で、身元身分の不確かな自分を好意的に扱ってくださいました。これは行商人として考えると非常に重く恩を感じねばならない部分です」


「ほら! そうだろう? さすがサノブ殿はわかってる。商人の基礎、イロハのイだ。私は君の為人を確認するべく、遠巻きに、あまりしつこくして嫌悪感を抱かれたりしないようにと注意しながら、状態などにも十二分に配慮した上で、カンパルラに長期で滞在してもらおうと頑張っていたのだ」


「まあそれは当たり前じゃないのか?」


 ディーベルス様はもう少し現場を知った方がいいんだろうな~。


「しがない行商人は、ちょっとした不具合で門前払いもあるのですよ……」


 人相が良くない……なんて理由で、門番に追い返されることもあるそうだ。


「まあ、確かに一理くらいはあるか……」


 支部長はうんうん、と頷いている。確かに……なんか、挙動が若い……な。外見は完全に五十代なんだけど……。


「ポーションは……話を聞けば聞くほど、将来的に国外への輸出が規制される可能性が高いかと思います。なのでディーベルス様が管理監督した方が良いでしょう。ですから、香辛料と魔道具の、この都市以外の一般庶民への販売をグロウス様にお任せしたらどうでしょうか?」


「ん?」


「そうか……そうだな。普通に考えてうちの商会ででは手に余るからな」


 支部長は理解出来ていない様だ。まあ……まだ、彼は俺のポーションすら見ていない、飲んでいないからな。

 いくら、ディーベルス様に娘を助けられたと言われてもピン来ないよな。


 ディーベルス様は、親友である彼らにも娘さんの症状の詳細を明かしていなかったし、相談もしていなかったという。まあ、両親にも言ってなかったんだからしょうがないか。


 なので、ポーションの性能差なんかも伝わらないし判らない。

 最初の頃は、娘さんが傷物になってしまう……というのもあったのかもしれない。長時間の病床生活は婚活に大きく影響する。この世界は十五~二十歳くらいの若年結婚が主流の様だし。


「グロウス様、私が生み出せるモノをどの程度把握しておられますか?」


「い、いや……こないだ、小さなゴーレムを見せてもらったからな。錬金術師だということが嘘だとは思っていないが……どれほどのものが、というのは……」


「ディーベルス様?」


「あ、ああ。グロウス、フランカ商会のメイン商材は……多分、ポーションになる」


「ん? 魔道具や香辛料ではなく……か?」


「……それもなのだが……いや、私もその辺に関しては……」


「グロウス様。まず、グロウス様には、香辛料の販売、こちらをお任せしたいと思います。最初のうちは私が搬入しますが、将来的に、カンパルラ近郊に香辛料農園を作って、そこから供給できればと」


「お、そ、そうなのかね?」


「そして……」


 LEDランタンの魔道具を出した。このディーベルス様の執務室には既に常時設置になっていたのだが、このために隠しておいたのだ。


「これは……」


「私の作った新しい灯りの魔道具です。この部分を通常の灯りの魔道具と同じ様に、点けてみてください」


「ああ……」


 何気なく触ったスイッチ。灯りが点く。一気に部屋が明るくなる。


「うわっ! こ、これは……」


「くくく。まあ、そうなるな」


「これは……部屋中が明るい……」


「ええ。今はかなり明るめで点くようになっています。が。こうして……」


「お、おお! 暗く……なった! あ、明るさが調整……できるのか、これは!」


 どうぞ……と頷きながらスイッチから指を離す。


 グロウス様が恐る恐るそこを触る。


「触りながら、明るく、暗く、と考えるだけです」


「あ、ああ。おう……これはスゴイ……な」


「スゴイだろう?」


 ディーベルス様がどや顔だ。


「くくく。今のディーベルス様と同じ気持ちを他の貴族の方に味わっていただくため……この部分は、フランカ商会が担います。ですが、実利の部分。そちらをグロウス様に」


 ハッとした顔でこちらを見るグロウス様。俺が言っている事の意味がやっと理解出来た……という顔だ。


「判った。これを幾つ用意出来る?」


「グロウス様にお渡しするランタン……ああ、この魔道具の名前ですが、ランタンです。このランタンを庶民用にしたものを……そうですね。グロウス様が王都より戻るのはいつですか?」


「そうだな……十日はかからない」


「それでは二十日後までに……千は用意しましょう。まずはそれでいかがですか? 売り出すのは……貴族の方々にある程度知れて、売れてからとなりますが」


「問題無い、どころか……千か……それを貴族以外に、か」


「はい。貴族はこちらで押さえさせていただきます」


「だから実利……か。うむ。判った。ではそれで」


 この後、スゴイ早さで契約は成立した。


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