198:既成概念

「大きいのか……なら、なおさら、今後手に入る魔石を変換すれば良くない? DPウハウハじゃない? ダンジョンで稼がなくても」


「はい。その通りです。ですが魔石は魔道具等で使用されるため、非常に高額で取引されます。なので、ここ異世界ではお金稼ぎの基本になっているのです」


 ああ、そうか。だからDPにつぎ込むっていう考え方がスンナリ出て来なかったのか。


『さらに迷宮創造主マスターの様に……それこそ、ハイオークを単独討伐出来る者は少ないのです。まあ、ええ。確かに、先ほど仰っていた様に、魔石を継続的に稼いでくださるのであれば、ダンジョンは開店しなくても問題無いかと思われます』


 っていうか……そもそもさ……うちのダンジョン、立地悪くない? 店舗開店の初歩の初歩は立地の周辺環境なんだけど。


『……』


 あ。黙った。ここでダンジョンを開店してもさ……お客さん=冒険者って来なくない? 入店するまで、最寄りの砦だか、街だか村から徒歩数日、下手すりゃ数十日ってスゲー遠いじゃん。

 そんな開店、店長レベルで却下だし、そもそもなんでこんな場所で勝算あると思ったのか問い詰めたいわ。責任者誰? ここに決めた。


『……多分、この地の龍脈が……関係していると思うのですが、大きな魔素溜り、さらに豊富な大地の力と条件が重なった様で……』


「女神の力が弱まってたから?」


『それも要素としてあるかと思われます』


 女神にはな~恩があるからなぁ。この俺専用にカスタマイズされたダンジョンシステムを生み出してくれたという。そのために神力を使い果たすことになったみたいだし。


「女神はさ、俺に何をさせたいのかな?」


『申し訳ありません……私には判りません……』


 まあそうだよね……。うーん。いいか。考えても判らないし……。


 あ。そういえば、ママ……母さんの日記っぽい本というか板。アレに何かヒントはって、開かないのかな? 多分、魔力かなんかで封されてるんじゃないのかな? ちゃんと【倉庫】に入ってるハズだ。帰ったら確認してみようかな。


 そんな事を考えつつも、足は止めない。この樹海には藪に代表される下草、低層の灌木がそんなに生えていない。なので鉈や造林鎌を駆使しながら進まなくて済んでいる。

 それこそ、疎開先の屋敷の裏山で道なき道を行くのはかなりしんどかった。獣道って、獣が藪の下とか通るからさ……。それ排除しないとだし。


「ん」


 ふと立ち止まる。ここから……真南……に敵か。「魔力感知」が反応した。


 ……二体……移動していない?


 もう少し近付かないと詳細は分からないか。とりあえず【気配】で感知出来る範囲まで移動しよう。


 敵、魔物の感知範囲からはかなり外れていると思うけれど、これまでよりは慎重に距離を縮めていく。


『徘徊……しているわけではない様ですね。縄張りでしょうか?』


 魔物、特に二本足で立っているタイプのヤツらはねぐらや集落を築くらしい。


 俺は今日既にハイオークに遭遇している。ということは、どこかにハイオークの集落が存在する可能性があるそうだ。


『単独であればハグレの可能性があります。ですが複数で居る場合は、拠点を中心に行動している可能性が高いです』

 

 三体……多分、ハイオークかな? この魔力は。


『はい、その様です。さきほどと似たようなデータですから……ハイオークが三体……御注意下さい』


 了解。


 お。【気配】でも掴んだ……動きは無い……っていうか、食事中……かな? これは。


『かもしれません。獲物は……動物か……それとも』


 一気に間合いを詰める。【周辺視】の範囲に入った。


 ちっ。ちょっと遅かったか……。


 っていうか、こ、これは……まあ、いいや。まずはアイツらだ。


 御食事中の一体の背中から急襲する。勢いそのままに筋肉に埋もれているが、隙間がないわけじゃない。勢いそのままに、そこに切り裂きの剣を振り下ろし、滑り込ませる。


 首が弾け飛んだ。


 足が地に着き、身体を起こした先で、そのままにもう一体。まだ、反応できていないのを良いことに、背後から斬り上げる。


 踏み込んだ足を固定。逆の足を開き、腰を落とす。


 脇の下から頭部が斜めに裂けた。あ。そうか。さっきの一撃は妙に強かった……と思ったら、【加速】も加わったのか。ちょっと我を見失ったか……。


 やばいな。冷静に。冷静に。


 二体目のハイオークが身体を両断されて……斜めに落ちた。


 この段階でやっと。


 三体目が、俺の存在を捕らえた様で、反応する。高レベルなだけに、ここからは早かった。振り向いた瞬間には既に棍棒で殴り掛かって来ている。


 さすがと言うべきか。まあ、当然。


ドブッッ!


「ブロック」で動きを止める。肉が止まる音が響く。


グガアア!


 叫び声というか、咆哮は種族的に同じなんだな。


 挙動の始まり、始点を止めてしまえば、必要となる力はそれほど大きく無くて良い。動きはコントロールできる。

 それは高レベルの魔物でも同じ様だ。特に二足歩行のヤツはバランスを崩すのが容易い。


 斬り込みを入れる。さらに入れる。


 二つ斜めに……頂点が合うように切り込みを入れて、そこを蹴る。


ガバオッ


 なんていうか、生物の身体から出る音ではない無い擬音を発しながら、切り取られた肉片が……歪な達磨落としの様に飛び出した。


 切り裂きの剣の切れ味。ヤバいよな……どう考えても。


『切り裂きの剣は魔術によって強化された武器というだけではなく、魔剣でもありますから。迷宮創造主マスターのレベル……というか、魔術士のレベルが上がって魔力操作が巧みになっている現在、威力も向上しています』


 へ……。ってここで明かされる新事実。魔剣て。錬金術師でもある俺なのに、今のレベルでは開示されていない情報だ。


『まあ、高性能の強化武器と考えていただければ』


 ういうい。とりあえず、それも後だ。


 目の前で肉の層が幾つか抜け落ちたハイオークが動きを止めた。


 魔石に変わる。


「こりゃぁ……」

 

 惨状……だ。


『一時間位前……でしょうかね……』


 


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