209:検定
「フレーム様、その、検定とはどのような?」
実技試験、腕試しとかそういうヤツですかね?
「ああ、昇級の際に受けなければいけない検定と同じ物を受けてもらう。先ほど言った様に、お前は常識と人間性に関しては問題無いだろう。この紹介状もあるし、貴族である私とここまでキチンと会話が出来ている時点で問題無い。なので、後はうちの検定員と戦い、納得させれば良い。確か……陸級は……討伐クエストか。ならば、訓練場で模擬戦だな」
「はっ……あ。いえ」
「なんだ?」
「その……私の戦闘方法は……特殊でして……直接斬り合う様な物ですと……少々……」
「少々、なんだ?」
「手加減ができません」
「ほう。ならばそう伝えておこう。うちの検定員の腕は確かだぞ。お前が怪我しないくらいにやれるハズだ」
うーん。まあ、うん、どうにかなるか。というか、木刀とか使った事無いんだよなぁ……。
「いや……よし、では、今からやれるな?」
「え? あ、は、はい」
「そうだな……特別に私が検定してやろう。これでも元は参級の冒険者だ。当然、検定員の資格も持っているからな」
「え? ぎ、ギルドマスター自らですか? そ、それは……」
「よいよい、最近、実戦から少々遠のいていたとはいえ、手加減くらいは問題無くできる」
「あ。その……あの……」
強引というか、あっという間に地下の訓練場に連れてこられてしまった。体育館の半分位の広さか。魔道具使用だろう。灯りもバッチリだ。地下とは思えない空間に、ちょっと戸惑う。
ギルドマスター自ら案内されてしまったら逃げられるものではない。しかも相手は貴族だ。
そう言われて改めて見れば。この人、とんでもなくムキムキだ。ちゃんとした上等な服を着ているから分かりにくかっただけか。
身長は俺よりもちょい高い……185センチ程度。この世界の人間の体格は向こうの世界とそう変わらない。まあ、彼は比較的大きい方だろう。
冒険者なんていう、肉体労働に就いている者は総じて大柄な様だが、事務職に就いている人たちは普通だった。というか、大きい人と小さい人の差が激しいのかもしれない。よく聞けば色々な種族が混ざってるのかもしれないな。俺みたいに。
「その服装のままでいいぞ。冒険者は常に戦えねばならん。魔物に襲われたら、鎧を身に纏う時間はもらえないからな」
そう言って、ちょい細身の木剣をこちらに投げてくる。
「それくらいだろう? お前の腰の剣のサイズは」
ああ、選んでくれたんだ。木剣。確かに、長さも重さもこんな感じかも。剣帯から切り裂きの剣を外し、数歩前に出る。
「よし、では、かかってきたまえ。どこからでも良いぞ?」
ギルドマスターはこちらに向いて木剣を構えた。うーん。どちらかといえばフェンシングの様な構えだろうか? いや、細目だけど両手剣だから違うな。
両手をくっ付けて柄を握っている。剣先は斜下。とりあえず、様子見の防御の構えなのかな?
……というか、俺、キチンと両手剣を持つ敵と戦闘したことないんじゃないか? いやそもそもそも。人間と武器だけで戦うって無いか……。牧野興産じゃ能力使ってたもんな。
ってまあ、様子見に。
足を滑らすように、踏み込む。が。体重はかけてない。その逆に残しておいた力を込めて、身体と足を別に動かす様に重心を傾ける。最初の踏み込みに力が込められていると見せかけるのが難しいが、動きは完全に逆に向かっているので無視することは難しい。スケルトンさんも良く引っかかってた。
歪な構えから、繰り出す、歪な剣筋。
ゴンッ
「おう! ほほう……今の一撃は見たことがないな……正統な剣法ではないが……その辺の盗賊なら仕留められたか。剣士ではないと言いつつ、なかなかやるな」
不意打ちだったハズなんだけどな。明らかに死角からの一撃だったのに、こんなに安易に受けられちゃうか。全てにおいて挙動が速い。
師匠……程じゃ無いけれど、格上なのは間違い無いな。
……まだ見てくる……か。ギルドマスターは剣先は下のまま、正面に持って来た。
再度、仕掛ける。今度は剣線を隠すように……相手の視界から外して回して、手首を残してしならせて撃ち掛かる。上半身と下半身がチグハグに見えるハズだ。
ガッ!
ちぇっ。いきなり目の前に現れた様に見えたはずだ。なのに。腕を上げて、剣腹と柄の部分で受け止められた。
「ほうほうほうほう。今のも……伍級でも受け止められるかどうかといったところか。格上でも初見では痛い目を見るな。一撃目といい……ここまで虚を突いた攻撃は初めてだな。このような流派があるのかな?」
「いえ、商人が薄汚い盗賊に対抗するためだけに、自ら生み出した技になります。ただただ、実利だけを求めた技。そこに正統の様な気高き魂は存在しません」
「そうか。ならばお前は剣の才があるな。確かに騎士には侮られるやもしれんが、生き残って「なんぼ」と言うヤツだ。先ほどの二撃を避けられる盗賊など、早々おるまい」
「いえいえ、数で囲まれてはどうにも……」
「ああ、そうか。50人の盗賊に囲まれたのだったな……災難だったな」
「いえ、とにかく逃げの一手で」
「そこは仕方有るまい。50は……私でもしくじるやもしれん。一人か?」
「はい」
「それは如何ともし難いな。冒険者ギルドに依頼し、護衛を付けておればよかったな」
「はい」
そう。行商人は基本、移動の際に護衛を雇う。亡くなっていた彼も、護衛の冒険者を雇っていたようだ。が。彼よりも遙か前にハイオークにやられてしまっていた。少なくとも俺が周辺を探索した時に、彼らの痕跡はさっぱり無かったが。
なぜ護衛がいたことに気がついたかといえば、散らばっていたアイテムの中に冒険者カードが紛れていたからだ。
商人の彼は残されていた背嚢の中に、冒険者カードと商人ギルド会員証が入っていた。
つまり、最低一人は護衛がいたことになる。
「よし。判った。お前は伍級からで良い。商人というなら冒険者としては最低限の活動しかできないやもしれぬからな。階級を上げておいた方がいいだろう」
「はっ」
特別扱いは要らないと言ったが、認められての正式な評価は問題ないはずだ。
その後。なんとか一撃入れようとして、全て受け止められた。うーん。どうにも攻めがたい。
というか、本来はギルドマスターも攻撃してくるのが普通だと思うのだが、受けるのが楽しくなってしまったのか、基本攻めてこない。その辺含めて、さすがだな。
「私もよい訓練になった。どうだ。商人を辞めて、冒険者として本格的にダンジョンを攻略してみないか?」
誘われた。丁寧に断った。
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