221:回復の兆し
そんな会話に起こされてしまったのか、クーリア様が眼を開けて、首をこちらに向けた。
「おはよう……ございま、す。マイア……お父様……!」
当然の様にここにいた、俺という異物の存在に気がついて、慌てて、自分の服装を正した。そんなに乱れてなかったけどね。
「こ、今回はありがとうございました。錬金術師様……ですね。このような姿勢で申し訳ありません」
「いえいえ、もう、そんなに喋れるようにもなったのですね。良かった」
と言った端から、ディーベルス様が号泣していた。釣られてか、マイアもグスグス言い始めた。
まあ、そうか…数日前は喋るどころか、身動き出来ず、あんな……発作というか、痙攣して「身体ズタボロ状態」だったんだから。
俺もこんな短時間でここまで復活出来ると思ってなかったなぁ~。
「目覚められたのなら……少々お身体を診察させていただいてよろしいですか?」
「はい……」
まあ、恥ずかしいよね。そりゃね。
それにしても回復してきたからか、生気が蘇って来たからか……お綺麗なお姫様だ。
長く黒い髪は、弱めにウェーブが掛かっている。鼻筋が通っていて、目も大きい。比率的によく出来た人形の様な。目の色は黒、かな? 焦げ茶? こうして見ると10歳児には見えない……大人びている。貴族だからかな?
って。あ。なんか明るいな……と思ったら、この部屋の端でLEDランタンが光を放っていた。……持ち帰るの忘れてたや……。なんとなくだけど……やべ。
無造作にクーリア様に近付く。
「慣れないでしょうが、診察のためです。お許しください」
「はぃ、いえ……あの……」
でも、大丈夫。俺はもう、貴方が鬼畜変化して最後の呪いでも仕掛けるかのような形相までして歯ぎしりを繰り返すところをキチンと見ちゃってますから。もう今さらなのよ?
とはいえ、胸をはだけて……っていうのは慣れてないだろうから、腕を取り、袖をめくって、肌の調子を確認する。
「毒素……斑点はもう、消えましたね。良かった。咳の……頻度は、一日にどれくらい咳が出てますか?」
「数時間で一、二回でしょうか? これまでなら数十回、そして血も吐いていたのが嘘のようです」
「発作的なモノは」
「ございません。お父様、ございませんでしたよね?」
「ああ、私が見ている時は無かったし、全員に聞いたが、落ち着いたモノだとみんなが言っていた。咳はクーリアが自分自身で判っているくらいしかしていないハズだよ」
なら……本来はもう、このまま、体力回復薬と精力回復薬でどうにかなるのかな? いや……油断は禁物か。
「では。予定通り、その咳の病を治療してしまいましょう。完治させる……というのはなかなか難しい、時間がかかるとは思いますが、少なくとも動いて通常の生活が送れるようになるかと」
そして、さきほど作った「中級細菌除去剤」を取り出した。
「こちらをこれまでと同じ様にお飲みください」
洗ったのか、マイアが吸い飲みを手渡してくれた。そこに、半分ほど開けた。
うん。良い香りだ。
主成分は茸から抽出されているにも関わらず、あまり甘くないスポーツドリンク的味になっている。ちょっと生姜っポイ味もするというか。不思議。
マイアが口元に吸い飲みを持っていくと、クーリア様は自力でそれを持って飲み始めた。
「おお。もう、既にここまで回復なさいましたか」
「……あの、錬金術師様、」
「サノブとお呼びください」
「では、サノブ様……あの。私が飲んでいるのは本当にポーションなのでしょうか?」
渡した吸い飲みにあった「中級細菌除去剤」は全部飲み干したようだ。早い。「体力回復薬」が体内から癒やしてるのかもしれないな。
「はい、そうですが……」
「私は……その……この身体が悪く成り始めた頃、ポーションの苦い、あの味がどうしても我慢出来ずに……数回、飲まずに捨ててしまったことがあるのです。寝込んでしまい、体が動かなくなってからは「アレを飲まなかったからここまで身体が弱ってしまったのだ」と後悔し続ける日々でございました。ですが。サノブ様に飲ませていただいたポーションは……美味しくて。これまで飲んだ、どのような飲み物よりも美味しくて。これが……その、同じモノだとはどうしても思えなくて」
「……それは錬金術師にとって非常に名誉なお褒めの言葉にございます。昔からよく言われてております。錬金術師の腕は、ポーションの味で判ると。私の未熟な腕をそこまで気に入っていただけたのであれば、とても嬉しく思います」
ちゅーか、今この都市で買えるポーション=劣化体力回復薬がマズすぎるんだよな……。
「さて。クーリア様。胸で感じていた苦しみはいかほどのものでしょう?」
「は……あ? あれ? え? お……お父様……あの、わ、私……苦しくないの。息をしていても喉から胸がゲホゲホして常に苦しかったのに……何かが胸に……重しの様な何かが胸にそれが……無くなって……く、くるしく……な……」
最後は涙で聞こえなかった。
「クーリア……そうか……そうか」
ディーベルス様がベッドサイドに近寄って抱きしめる。うん。絵になるねぇ。さすがだ。
「わ。わた、私、奥様を!」
ああ、そうだね。奥方様……フラン様にもこの喜びを味あわせてあげないとだしね。
マイアさんはなかなか気が利く……というか、ハルバスさん、女将さん。一家揃って優秀だよね。さりげなく。
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