208:冒険者カード
下を向く女性職員を横目に、上役っぽい男性職員が手で「こちらへ」と案内してきた。席を立ち、指示通りに扉を開ける。
ここの扉も、持ち手、レバーなどの造りはなかなかにゴツイ。精密な施錠機構はまだ創られていないのだろうな……。魔術による施錠はあるのに。結界とか封印とかも。
商人ギルドとは違い、かなり薄暗い、まるで取調室の様な対面式の個室に通される。面会室、いや懺悔でもするのかってくらい狭い。奥に扉があるので、担当者はそこから現れるのだろう。
と、思っていたら、案の定、扉が開いて、薄手の布鎧を身につけたガタイの良い、髭の青年? が入ってきた。
俺、ハイエルフらしいけど完全に日本生まれの日本育ちだからなぁ……。髭面の欧米系の男子の年齢はさっぱり予想が付かない。目の前の彼は結構若め……だと思うんだけどな。
正直、若い娘さんの年齢も……良く判らない。宿屋の看板娘さんは若いと思うんだが……うーん。日本人の目からは結構「老けて」見える。建物の中は基本ランプで、昼間でも暗めだしね。
「座りたまえ」
「はい」
返事をしつつ、狭い部屋で椅子に座る。しかし……居心地の悪い個室だ。ランプの……獣脂の燃える匂いなのだろうか? 何かが焼けている臭さが常に鼻を突く。
しかし、なんだこれ。俺は犯罪者か? というか……ああ、そうか。圧迫面接的な、冒険者とギルドが対話する際に、ギルド側が有利に立つための部屋か。
「この紹介状によれば。お前は行商人で、盗賊に襲われ売り物を奪われて、カンパルラにたどり着いたとある。ちなみにこれまでこの土地に訪れたことなく、知己もない。これは正確か?」
「はい」
「この都市に立ち寄ったのも初めてなのか」
「はい」
しかし、これまた話し方が……。
「……ふむ。では、なぜ、商材を失い、商いも出来ぬ様な行商人に対して「マートマンズ様」の紹介状が発行されたのか?」
「さあ。申し訳ありません、過分に判りませぬ」
冒険者ギルドの印象は……先ほどの受付嬢のせいですこぶる良くない。正直、自分の素性を「積極的に」明かすに値しない。末端があれでは……信用できないよなぁ。
「そうか。また、かの御仁の気まぐれか……。うむ。判った。とりあえず、必要なのはカードだな? ほう、商人ギルドの方は伍級か。紛失した冒険者カードは何級だったのだ?」
「陸級ですが、最低ランクの捌級で構いません」
「ほう、商人のくせに欲がないな」
「しばらくこの都市で生活をする予定です。このギルドでの信用も実績も無いのに、飛び級をお願いしても損ばかりとなりましょう」
「確かにな。判った。儂はゲルク・フレーム。ここのギルドマスターをやっておる」
「は、あ、フレーム家の方とは」
フレーム子爵家。確か、この城砦都市支配層の主要貴族の一つだ。
やばい、ひょっとしてこちらはマジ物の貴種か? 中東国家規模の合同プロジェクトで王族への対応は経験しているので、口の利き方はわきまえているつもりだが……こちらの世界でも通用するのか、正直判らん。
「よいよい、私は妾腹の五男坊だ。一族であるため家名を名乗るし、口調もこうだが、爵位は無い。マートマンズ様とは違ってな」
ぶっちゃけてきたな……。
「さて。お前は陸級の検定としよう。賢さや人間性はマートマンズ様の言うとおり文句なしの様だ。状況を上手く立ち回ろう、動かそうと、気を使っているのがよく判る。なので、後は実技試験で黙らせろ。冒険者は所詮、力だ。口だけで無い所を見せなければ、切欠すら生み出せんぞ?」
「はっ。畏まりました」
うん、まあ、この人も貴種であるにも関わらず、実を取るタイプのようだ。受付の娘のせいで印象が悪くなっていたが、この都市の支配層自体の意識は低くない気がする。
というか、そうでなければ生きていけないという危機感とかがあるのかもしれない。
ちなみに商人ギルドの会員証や冒険者カードの話で出てくる級数の漢数字が、ことごとく大字なのは、単純にスキル【言語理解】が「そう」頭の中に表示するからだ。
確認出来たわけではないが、この世界の旧言語の字が使われているためのようだ。正直、わかりにくい。けど仕方ないか。
・商人互助会:商人ギルド会員証階級
漆(7)級:行商人などの「定住せずに、物だけを流通」させる商人。
陸(6)級:都市で極狭の店舗を運営することが出来る。屋台や市などで店を出すのに必要。
伍(5)級:都市(領都以外)で店舗を運営可能。
肆(4)級:複数都市(領都含む)で店舗を運営可能。
参(3)級:領内に店舗を複数運営可能。
弐(2)級:国内大規模店舗を複数運営可能。
壱(1)級:商人ギルド幹部クラス・国内外、複数都市の一等地で大規模店舗を構えることが可能。各種ギルド諸経費の軽減。
・冒険者互助会:冒険者ギルドカード階級
玖級:見習い冒険者。15歳以下の冒険者に渡されるカード。
捌級:年齢が15歳になると配付されるカード。大人の見習い。
漆級:都市の外での活動開始。低級の魔物討伐、採集などが中心。
陸級:都市外での討伐系クエストが中心となる。冒険者として一人前。
伍級:都市外での討伐系クエスト、特に巣や群れなどの討伐を行う。
肆級:討伐に加えて、都市間の護衛等を請け負う。手練。
参級:貴族からの依頼、国間の護衛任務、大規模盗賊団の討伐など
弐級:各種指名依頼の請け負い。
壱級:国単位からの指名依頼等、貴族扱いされることも。
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