189:はじめての窒息
それにしても匂いが……濃い。
背後の出入り口が閉じられると、そこに現れたのは、巨木によって構成された……幻想的な森。
そして、俺が立っているのはその森にぽっかりと空いた小さな空間。50メートル四方……くらいか。ここだけ、何故か木が生えていない。森の広場? って感じかな。
「森……というか、樹海……しかも、アニメで見たようなとんでもない樹海だな。異世界か。はは。大地……は一緒だな土の地面だ」
ここから見える限りは巨木が連なり、日の光が翳っている。足元は適度に苔が生えており、巨木の根が異常に絡まっている。
緑の匂いが。スゴイ。なんだっけ? 森林浴で森のエネルギーを……吸収するんだっけ? 昔流行ってた気がする。
道……獣道すら見つからないけど、歩けないこともないな。
「おお……判るな……確かに」
しばらく歩いて……振り返った。俺の迷宮はこっちにある様だ。これは……帰巣本能ってヤツなのかな? 鳩とかと一緒ってこと? これなら夜でも迷わずに帰れるな。
『歩きにくいので、深夜帰宅はお薦めしません。というか、そもそも夜行性の魔物が多いため、夜の森での活動は推奨されません』
シロの声、念話も変わらずに届く。
「ああ。野営せずに、日帰りで戻るつもりだ」
背中に背負っているのは、魔術背嚢だ。最下級だけど重量軽減20%でもの凄く軽い。この中には寝袋と簡易マット、タオルを入れておいた。
その他の重い物、大事な物は、たすき掛けした魔法鞄の中だ。魔法鞄の中にはかなりイロイロと入っている。とりあえず、適当に詰め込んだからね。
レベル30で使える様になったスキル、【収納】はレベルが1上がった現在でも、収納量は約1㎏程度のままだ。なので財布とスマホと……正直、異世界では一切使えない小物類を入れてある。
ちなみに、魔法鞄と【収納】の最大の差は「大きさ」らしい。
「魔法鞄に入れられるのは、人が持てる物、それよりもちょっと大きい物までです。例え重さは大したことがなくても、テントなどを大きく広げた状況で収納はできません」
「折りたためば、入るのに?」
『はい、これは魔法鞄のに施されている【錬成】の法則のせいで……だそうです。鞄の入れ口の大きさのせいとか』
「その点、【収納】はサイズは関係ないと」
『そうですね。【収納】は
まあ、そうなるだろうね。魔法鞄が無い時は『収納』は使っちゃダメと。
『とはいえ、今、
うん。容量は隠しておかないとね。
歩きやすい方向に適当に歩いている。既にどこをどう歩いていたかは判らない。低木層……森の木の下の方に成育するタイプの木々が少なめなので助かった。これなら今疎開している屋敷の裏山の方が……歩きにくいよな。あっちは、蔓草や人間の身長程度の雑木群でみっちみちだし。
「ん?」
【気配】……か。【周辺視】ではまだ何も感知しない。魔力感知もまだだよな。とりあえず、右手奥に敵か。
「シロ、そっちでは俺の感じたことが伝わってる?」
『完璧ではありませんが……ダンジョン内でのサポートに比べると劣るのは致し方ないかと』
とりあえず、獣か魔物か。
『ここは深淵の森ですからね……基本は魔物、しかもかなり高レベルになるかと思います』
近付いてみるか……。
森の中の魔物……って何だ? 俺の脳内情報だと、リス、野兎、狐、狸、鹿、狼、猪……いや、猪はどちらかといえば雑木林か。裏山にも多いしな。
ぬ。【周辺視】に赤い点が。赤い=危険、敵対の表示だ。
駆体は……かなり小さい……な。
ウサギ。だ。いや、ウサギ……とはいえ、頭に一角獣の様な……大きな角が生えている。あれだ……ホーンラビットか! ってあれ? ホーンラビットって「dungeon」の基本セットにいたよね。
『はい、いますね。いますが、アレは別モノ、ハイホーンラビットです。ホーンラビットと侮ると、いつの間にか身体に穴が開きます。ウサギの甲殻角がドロップアイテムです』
「高額買い取り?」
『はい、非常に稀少だったと思います。魔石もかなりの大きいですし』
あんなに小さくてカワイイのに……。
『魔物はこちらに気がつけば確実に襲いかかってきます。人類の天敵ですから、例外はありません』
「
『魔物で……というのはデータにありません。そもそも、嫌悪し、排除すべき存在です。
水を生成する。そしてハイホーンラビットの鼻と口を塞ぐ。当然、暴れ始めた。そのまま、維持する。
魔物か動物かは見た目で判らない?
『見た目では判りませんが、明らかに魔力が多いので、魔力感知で判るハズですし、【周辺視】でも敵として表示されるハズです』
……しばらく様子を見ているが……死なない。さすが魔物……しぶといな。
『魔物は空気による呼吸だけでなく、魔力からエネルギーを得ることも可能です。なので、窒息するまでに時間がかかるかと』
そうなのか。まだ、暴れている……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます