186:大国の影

 マイクロバスで連れてこられたのは……とんでもない敷地のとんでもないお屋敷だった。


 ……舐めてたな。大金持ちの常識感覚。


 山の麓に……鉄柵で囲まれた広大な土地。その真ん中に屋敷。ちなみに鉄柵越しに中を見ても、屋敷は見えないくらいの距離があるらしい。

 まあ、柵と屋敷の間は鬱蒼とした雑木林になっているので、数メートル先に何があるのかも判らないんだけど。


「というか……デカくない?」


 部屋数……全部で20くらい無いか? 三階建てだし……。


「お屋敷と聞いていましたので、これくらいは」


「いやでもさ、倉橋さんに使用人はいらないって言っちゃったよ? 俺らで大丈夫だからって。管理できる?」


「問題無いかと思います。庭の手入れは適度で良いのですよね?」


「ああ。あまり、排除して視界が良くなっても困るしね」


 松戸さんが張り切っている。スゴく。


「御主人様、巫女様はベッドに。お付きの靖子さん、弥生さん、満代さんは交代制でお世話をするそうです。それ以外は、この屋敷の仕事を行うそうです」


「いやいやじゃないの?」


「そんなはずがありません。三人とも巫女様に付いて長いですから、今さら別の仕事をするのは……と戸惑ってましたから。まとめて雇っていただいてありがたいと。後で御挨拶に伺わせてください、だそうです」


 あ。森下さんもなんか張り切ってる……。成り行きで連れて来ちゃったけど……うーん。良かったのかなぁ。


 明らかに、ここは陸の孤島。大きくて広くて、自由度は高そうだけど、実は座敷牢と一緒だ。


 君島さんにはそんなつもりはないだろうし、俺もそんな気はしていないけどね。


 でも……どこ〇もドアじゃなかった、次元扉がなかったら……ねぇ。結構反発してたかもしれない。


 食糧は半年に一回程度、定期便で届くらしい。


 なので、あらかじめ倉庫には米や小麦粉、水などのある程度保存が利く物が備蓄しておいたと言われた。巨大な冷凍庫には冷凍食品なども山積みにしておくと。


「大丈夫そう?」


「はい。この人数が数年暮らしていく分には何も問題無いかと思われます。問題は生鮮食品、特に魚くらいでしょうか? 裏には家庭菜園もありますので、野菜やある程度の果物はどうにでもなりそうです」


 え? そうなの? 倉橋さん、やるなぁ。


「この屋敷を整備した際に、家庭菜園もちゃんと手を入れて、収穫できる様に整えた様ですよ? つい昨日まで手入れされていたと思われます」


「つまり……ってさ、この屋敷……庭に川は無いの?」


「ありま……したね……」


「魚いないかな?」


「用意されていそうな気が……」


 つまりは。魚は釣れば食べられる。裏の山には野兎、鹿、猪も生息している様だ。狩れば喰える。

 そんなことをしなくても、冷凍庫には様々な肉が山積みだったそうだ。


 本当は……到着したその日のうちに簡易結界を配置する予定だったのだが、広すぎるので諦めた。まずは屋敷のみ。それから、数日かけて、結界を完璧にしていった。


「ということで、暮らしていけそうですね。倉橋さん、様々なご配慮ありがとうございました」


『それは良かった。礼には及ばないよ……私の我が儘だと前にも言ったハズだし』


『本日は少々きな臭い報告が。米国の……有名PMCで日本に対しての動きがあります……』


 この屋敷は電気、水道、ガス、そしてネットも完備だ。なので、早速意思疎通のためのすり合わせ会議を開催する。今日は倉橋さん、三沢さんと三者でビデオミーティングとなった。


『これはひょっとすると……私の落ち度かも知れません』


「どういうこと?」


『実は……マース……うちの医療スタッフだった彼の件です』


「ああ、「回復水」に異様にこだわった」


『はい。ヤツは既に解雇したのですが、そもそもうちの規約に違反していたので、その際に様々な契約で縛りました。守秘義務といった当然の縛りは当然のこと……傭兵契約という裏の契約も結びました。これは……我々の業界では非常に重い契約で、破った場合、あらゆる組織から厄介者扱いされ、ヘタするの後ろから撃たれる可能性すらある、恥知らず認定されるモノで……』


『つまり、要約すると。そいつが……米国を動かした可能性がある……と?』


 倉橋さんの声が怖くなった。


『はい……さすがに十年以上共に戦ってきた仲間を始末するという考えには至れず……申し訳ありません……』


「ああ、まあ、しょうがないよ。裏社会でも無い限り、「回復水」に執着したから、即殺処分……というのはあり得ないし、特に日本でそれが出来るのはちょっとイカレてる」


 三沢さんはモニター越しに頭を下げっぱなしだ。


「気にしなくていいよ。三沢さん。少なくとも俺は気にしてない。もしも……そういう自体が本気で嫌だったとしたら、俺自身が即処分してる」


『はっ……』


『しかし、村野くん、米国が動くとなると途轍もなく厄介だぞ?』


「でしょうね」


 倉橋さんもどこか思い当たる所があったのか……。


『ちょっと早急に調べなくてはならないことが出来た。今回の話はこの辺でよろしいだろうか?』


「ええ、いいですよ」


『三沢さん、そちら関係からも情報を集めてくれないか……村野くんは、そう言うが、これまでの流れとは違う方向で攻めてくる可能性がある』


『はい』


 そう言うと、二人は通信を切断した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る