202:忘却の壺
忘却の壺は物語に登場する、有名だが実際には存在していない伝説の魔道具だそうだ。
「それに近い」魔道具を使用している……と言ったが、それは、まあ、嘘だ。さすがにそれは今のレベルでは作れなかった。
「自分が認証前の魔道具を大量に持ち歩いて行商し、さらに魔法鞄を二つも所持していたにも関わらず、これまで全く噂にならなかったのはそういう理由でございます」
「う、うむ。わ、判った。良く判った。ギルド会員証の再発行及び、諸々の手続きも滞りないように言いつけておこう。それにしても……何か……証明できるようなモノはあるか?」
それはそうだろう。オーモッドなんていう伝説の錬金術師の名を語ったんだ。疑いたくもなるよね。
鞄から、小さな自走式掃除機の様な……ゴーレムを取り出し、テーブルの上に置く。
机の上を走り出すゴーレム。テーブルの端に行くとそこで回れ右をして、また走る。いつまでもテーブルから落ちずに走り続けるという……ただそれだけのモノ。実験で作ったものだが、オモチャでこういうのあった気がするな。
「お、おお……この様なゴーレムは……見たことがない、ないな……これはスゴイ……」
ってこの顔は……あ。忘却の壺を必要以上に恐れてる感じかな?
「大丈夫ですよ。グロウス様。大抵は「御内密」にという口約束で済ませてございます」
「そ、そうか」
「極まれに。至極まれにです。私を拘束して全てを我が物に……という方がいらっしゃるものですから。使用したのはその様な場合のみです。さらに、今回はその魔道具も失いましたので御安心を」
「わ、判った。その辺の詳しい事情はあまり外で漏らさないようにしたまえ。特にレリシアと言えばハイエルフの森として崇められているし、オーモッドといえば太古より魔道具で有名な錬金術師の家名だ。その二つを出した時点で、こうして、君の価値は跳ね上がる」
「了解してございます」
「それにしても……ゴーレムに魔法鞄。魔道具か。大きな損失だな」
「そうですね……。ですが、当然ですが認証前の魔道具ばかりでしたので。私がいなければガラクタ同然。さらに封印もかけてありましたし」
「それはそうなのだが」
実際は襲われてないし、盗まれてないしね。
「とりあえず、こうして、目的としていたこのカンパネラ城砦都市には辿り着けました。自分は錬金術師の知識もありますし、冒険者としてもそれなりに戦える腕もございます。さすがに50を越える盗賊からは逃げるしかありませんでしたが……」
「盗賊団……だな。西か?」
「はい。西ですね」
この都市の樹海の反対側。西の森、そして山麓には50から100名規模の盗賊団がいくつか存在しているそうだ。隣の領の治安がすこぶる悪いのだ。
「では、しばらくこの都市に?」
「はい、ここで冒険者として活動しながら素材を入手し、ちょっとした魔道具を作成したりしながら、資金を稼ごうかと」
「! 君は錬金術師……売るだけでなく、魔道具を作成出来るのか?」
お? 目の色が変わったかな?
「父の作業を見ていましたから手習い程度ですが……小規模な魔道具なら作れますし、修復も可能ですね」
「そ……それはスゴイ」
グロウス様の顔が明らかに紅潮しているのが判る。興奮してるのか。
「問題は……素材でしょうか。それらも奪われた魔法鞄の中でしたので……。一から、自分で集めないといけないので作成できるまでには時間がかかるかと思われます。ちなみにこの都市に錬金術、魔道具関連の店は……」
「ここカンパルラ近辺には英霊の回廊、沼の夕凪、草原重層の三つのダンジョンがあるからな。錬金素材の品揃えはこの地方では最大規模と言って良いだろう。各種ポーションの素材等に関しては王都よりも上と考えて良い」
そうなのか。なら、薬作りは楽できそうだ。
「だが、だが、魔道具の素材になる様な物を売る店は……心当たりがないな」
「そうで……しょうね。そもそも、魔道具を扱える者は?」
「魔道具の修復をしている者は数名いるが……錬金術師を名乗れるような者は」
支部長が首を横に振る。
「良かったと思うことにします。魔道具の価値が高そうですからね」
「ああ。そうだな。新品の……灯りの魔道具を買い替えたいなんて者は多いハズだ」
「では、修復は職人さんに任せるとして。自分はその辺を商うことにいたしましょう」
「ちなみにゴーレムはどうだね?」
「操作と修復であれば可能なのですが、基軸になる部分は私の腕では……」
「判った。もしも売れる様な物が出来たら見せてもらえるか?」
「畏まりました。ありがとうございます。その際はよろしくお願いいたします」
「冒険者ギルドの会員証……ああ、あちらの会員証はカードと言うのだったかな。それも必要なのだろう?」
「はい、そうですね。そちらも失った方の魔法鞄に入れていましたので」
「では紹介状を用意しよう。確か、あちらのギルドは最初に級数認定の試験がある。実技は受けねばならんが、知識確認や人格の面接はこれでパスできるはずだ」
「ありがとうございます」
「いやいや、出会うことすら難しい「魔道具を作成できる錬金術師」が、しばらく定住してくれるというのだからな。できる限りの便宜は計ろう」
「そちらは見習いですよ? 本業は商人ですから」
「ああ、それでもだ。いつまでになるかは判らんが、よろしく頼む」
笑顔と共に再度、手が差し出された。当然、ありがたく握り返す。
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