197:ハイオーク

 元々、能力値全般が上がってるからね。これまでよりも遙かに早く移動出来ないとおかしい。

 多分、天職を拳闘士辺りにすれば、もっとスゴイと思うんだけど……現状、魔術士のままだ。


 樹海ってこんなに歩きにくい、走りにくいんだなと再確認。

 まあ、正直、あまりスゴくなりすぎても自分で自分の身体をちゃんと操作できないからいいか。


 出来る限り飛ばす。こないだよりも南西方面。景観はずっと巨木の根。


【魔力感知】が敵に反応……。そして次に【気配】。最後に【周辺視】に反応が生まれる。


 実は、転職するたびに、この感覚が入れ替わるのがちょっと気持ち悪い。


 迫り来る敵は、こないだの兎……じゃないな。存在がかなり大きいぞ……。そう考えながらも足を止めない。群れでなく……一体。単独での行動中か。


「!」


 オークだ! オーク! オーク転がし師の血が、血が騒ぐ!


迷宮創造主マスター……オークではなくハイオークになります。ですが、各種能力が全体的に向上しているだけで、行動等はオークと変わりません。レベルは高いですが、単体の様です。切り裂きの剣と【剣術】「ブロック」があれば近接戦闘も問題無くいけるかと」


 お。お墨付きいただいた。ってなわけで、今回は。久々に。


シャリンッ!


 腰に下げていた、切り裂きの剣を抜く。剣を抜いた音にあちらも……やっと俺に気付いたようだ。


 くんくん……獣臭……とでもいうのか。ケダモノのすえた臭い、糞尿や肉の腐った様な……何ともいえない強力なハーモニーが鼻をくすぐる。


 ああ、これがリアルかぁ……。ダンジョンでの戦いではやはり、消臭機能が働いていたのだろう。


「こいつは……俺、近接戦闘は護身程度で……遠距離戦闘の専門家になろうかな……」


『はい、元々迷宮創造主ダンジョンマスター自体が術士系の天職ですので。合っています』


「だよね。こりゃ……敵は臭いだな……消臭マスク……いるな。向こうの世界で買ってきた方がいいかもな……」


『いえいえ。錬金術で作れる清浄棒でどうにか出来ると思いますし、迷宮創造主マスターは【結界】を御自身に使用すれば臭いは完全に防御できます』


 え? あ。そうか。最近意識して使って無かったな……「纏い」か。これ、使うのスゴく楽ちんなんで意識しないで展開してたから、いつの間にか忘れてたや。


【結界】を「纏う」。


 はっ! すげっ! 一気に臭いが遮断された。


 でも、これ、今、俺、身体全身で【結界】を纏っている。空気はどこから取り入れてるんだろうか? 不思議力だから深いこと考えちゃダメ系なんだろうか?


『通常の……それこそ簡易結界等の設定と同じです。全ては、術者本意と言いますか』


 ん? どういうこと?


『術者が必要なモノは通し、必要ではないモノは通さないって感じでしょうか』


 ステキ……ああ、そうか。現実世界に残してきた簡易結界ですら、かなり細かく設定できたもんな。最終的に自宅は「俺以外、あらゆるモノを通さない」って設定で、重機なんかでも破壊出来ない感じに仕上がってるっぽいけど。


ガゴオオ!


 オーク、いや、ハイオークが右手に持っていた棍棒を振りかざす。


 振り下ろし……そのタイミングで「ブロック」を置く。そうだった。俺の最大の長所、ストロングポイントは【結界】「ブロック」だったじゃないか。


 最近、範囲攻撃とか無駄に派手な戦闘ばかりしていたから、細かい戦闘の流れなんて失念してたや……。


ギッ!


 ハイオークの口から歯ぎしりが聞こえた。力を振り絞って固まったのが伝わってくる。


 その隙間に、身を踊らせる。すかさず、サイドから振り抜きで切り裂きの剣を回す。


ズバッ!


 音が戻る。


グオオオオォォォ!


 ハイオークの咆哮が、再度耳に響く。


 ハイオークは猪と豚と人が入り交じったような顔を持つ獣人だ。オークよりちょっと怖い。なんていうか、見た目は……オレがよくプレイしてたゲームで登場していたというか、ファンタジーでお馴染みの……っていう感じだ。防具は腰ミノくらいか。


 斬り裂いたのは腹から脇の下。斬り上げたせいか、傷口は大きい。弾けるように血が溢れる。


 これ、致命傷だけど……。


 魔物は生き汚い。死んだと思っても最後の一瞬まで気を抜いてはいけない。まあ、これはダンジョンの実戦で身に付けた。


 もう動けないだろう。


 でこちらが勝手に戦闘を終了してしまうと、必ず、その油断を突いて一撃を放ってくる。


 魔物は消え去って、魔石をドロップするまで気を抜かない。これ大切。スゴく大切。


『そうですね』


 なので、振り上げた切り裂きの剣を手首を返して斜めに斬り下ろす。斬り下ろす瞬間、ポイントをずらすためか、後ろに下がろうとするヤツの身体の後ろに「ブロック」を発生させた。


 逃げ道を奪われたオークの身体に斜めに線が入る。踏み込みも深かったし、力も十分に伝わった。


 上半身がズレて……落ちた。


「うん。まあ、こんなもんか」


 良かった。オーク転がし師の腕はそれほど鈍ってない様だ。


 オークの身体が消えて……魔石が残った。大きいな……。これまでダンジョンで見てきたモノよりも一回り大きい。


『異世界は魔力で溢れていますし……この森のような魔素の濃い場所では魔石も大きくなります』




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