220:家族のために
システムの迷宮機能集中総操作室拡張伍で開放されたのは、うーんと、これまで1DKだったのが、1LDKになった……って感じ?
そもそもリビングダイニングってなんだか判らないし。
まあ、ともかく。これまで、ドア開けて入って、すぐに、小さいキッチン兼食堂、寝室って感じだった。その食堂部分がちょい広がったのかな。いや、かなり広がったな。
現状、寝られる倉庫なんだけどね。ここ。実家の大切な荷物をかなり持ち込んでいるから。結界で固めているにしてもちょっと怖いじゃ無い? 離れてるの。
広がったのは良いことですな。うん。ということでこれ以上はもう、放置。何か隠し要素とかあるかもだけど、検証なんかは放置。ありがたい、ありがたい。
久々に寝心地の良い自分のベッドに横になって仮眠を取った。熟睡。
「他の新レシピとかも気になるけど、ちと行ってくるわ」
当然、急ぎではあったのだけれど。「中級細菌除去剤」があまりにあっさりとできちゃったからね。身体を休める余裕が出来た。
あまりに早く戻りすぎても怪しまれる可能性が高い。なので、最低限一日位は経過させたかったのだ。
「畏まりました。確かに、この地で活動するのであれば、リドリス家との繋がりは非常に大切かと。最優先案件としましょう」
「向こうは? 呼ばれてない?」
「はい。通常業務をこなされている様です。松戸、森下両名共に平常運転です」
……そんなことも判るの? 判るか。
「ま、まあ、んじゃちょっと行ってくるわ」
扉から出てると、LEDランタンが光を放っている地下室に出た。付けっぱなしにしておいた。暗いからね。
黒灰色の壁で出来た長方形の部屋。空気取りの換気扇、換気口は作るのが面倒だったので、かなり大きめの空間になっている。
俺一人が出たり入ったりするだけだから問題無い。密室でもこれくらいのサイズがあれば、酸素不足になる様なコトも無いハズだ。
この黒灰色の壁は……「大地操作」で穴を掘って、固めに整形した後に……俺が思いつく最大レベルの「ガスバーナー」イメージの「火球」で焼成してある(最初……廃工場や牧島興業で使った最大イメージ「太陽」でやったら……ドロドロに溶けたので反省した)。
ハンマーを思い切り振り下ろしても、傷一つ付かなかった。レベルアップした俺のパワーで全く歯が立たない感じだ。痺れて手が痛かった。
「ドア、回収して……地下室はとりあえず残しておくか。ここは二度と使わない気がするけど……もう少し都市の近くに設置したいし」
「はい。いってらっしゃいませ」
ここは……カンパルラ城砦都市の西の森。歩いて……六時間程度だろうか。俺が急げば、一時間か。
片鱗すら見つけられては困るのでちょっと離れてしまったのだ。
あくまで普通に。素材採取で野宿して帰還した感じで門をくぐった。
冒険者カード、商人ギルド会員証を見せて、えっと……咎人の水晶に触って白い光を確認。
「通ってよし」
何も問われず。御辞儀だけしてスーッと通過した。素晴らしい。
冒険者カードだけでも問題無いのだが、一緒に商業ギルド会員証も出すと、信頼度が高まって何かとスルーされるらしい。
あれ? そういえば、鑑定石っていうのがある……って言ってたよね? そういえば……これまでに鑑定されたことが無いな。
気付かれていないうちに調べられてたんだろうか? されてない……よな? 使い方は咎人の水晶と同じって言ってたし。自分から触って「許可」しないと効果発動しないハズだ。
あ。でも、されてないとしたら。俺が錬金術師だって言ってるのをどうやって確認したんだろうか?
商人ギルドで最初に名乗ったときから、当たり前の様に認められていた気がする。
まあ、とりあえず、いいか……と。今度、機会があったら確認しよう。
「戻りました。早急にお目通りを」
フジャ肉の煮込み亭に戻り、女将さんに挨拶をしながら直接厨房に向かい、ハルバスさんに小さい声で話しかける。
こちらも無言で頷くハルバスさん。すぐに向かって……さらに、すぐに帰って来た。相変わらずのフットワークの良さだ。
「おお。サノブ殿……早かったな」
「ええ。偶然、素材の群生地を発見しまして。とりあえず、急ぎ戻りました。量もそれなりに確保できましたので、今回の処方には十分かと。そして、恐らくクーリア様の症状に適応するポーションが錬成できました……ので……お持ち致しました」
「ああ、ああ。すまないな。サノブ殿は我が家族の恩人だ。たった一日でクーリアは……自らベッドで身を起こして……スープが飲めるようにまでなったのだ……。もう、もう、ダメだと思っていた我が娘が……だ。どれだけ、どれだけ感謝しても足りぬ」
「それは良かった。もしかすると毒による恒常的なダメージが大きかったのかもしれませんね……なので、毒が消えた時点でかなりの負担が消えたと」
「とにかく、凄まじい勢いで回復をしているよ」
「でも、まだ、咳は出てますよね?」
「……一日数回……咳き込むことがあるようだ。発作の様に痙攣することは少なくなったようなのだが」
「とりあえず、実際に見てみましょう」
案内されてクーリア様の部屋に入る。
ん? ああ、マイアさんが面倒をみていたようだ。
「マイア、クーリアの調子は?」
「先ほどからまた、お眠りになっています。あ。サノブ様、お帰りなさいませ」
マイアは女将さんと交代でクーリア様の面倒を見ているのだそうだ。その際に、御屋敷の諸々の仕事もこなしているらしい。
当初。ハルバスさん、女将さん、マイアさんが俺との約束を簡単に破ったことに、チラッと腹も立てたのだが、話を聞くとしょうがないかな……と思う様になった。
元々助けられた関係だ。が、特にこの一年、この家と恩義を感じる宿屋一家は協力して、頑張ってきたのだ。
家族に対してどうにかしてあげたいと思うのは……どうにもならないよな。
現状、この屋敷に使用人がいないのは、何人もの詐欺師に膨大な金額を要求された結果だった。
それこそ、その支払いを公金から流用したり、辺境伯家に無心しても良かったと思うのだが、ディーベルス様はそれをしなかった。
だからこそ、ここまで経費削減を迫られているのだ。清廉潔白という言葉のままだな……本当に。
娘の為なら投げ捨てても良かったと思うんだけど……そうするギリギリだったって所か。
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