201:商人互助会
大抵が茶。
それよりも数は少ないが、黒髪や明るい茶の髪のヤツもいる。ファンタジーカラー……というか、青とか金とか赤とか緑とかそんな髪の毛の色の人は全くいない。
ちなみに、種族も一見すると人間のみ……だ。耳が長いとかケモ耳とかは見あたらない。というか、俺、ハイエルフだけど耳は普通だもんな……。
肌の色は日本人と比べると若干白い。確かに……実は自分は子どもの頃から肌の色が若干白かった。正直、変に馴染んでいる気がする。
服装も落ち着いている。派手な色のアイテムが少ないのか。アースカラーっていうのかな? 舞踏会でドレスとかはそうでもないのだろうか?
たまに向けられる、歩行者からの視線がこちらに異和感を感じていないのが分かる。
自分もこの都市に着いてから、違和感を感じていないのだ。着ている服がこちら仕様っていうのも大きいのかもしれないけど。
南門は西門の三倍くらいの大きさで、門前の広場もかなり大きい。
停車場や馬小屋の中で唯一、ビルと呼んでも問題無い建物が立っている。
他の建造物が2~3階建てなのに比べて、5階建て……くらいだろうか? ココが商人ギルドだろう。
宿の前にどうしても手続きをお願いしておきたかったのだ。身分証明は最優先で必要だろう。
看板には文字。
大丈夫だ。
「商人互助会館カンパルラ支部」。
商人互助会の呼び方が商人ギルドのようだ。
脇の扉を開けて中に入る。へー。元の世界なら一世代前、電子機器導入前の銀行だな。こりゃ。
順番を待つ為の椅子。壁にカウンター。窓口。向こう側へ手が出ないように、鉄格子がはまっている。
窓口の上に担当等の表記はない。部署看板でくくれるような仕事状況じゃないのかな?
時間帯なのか、待っている人は居ない。ここは何となく寂しげだが、窓口の向こう側はかなりの広さで、忙しく働いている者も多く、熱気が伝わってくる。
鉄格子越しに人の見えている窓口の前に立つ。中の人が作業中の手を止めて顔を上げた。
「すいません、ギルド会員証の再発行をお願いできますでしょうか?」
「あ、はい、如何されましたか?」
いかにも事務員といったルックスの若者だ。インクか炭だろうか? 指先が黒く汚れている。
「私、サノブと申します。カンパルラへの道中、盗賊に襲われまして。荷馬車と共にギルド会員証も奪われてしまいまして」
「おお。それは災難でしたね。怪我は?」
「怪我はかすり傷程度で。ですが小さいながら荷馬車とゴーレム、証書等を入れていた
「そ、それは……少々お待ちください」
事務員の男性が慌てて席を立った。
これはどういう反応かな……うーん。アレか、窓口案件では無くて、上長案件ってことかな? 奥の方が少々騒がしい。
「サノブ様、こちらへ」
手で示された場所の扉が開き、女性の事務員さん……ああ、そうか、ギルド員がこちらへと促している。
まあ、俺の名前は。村野久伸の、下三文字だ。ゲームでは昔からこれにしていたので、折角だから……と名乗ることにした。
男のギルド員さんはシャツにスラックスで背広サラリーマンのジャケット無しという感じだが、女のギルド員さんはシャツにワンピースだ。腰の部分に紐が付いていて、締め上げるようになっている。
男も女も腕に……籠手ではないな。腕抜きか。布に紐が付いている物を巻いているのは、シャツのひらひらが邪魔になるからだろうか。
案内された部屋は会議室兼応接室……なのかな? 調度品らしい調度品も無い。テーブルに椅子が……12脚。自分1人が案内されるには大きい……よな。
「おう、すまんすまん、えーっと、サノブ……だったか。このカンパルラ支部の支部長、グロウス・マートマンズだ」
そう言って支部長は手を差し出した。ああ、握手か。その辺のコミュニケーション手段は向こうの世界と変わらないのか。
支部長は……長らしく少々ガッチッリとした体型をしていた。四角い輪郭の顔に細めの目。温和な表情を浮かべている。
当然、その手を握る。ここが冒険者ギルドだったら力比べとかになるのかな? 普通に握手をする。そのまま、促されて椅子に座る。
「とある森出身で主に魔道具を取り扱っております、行商人のサノブと申します。この度は支部長様自らの対応、お手数おかけいたします。失礼ですが、マートマンズ……ということは爵位を」
「ああ、こういう時、正式に名乗らなければいかんことになっているからな、貴族とは名ばかりの準男爵だ。気にすることは無い」
「判りました。では、グロウス様とお呼びすれば?」
「ああ、問題無い。分かっているとは思うが、私以外の大抵の貴族には、当然、家名を優先した方が良いだろうがな」
支部長にして準男爵であるにも関わらず、この物言い。そして見ず知らずの商人、いや行商人に大してさりげない教導。さては良い人だな。うん。
「盗賊に、荷馬車とゴーレム、魔法鞄を奪われたそうだな?」
「はい。そちら鞄にギルド会員証が入れてありまして、再発行を」
「ああ、再発行は問題無い。行商であれば漆級でよいのであろう? 手続きと実費で七銀貨かかるが良いな?」
「はい。問題ありません」
「それよりもだ。奪われたのが、ゴーレムと魔道具、魔法鞄というのは……本当か?」
「はい。御内密にお願いしたいのですが……私の父は若い頃、レリシアの森で魔道具職人をしておりました。その際にオーモッドの印可をいただきまして。事情があって森からは離れたのですが、私はその父の作った魔道具を売り歩いております」
「そ、それは……ああ、いや、それなら何か話が……いや……」
「ああ、支部長であるグロウス様の御耳にも入らないのはおかしいということでしょうか?」
「そうだ。そのような……魔道具の行商人の噂は聞いたことがない」
「それはそうでしょう。忘却の壺……という魔道具をご存じでしょうか?」
「あ、ああ。数日の記憶を失うという物語に登場するアレか?」
「身の危険を感じる毎に、「それに近い」魔道具を使用しておりました。私に会ったという記憶だけが消えるように。でございますが」
「なんと……そうなのか。いや、そんな……果たしてオーモッドであれば……有り得るのか?」
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