195:旅立ち

 ということで、死んじゃった。多分。今日。うん。死んでる死んでる。


 予定通りなら。


 いやーそれにしても。大変だった。何が大変って、メイドズの説得が。さらに、それに加えてまだ、完治していない美香さんの説得が。


「いやです。長期の旅に出るというのであれば、私達も連れて行っていただけないと困ります」


 いえいえ……松戸さん……。


「貴子さんの言う通りです。御主人様には常に私のことをお叱り頂ける距離にいていただけないと困ります。そして、細かく妄想出来なくなるのはもっと困ります」


 うん、森下さん、その妄想っていうのはどういうことだろうか?


「か、身体がまだ、十分ではありませんが、私も連れて行って頂けないと困ります」


「いや、だって、美香さんは何よりも無理でしょう……お付きの人はどうするんですか?」


「困ります困ります!」


「私達は美香様と常に御一緒させていただきます」


 いやいや……だからさ……。


「現実問題としてだ。正直、俺は死んだことになるわけですよ。なので、どこに行こうと、どこへ旅しようと、素性を知られてはならない、公然と生活できない、何かとシビアな事になるわけです。そんな放浪生活……に美香さんはつれていけません。これは確定。とりあえず、俺との関係をたぐれないようにしているみたいなので、ここに居れば安心と」


 まあ、いくら日本と米国だけとはいえ、アレだけ大々的に指名手配されたら、現実世界だと遙か遠い外国へ行ったとしてもそのうち手が回りそうだけどね。


 その辺、死亡偽装で丸く収まればいいけど。


「で。さらに、そういう生活の上に、実は俺の能力を使って逃げて行くと思うので、君ら二人も正直足手まといなのですよ……。戦闘とか、襲われるとかそういう場面であればともかく。【隠形】で逃げ回るとか、無理でしょ?」


 二人がちょっと膨れる。いやいや、無理なんだから。納得して下さいよ……。


「さらに……ふう。なら、まあ、ここに居る人なら良いでしょう。……みなさんなんとなく判っている通り、俺は、瞬間移動に近い能力も持っています。この力は自分自身にしか、作用しないんですよ。これは真面目に。なので、連れて行きたくても連れて行けないんです」


 ……納得してないな……これでもか。でも、本当の事を言った感は伝わったようだ。実際嘘じゃないしな。


「判りました……では……ほとぼりが冷めたら、お連れ頂けますか?」


 ほとぼりっていつになるのか。美香さんや……。


「ええ。そうですね。御主人様。私達もそれまで、この屋敷を守ってお待ちしています」


 ぇーだってさー。とりあえず、解散! ってしようと思ってたのに……。


「いつになるか判らないし……そもそも、指名手配とかしている側を倉橋さんが牛耳ってくれなきゃなんだから、時間かかると思うよ?」


「それは理解しております」


「御主人様のお帰りをお待ちしております」


 だから……メイドズは……。


「はぁ……判った。とりあえず、倉橋さん任せだけど、ここの維持とかは問題無く出来るだろうし、三沢さんに預けてある資金とか資産もあるからさ。松戸さん、任せるわ」


「はい。お任せ下さい」


 うん、良い笑顔だ。


「森下さんはあまり趣味にお金を使わないようにね」


 この娘の趣味は「戦える」衣装を創り出すことらしい。その中には武器や防具を創る作業も入っている。放っておくと業務用のミシンとか、最新防刃素材とか業者のように購入してしまう。


「御主人様の為に御衣装を用意しておきます」


「松戸さん、見てあげて」


「はい」


「美香さんは普通に生活出来るレベルまでリハビリを」


「畏まりました」


「無茶させないでくださいね?」


 お付きの人にも念押しする。


「では。そうだなぁ……早くて半年……遅くとも一年後くらいには一度様子見に戻るかな。とにかく緊急の連絡は……それこそ、誰かの命の危機だったりしたら、俺の部屋で呼んで」


「呼ぶ?」


「うん、大きい声で。何度か呼んで」


「……は、はい」


「その時によって違うし、時間はかかると思うけど……なるはやで戻るから。よし、んじゃね」


「はい。行ってらっしゃいませ」


 手を振って……俺は自分の部屋に入った。


「よろしかったのですか?」


「ん? 何が?」


「御自分の名誉を傷付けられて」


「んーどうでもいいよ、そんなの。というかさ……ちょっと面倒くさくなっちゃってさ~。投げだし? 簡易結界のおかげで自宅は保全されたし。特に今は興味がさ、異世界に全振り状態だからさ……」


 操作室でリクライニングチェアに腰掛けて、コーヒーを飲む。この辺はもう慣れたものだ。


「確かに……少々煩わしくはありますね」


「だろ? それこそ、全部燃やしちゃうとか出来ると思うけどさ。その後が面倒くさいし、手を出しておいて何もせずに放置も無責任じゃないかと思うし」


「私は迷宮創造主マスターのお望みのまま」


「ああ、よろしくね、シロ。んじゃ探索を再開しようか。まだ、連絡が取れる範囲、距離も判明してないよね?」


「そうですね。私と常時連絡が取れる距離を測るのは非常に大切ですね。ですが、まずは文明の痕跡と接触していただかないと。迷宮創造主マスターがそれに触れることで、私の各種情報が更新されますから」


 

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