194:御大の告白

 つまりは。全ては我々で為せということなのだ。当然だ。当たり前だ。


 彼に……彼に、されたことと同じレベルの事をやり返させてしまったら……。


 今回の指名手配は……全国で臨時ニュースとして取り扱われた。しかもその発表は公式なモノだ。通常なら……逮捕される前に、ここで人生は終了だ。


 指名手配されて、逮捕されて。その後、裁判は行われるにしても、罪状的に死刑だろう。いや、もしかしたら彼の身柄はそのまま、米国へ移送されることになっているかもしれない。


 罪状的に世の中に出てくることはないにしても、社会的には抹殺されるのは間違い無い。


 というか、一度こんなレベルで悪評がばらまかれてしまったら、彼が無罪であっても、社会的に立ち直ることは不可能なのだ。

 

 それは彼を社会的に「殺した」と同意だ。なので、彼がそう判断してもおかしく無いのだ。


 それくらい……取り返しの付かないことをしてしまった……ということをヤツラは……愚か者共は判っているのだろうか。


 いや……目先の利益に惑わされて、何一つ見えていないか……。


 正直、彼は証拠を残すようなことはないだろう……多分、全ての施設が一晩で焼け野原……だ。そこに居る者も一緒に。全て。


 だが、それによる、それによって発生する混乱は……今回、日本だけでなく世界に大混乱を巻き起こす。


 彼が……その後、君臨してくれる……というのであれば、それはそれでいい。あの力……私は最終的な出力を実際に計れた訳では無いが、あの日々成長していく凄まじき力があれば可能なハズだ。


 だが。彼は確実に、復讐が終われば、ハイそれまでよと全てを放り投げる。混乱がどれほど大きかろうかなんだろうが、自分の身の回り、目の届く所以外には興味がないのだから。


 微弱ながらもたまに私にささやきかける「未来視」の力は、そう語りかけてくる。

  

 ……正直、今の段階から、状況を逆転したところで、彼の名誉を上手く回復できる……のは非常に難しい。


 ネットが中心になった現代社会では、広がった情報や写真などの残骸を消し去る事は出来ないのだから……。

 

 それが判った上で、彼は私に任せてくれたのだ……。


 それにしても……猪戸か……「気炎散弾」……ヤツの生み出した技は未だに再現できる者がいない。聞いたことが無い。

 にも拘らず、「猪戸」という家は補給を主とする役職であったため、本家外と言われて総領十二家、さらに化者カノモノの中でも差別され続けていた。20年前の遠阪の件より前は特に、酷かった。


 世の中から排除され、人権を与えられていなかった我々能力者の中で、さらに、差別され続けて来たのだ。


 絆……いや、村野くんは呪縛と言ったか。呪縛が失われれば、それは当然、怨みもしよう。


「倉橋様。では。後始末の方はよろしくお願い致します」


「ああ。すまないな……」


「耳目」片矢だったか……陰陽寮で唯一な「実力者」だ。監視者としても彼が現場に居るときは緊張感が違うと聞いたことがあった。

 今では完全に村野くんに忠誠を誓っている。一切興味がないにも関わらず……彼のカリスマ性は相当なモノだな。


 今回、彼とはほぼ同じ思いを抱いているということを確認している。彼も……この日本という国のこれからと、これまでを真剣に考えている。


 正直な話、私は、猪戸(バックに米国)の主導で、今後も日本が守られていくのであれば、それはそれで構わないと思っている。

 だが。残念ながらそれでは絶対に、日本は立ちゆかなくなるのは間違い無いのだ。


「破気」の弾丸は続々と生産されているようだ。気力操作に長けた能力者を確保出来たのだろう。

 それを遠距離から銃で撃ち込むことで「全てを解決できる」と思っているようだ。


 既に……初野瀬を襲撃された際に、村野くんに完全に打ち負かされたにも関わらず。


 まあ、いい。それも含めて、掌握しなければ成らない。そのための第一歩だ。


ズズズン……


 しばらくして。


 低い音が足元から響いてきた。爆破されたのは、村野くんが偽名で借りたとされているビルの地下だ。


 早速そこに、既に配備してある部下を向かわせる。今回の手柄は全て、倉橋に列なる者達のモノとする。なので、うちの者以外には知らせていない。


「誤爆……ではないかと……との事です」


 現場へ向かった者から報告が行われる。ああ。そうだな。そうとしか思えないやり方で爆発させてもらった。


「死亡しているのは……成人男性……と言う事以外は判別できないレベルの損傷度で……これがあの、指名手配の……」


「ああ。だと良いがな……とりあえず……来たな」


 肥えた……という言い方が一番似合うだろう。巨漢を揺らしながら捜査指揮室として借りている部屋に入ってきたのはそんな外見の男だ。


「おお、おお。倉橋の御大。お疲れさまでしたな。申し訳ないが、後は我々が調べさせていただきますよ」


 頭を軽く下げて全身で感謝を表現しているが、目元は一切笑っていない。「解体」……陰陽寮所属で「耳目」とは違った方向で知られている名だ。


「「解体」の……」


「丸岡でございますよ、御大。今回はお手柄でしたな」


「偶然だよ。偶然……。実力なら良かったのだがな」


「またまた。運も実力のうちなのは、我々の世界では至極当たり前のこと」

 

 目線が私の肢体を舐め回すかのように動く。ふむ。この手の感情とはしばらく無縁だったが、久々に思い出したな。生理的に気持ち悪い。


「では「解体」丸岡殿。後はお任せしてよろしいか?」


「ええ。お任せ下さい。長老様方にはありのまま、全て報告させていただきます」


「判った。では頼む」


 さあ。これでどう出るか。 


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