204:大きいですね
胡椒、粉になっていない実の状態で、日本なら15〜20グラムで百円程度だ。高級品でも五百円位だろう。
今回俺が持ち込んだのは、20グラムで三百円程度。最高級より、大きさと香りで選んだ。判りやすいからね。それが10グラムで二万円だから、20グラムでよ、よんまんえん。百倍以上の暴利むさぼり。
さらに、予想通り、品質改良されていないであろうこの世界の作物は、自分の知るよりも小ぶりなようだ。
「よし、わかった。この一袋で五グラムはあるな。一袋、大金貨一枚で、全て買い取ろう。もしも、それよりも高額で売れたなら、その分も支払うということでよいな?」
大? 大金貨? 十万円と言いましたか? 今。
「そ、それは」
「いやか? ミレッタ、どう思う?」
「胡椒は……質を考慮したとしても、相場から言えば破格の買い取り値だと思われます。それ以外の香辛料はあまり見かけませんので、もしかするとそれほどの価値があるのかもしれませんが……。私にはかなり無茶な値付けに思えます。ですが、支部長の事ですからそれ相応の理由があるかと」
「ああ、その通りだな」
「いえいえ、さすがにそれでは、私が儲けすぎる、有利すぎるのではありませんか? 貴種の方からその御提案。少々怖くなってきております」
「まあ、それはそうよな。貴族に裏は付きものだからな。だが……他国では判らんが、我が国、我が領では、新品の魔道具の価値はそれほどと思ってもらって結構だ。正直、私にとってそちらの打算も大きいのだよ。といいつつも。商売人として、捌けると思っているからの値付けなんだがな」
それまで表情らしい表情を見せてなかったミレッタさんの目が大きく見開いた。
「な? ミレッタが目を大きく見開く位の話だということだ」
「魔道具を作成できるレベルの錬金術師様でいらっしゃいましたか……そ、それはそれは。支部長の提案も至極当然かと。もう少々勉強させていただいても」
「結構です。ではグロウス様の御提案通りに」
「うむ」
俺は手持ちの香辛料の袋、全てをテーブルに並べた。
香辛料を全て支部長に渡し、商人ギルドの一階ロビーでしばらく待っていると、最初に窓口に居た男性の事務員がギルド証と紹介状を持って来てくれた。
「サノブ様。私、グランゼと申します。今後何かありましたら、直接言っていただければ、支部長に取り次ぐ手はずになっております。よろしくお願いいたします」
「判りました。もしも、グランゼさんが窓口に居なかった場合は? というか、伍級……これは……」
差し出された商人ギルド会員証は、先ほどの打ち合わせで言われた漆級、行商人に向けた最低階級ではなく、一つ上の伍級の物だった。
確か伍級は発行された支部の都市で、店舗を運営可能という商人としてワンランク上の資格だったハズだ。
「登録料や税などは当面問題無いとのことでございます。サノブ様からの受付は全て、支部長案件となります。なので窓口で名前を仰っていただければ、話が通じるようになっております」
「ご配慮ありがとうございます」
グロウス様の対応もそうだが……それにしても……これは破格の扱いと言っていいだろう……。
確か、漆級、陸級は大抵の者に即日発行される。が、伍級からは審査やギルドへの貢献度など、複雑な要素が絡み合って、昇格は年に数件……とかそんなだったハズだ。
何よりも、城砦都市で屋台を含めて店を構える=最大飽和数が決まっている。そんなに香辛料が利いたのだろうか。利いたか。
「ただ申し訳ありません。支部長がここにいない場合も多々ございますので……純粋に不在で対応が遅れる場合もあるかと」
「それはそうですよね。というか、グロウス様は貴族ですものね。事前に伺いを立てるのは当たり前ですよね」
「まあ、そうなんですが……支部長は商機を見逃すのを非常に嫌いますので現場から現場へ動いておりまして……できれば、本人の判断に任せたいのです。申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ、横暴な貴族が多い中、商人として志を立てておられるグロウス様のような方の方が、同じ商人としてお付き合いしやすいのは確実です。とりあえず、今後はそのようにいたします」
「はい、では」
商人同志、気持ちの良い対応で締めくくる。文化的にもっと野蛮というか、横暴がまかり通る感じかのかと思っていたが……そうでもない様だ。
この国やこの都市の商業に関する法律を確認しないとだけど、そんなに無茶なものではないみたいだ。
貴族である、支部長のグロウス・マートマンズ準男爵の対応も非常に誠実だった。香辛料の相場を知らない自分に、ミレッタさんに証言をさせることで、客観的な情報を提示し、それ以上の利益を与えると約束し納得させる。
さらに王都での販売を自ら買って出ることで、その結果次第で俺にさらに利益が発生するシステムを提案する。
これによって俺はしばらくこの地に滞在せざるを得なくなった。元々最初からここを拠点にしようと考えていたんだけど、
強制では無いのが非常に上手い。これ、下手すれば気付かないんじゃないかっていう。
そもそも、香辛料全てを取りあげることだってできたのだ。
だが、彼はそうしなかったし、それ以上にこちらの事を考えてくれた。魔道具を作れる錬金術師という職業にそれだけの価値があるのかもしれないが……うーん。
そんなに価値があるのなら。拘束していない、力尽くで従わせようとしていない時点で、非常に誠意ある対応と考えて良いだろう。
シロに教えられていた情報よりも……身分制度含めて、社会全体がもっと厳密にちゃんとしている印象を受けた。
まあ、それは「ここ」の商人ギルドの人たちが健全、善良、信義を重んじる人達であった……だけなのかもしれないけれど。
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