191:臨時放送

 実は、俺が居室に選んだ一階の部屋には、部屋とほぼ同サイズの地下室がある。


 まあ、ぱっと見、クローゼットだ。何でもこの屋敷の前の持ち主が、いざというときにシェルターとしても使用するつもりだったそうだ。空調完備、換気万全の金持ち仕様だ。


 そのクローゼットのさらに下、地下二階部分に内緒で、次元扉設置用の部屋を作成した。ハッチやハシゴは存在しない。


 では、どうやって部屋に降りるのか。


 簡単。


 毎回、「大地操作」で穴を空けるのだ。俺にしか出来ないし、継ぎ目も無いし、多分、メイドズが入ってきても地下二階の部屋は気付かないはずだ。


 って別に彼女達に知られてもいいんだけどね……なんか「知ってることで迷惑がかかってしまったら」と思うと話せずにいる。


 異世界行きの扉。その管理は厳重にしないとヤバいことになるのは確定だ。特に……回復水「程度」のせいで、米国なんていう超大国に目を付けられてしまったらしいからね……。こんな扉を知られたら、戦争覚悟で突っ込んできそうな匂いがする。


 まあ、まだ、異世界にどんな金のなる木が生えているか、俺にすら判らないのに、そんなこと考えても意味ないんだけどね。


 ……本日も、跡形もなく。地下二階への穴を塞ぐ。


 地下一階のクローゼットにはパソコンを設置して「外界からの音を遮断した落ち着く仕事部屋」ってことにしている。


「ノックしてくれれば、センサーが反応してパソコンが教えてくれるのよ。数分すれば反応するからさ」


 あ。そんな感じで言ってたや……。やべ、今日は偶然、帰ってきた瞬間だったから大丈夫だったけど……これ、昼くらいにノックされてたら、シロから連絡もらっても対応出来なかったじゃない……。


 後で説明しとこう。


 封印という名のカギを外し、自室のドアを開ける。


「って、うわ」


 開けた廊下に森下さんが立っていた。


「ま、待ってたの?」


「はい。あの、少々……その……対応に……その……」


 ぬぬ。森下さんがこの反応は初めてだな……何があった?


「御主人様、今までTVやラジオの方は?」


「いや。今日はどっちも見てないし、聞いてない」


「では……居間へ……」


「う、うん」


 と、居間へ向かうと、松戸さんもなんとなくこちらをみる目に迷いがある。この二人がここまで慌てるっていうのは……何だ?


 居間にあるソファに腰掛ける。倉橋クオリティだから、座り心地は満点だ。人をダメにするクラス。


「御主人様、こちらを」


 リモコンを操作する。大きなTVモニターがニュース番組を映し出した。こちらも……まあ、この屋敷の家電、家具調度品は倉橋クオリティ。このTVは全チャンネル録画機能が付いている。


「つい先ほど……日本中のTV、ラジオのほとんどの局で番組が、緊急ニュース特番に切り替わりました」


ぶっ。


 ……俺。だ。


「……それにしても異例です。日本と米国の二カ国から同時指名手配、しかも大々的に世界中の警察機関への情報公開、無差別テロリストとして懸賞金……五億円ですか……」


「国際テロリストに詳しいジャーナリストの大園さん。この村野久伸という男が、ここ半年の間に500人以上の殺人を犯したということなんですが」


「……いや、私はこんな国際テロリスト……しかも日本人がいたことすら知りませんでした。というか、そもそも、日本で半年で500人もの殺人を行えるハズがな……」


「それは貴方が、不勉強だっただけでしょう? そもそもこれは当局発表だ。日本と米国という二つの国が共同で発表した正式なものだからねぇ。異例は異例だが、この村野っていうのが、それだけ異常ってことでしょう?」


「当番組の御意見番、飯尾さんもこう言っていますし、大園さんは日本でと言いましたが、もしかしたら米国で、かもしれませんよね?」


「米国……でもここ最近大規模なテロは……」


「それは当局が重要情報として一時隠蔽していたんじゃないのかね?」


「そもそも、最初から懸賞金五億っていうのは……どう考えても……」


「それだけ凶悪、それだけ早急に捕らえなければということだよ、君」


 ……という、訳の判らない問答とその背後で隠し撮りしたらしい、俺の横顔の写真が常に画面に映っている。スタジオの……セットの背後のモニターに映ってるのか。


「これは……どういうこと?」


「三十分程前に……倉橋様から私の元にメールが届きました」


 松戸さんが、タブレットをこちらに向けて渡してきた。そこに表示されていたメールには。


『申し訳ない、力及ばず、動かれてしまった。とりあえず、村野くんには何が起こっても行動に出ないように伝えて欲しい。詳細を確認後、早急に本人に連絡を入れる』

 

 ほむほむ。メールだけど、完全に口語体。慌ててる。チャットソフトみたいだ。うーん。


「でっち上げられた?」


「はい。その様です。倉橋様は何らかの武力行使を疑って偵察していた様で裏をかかれたらしく。彼らはそちらのやり方を選ばなかった……ということでしょう」


 松戸さんが言うと、森下さんが頷く。まあ、確かに。そうだろうね……多分、この手のやり方は思いつきもしなかったというか。絆なんていう呪縛を使用して、ひた隠しにしてきた案件だものな。


 大々的にメディアを利用するなんて攻め方は「純日本製の陰陽寮」の頭の固い上層部では思いつくはずもない。長老会だっけ? 美香さんを酷使したヤツラ……あ。ちょっとイライラしてきちゃったな……。


 倉橋さんの言う通り、これじゃヤツラの思惑通りか。


 ん? バルコニー側の窓から風が……ってマジか。

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