199:人類の進歩と調和
目の前には……既に半身を引き千切られた人間の残骸……が転がっていた。
ちょっと離れた所に、俺の背負っている背嚢とはちょっとデザインの違う背嚢がビリビリになって投げ出されていた。荷物……もいくつか落ちている。あ。清浄棒。うんうん。それ知ってる知ってる。
「あと、このさ、薄らと付いている、足跡で踏み固められているっぽい部分。これ、獣道よりもしっかりしてるよね?」
『確かに……これは……道かもしれませんね』
被害者は多分、旅人……いや商人か。投げ出されている荷物の中に、革袋が幾つか転がっている。何か小分けに持ち歩いていたのだろう。この数はお財布じゃ無いよな?
着ているのはこちらもデザインは違うが俺の冒険者の服とよく似ている。靴なんてほぼ一緒だ。
「ねえ。シロ。俺が行動した範囲に応じて、異世界情報が更新されて、さらに、異世界の人間と接触するとボーナスチャンスだったよね? この場合は?」
『残念な事にお亡くなりになっておりますので……若干少なめですが……既に様々な情報が手に入る予定です。この方には誠に申し訳ありませんが、ありがたく活用させていただきましょう。これでやっと様々な計画を立てることができますね』
おお~。良かった。いや、良くないか……。
既に喰われて半身どころか2/3は失っている彼からしてみれば災難だったわけで。イロイロと申し訳ない。
手を合わせる。宗教は女神教かどうかも良く判らないけれど、冥福を祈ろう。
「……で。どうすればいい?」
『見つけられるだけ、周辺に散らばっている荷物を持ち帰っていただいてよろしいですか? 何度も訂正するのは、今後の計画に差し支えると思われます。なので、少々お時間を頂ければ』
判った。
今回は長期で探索に出る積もりで荷物を沢山持ってきたわけだけど……とりあえず、これで一旦戻らないとか。なんか勿体ない。でも、しょうがない。
『あ。御遺体は地に返して差し上げてください。装備品や所有物からくみ取れると思われます』
DNAとかから何か判るとかは無いんだ?
『ございます。が、それは血液、唾液、髪の毛……所持品に紛れ込んでいるモノで十分です。別に個人のルーツを探究したいわけではありませんから。根本的に全ての要素、相違的な空間供給……から情報が入手出来ると思って良いでしょう』
そうなのか。
『それよりも、各種アイテムの方が情報量は多くなるかと』
そういうものなの?
『そういうものです』
とりあえず、自分の持つ感知能力、さらに視力、五感も最大限に使って、彼の所持品を探る。
喰い千切られたらしい身体の部位も幾つか見つけたので、一緒に埋葬した。
そのまま、蜻蛉返りでダンジョンに帰宅。なんか慌ただしい。
「私の得ている情報を入手したのは、今から約七百年前位だったようです。つまり、私の常識はかなり古いモノとなります」
昨日帰ってきて、シロに物を全部渡し、十分な睡眠を取った後の最初の報告がこれだ。
「ですが……残念な事に七百年もの月日が流れているにも関わらず、科学レベルは以前とそう変わりません。むしろ、低下しているといっても良いくらいです」
「え? なんで?」
「最大の理由は……魔物と魔術の影響でしょうか?」
もぐもぐ。朝の定番、シリアルと牛乳、フルーツ、サラダで朝飯中だ。当然、コーヒーもバッチリだ。もぐもぐ。
「魔術は判るけど……魔物?」
「はい。女神様の御力が衰退した結果、以前よりも魔物の勢力圏が拡大しました。都市、街、村など人間の居住区域は壁や結界で守る必要があり、繁殖&繁栄スピードが低下。そのために大規模な交流も行われず、現在も七百年前とそう変わらないファンタジー世界を維持している様です」
もぐもぐ。
「とりあえずさ、ダンジョン周辺の事情は?」
「昨日見つけた亡骸はやはり、行商人だったようです。そして、歩いていたのは
「生活……道。生活してるの?」
「深淵の森の端に「開拓村」があって、そこを拠点に森での狩りを行う冒険者がいるそうです。その「開拓村」とこの地方随一の都市、カンパルラ城砦都市を結ぶ、道とのことです」
「カンパルラ……城砦都市?」
「はい。以前お伝えした「小さな砦」が元に大きくなった都市の様です。名前も国も変わってますが。ここから普通に歩いて約五日くらいですね」
「へー。それって……所属国とか判るの?」
「ローレシア王国。そして深淵の森に接しているのはリドリス領だそうです」
「えーと。カンパルラは、リドリス領の東端?」
「はい」
「で、リドリス領は、ローレシア王国の東端?」
「その様です。カンパルラ城砦都市の周辺には、「英霊の回廊」「沼の夕凪」「草原重層」の三つのダンジョンがあるそうで……ライバルですね……」
立地……多分、うちよりも他のダンジョンの方がカンパルラに近いんだろうな。
「通えないよな……ここ」
「「開拓村」が近所にできれば……」
正直、無理があるだろ……それ。
「そして……残念というか……何というか……さらに様々な面で衰退が見られます」
「え? 科学文明だけじゃなく?」
「はい……全体的な文明は進歩していて欲しかったのですが。……残念です」
「そんなに?」
「そんなに? です……
おお……確かにそれは個人的には嬉しいけれど。シロの女神目線の残念な気持ちもなんとなく判るというか。
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