187:やっと、異世界の事

 さて。当初の目的だった「簡易結界の長期稼働化計画」と、「美香さんの気力回復計画」は順調で軌道に乗ったようだ。


 簡易結界は魔石増量版を、この疎開先の敷地を完全カバーするように配置した。裏の山も私有地らしいので、そこも押さえてしまう。


 さらに念入りに、屋敷には俺が認めた人間しか入れない様にした。最初困るかな? と思ったのだが、屋敷と門の間に、ゲストハウスが存在するのだ。誰かと会うときなんかはそこで面会すればいい。


 美香さんは正直、精力回復薬が思いのほか効いた。現在は普通の病人レベルに落ち着いた様だ。

 食事もまだまだお粥が中心とはいえ、「噛んで食べる」事が出来るようになってきているし、運動もいくつかのリハビリメニューをこなす事が出来る様になって来ている。

 意識は元々ちゃんとしているので後は身体を慣らしていくのが重要になるのだろう。


「今考えれば、あの頃は……もう、既に、立っていられるような体調では無かったのです。それを全て、気力によってカバーしていました」


「俺が行ったとき、自力で動いてたよね?」


「もう、必死でした……最初は賊かと思っておりましたから」


「まあ、賊だよな」


「ありがとうございました」


「気力は? 使わないで生活できてる?」


「はい、最初に禁止されて以来、ちゃんと。御主人様の言いつけを守っております」


 既に血色も良く、彼女につい、言ってしまった……「幽鬼」の様な形相は……面影も無い。

 目が大きめの、可愛らしいお嬢さんだ。片矢さんが姪っ子ぞっこんラブなのも良く判る。

 大人数所属系アイドルでセンターに立っていてもおかしく無いレベルだと思う。あまり、その辺の事に詳しくない俺がそう断言できるレベルなのだから、抜きん出ているのだろう。

 身長は……成長期に気力を使いすぎてしまったためか、低い。大体、140センチ程度だろうか? 体重も、もの凄く軽いハズだ。今も増えてないし。


 で。というか。 


「というか……。御主人様はさ……止めようよ。あんな状況に居る子どもを助けるのは普通の事だよ」


「子ども……叔父様は御主人様と」


「片矢さんは……さ……うーん。まあ、命助けちゃったし、命よりも大事な姪御さんも助けたし、呪縛も解いたし。だから、もう、仕方ないと思うんだよね。そこは諦めたよ。でも……」


「なら、私も一緒でお願いいたします。叔父様と一緒で」


「……片矢さん……現在も陰陽寮の奥を探りに行っちゃってるのよ? 多分。命がけ無くていいのに、もう」


「それくらいで私達の受けた恩が返せるとは思えませんが」


「いやいや……ここまで頑張りすぎてたんだから、良いんじゃ無いの? もう」


「私も早く回復して、御主人様のお役に立つようにならねば」


 お付きの人が……乳母よろしく、ちゃんと止めてくれないかな? と思ったけど、この人たちも全員、俺の事を御主人様呼ばわりだもんな……。


 なので、そろそろ。本題に進もうと。


「シロ。とりあえず。こっちの世界で行動を開始しようか」


「大丈夫なのですか? 私が言うことではないかもしれませんが……なんというか、既に、現実世界では御主人様は唯一無二の存在になりつつある気がするのですが」


「んー俺が表立って動くと、陰陽寮てきがわに被害が出ると思われてるからね。まあ、腹が立ってきたらやっちゃうかもしれないし。なにせハイエルフだしさ」


「種族をそうやって理由にするのは、合理的ではありません」


「ですよねー。まあ、だから、現実世界では活動しない方がいいんだよ。隔離されていれば、さすがに、怒り心頭でぶっ殺す……なんて状態にはならないと……思うよ?」


「なぜ、疑問形なのですか。では。異世界探索に赴いても問題無いと?」


「ああ。片矢さんとか三沢さん、鏑木さん、しまいには倉橋さんまで、俺の事をスゴイって言うモノだからさ……俺の隠密行動能力は「耳目」片矢さんよりも上……ってことにされちゃってるんだよねー。だから、連絡が取れさえすれば、何しててもいいんだってさ」


 そう。倉橋さんに聞いたのだ。直接。


「基本、このお屋敷にいるんですけど~どこか、誰も知らないような外国に旅行してもいい? 気晴らしに」


『それが……できるのかい?』


「んーできる……かな」


『別に我々が感知出来ないレベルの行動であれば、何をしても構わない……というか、止めようが無いだろう? ああ、わざわざ聞いてくれたのだね……すまない。ありがとう』


「イロイロと面倒かけてるみたいだしね」


『もしとんでもない秘境に行くんだとしても。できれば、何日かに一回は連絡が取れるようにお願いしたい所だが』


「ああ、それは大丈夫。多分、メイドズに言ってくれれば折り返せるようにしておくから」


『そうかい……それもスゴイな』


 とまあ、倉橋さんまで、俺がそういう行動が出来てしまうと思い込んでいるみたいなのだ。下手すりゃ、瞬間移動も出来ると思っている感じさえある。


「でと。異世界での最初の一歩はどうすればいい?」


「はい、畏まりました。まずは。迷宮を創られることから始めるのが肝要かと」


「? 創ってる……よね?」


「いえ、御主人様の我が儘放題ダンジョン……ではなく、一般的異世界人向けのダンジョンです」


「ほほー」


「異世界に降り立つには、異世界に入口を創る必要があります。ダンジョンの進入口、ですね。御主人様もそこから外に出ることになります」


「あーって、その入口、出したり消したりできないの?」


「ダンジョン内の構造物であれば、DP消費も少なく、御主人様の自由に出来ます。が、異世界との接続点は多大なDPを消費しますので」


「ああ、それは確かに勿体ないか」


 DPは大事だ。凄く大事だ。


「ちなみにですが、既に現時点で迷宮創造主マスターのダンジョンは、異世界で最大規模に成長しているかと思われます。通常、ここまでDPは稼げませんし」


 それは時間が止まってたから……だと思うけど。


「違いますよ? あんなに何度も何度もモンスターハウスを殲滅を繰り返す人間がいないだけです」


 はい。ごめんなさい。


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