185:周辺視

 魔法鞄に手を突っ込むと頭の中に、入っているモノのリストが表示される。不思議な感覚を味わう中、気付いたことが。


 

「刻印・周辺視」:スキル【周辺視】が刻印される。


 忘れてない? これ。


「シロ、【周辺視】ってどんなスキル?」


「自分の周囲の様々な状況が詳細に理解出来るようになるスキルです。申し訳ありません、この刻印……再確認すれば良かったですね……忘れてらしたのですか……」


「う、うん……。なんとなく魔法鞄に入れて、後で確認しようとは思ったんだけど……」


 ということで、【加速】と同じ様に、手の甲に当てて魔力を通す。スキル【周辺視】が手に入った。


「おっ」


 思わず声が出てしまうくらい、自分の周囲がハッキリとした。ああ、これは……拳闘士の時の各種スキルが作動している状態……よりも使い勝手が良さそうだ。


 ゲーム好きなら判ると思うが、いきなり頭の中に「自分中心とした周辺のミニマップが表示されるようになった」感じだ。

 ミニマップには周辺の地理や状況、建造物の形状、そして生物がマーキングされて表示されている。


 スゴいな。これ。【気配】や拳闘士スキルとはまた違う感覚だ。

【気配】は便利だけど、瞬間の状況判断には向いてない。ちょっとだけラグがあるのだ。近接戦闘では使いにくい。


【周辺視】はその点、ラグ無く使えそうだ。


 拳闘士から魔術士に転職したときに感じた気配察知関係の喪失感……を別感覚で補填したというか。片矢さんに「耳目」の技で近付かれていきなり襲われても対応出来そうだ。


 まあ、でも、この手の超便利なスキルは頼り切ってると隙を突かれる可能性があるから気をつけないとだけど。


「ということで、スッカリ忘れていたスキルもゲットできたし。そのスキルが有能っぽいってことで。めでたしめでたし……かな」


 ということで、改良した簡易結界を自宅に設置、そして、師匠宅、さらに若島邸のヤツも差し替える。


 若島邸には……手ぐすねを引いていたかの様に、倉橋さんが待っていた。


「これで……どれくらいメンテナンスをしなくても良くなったんだい?」


「二年くらいですかね」


 あ。倉橋さんのポカーンとした顔。そう簡単に見れるもんじゃないかもな。いつも凛々しいから。


「……凄まじいな……。どんな力で動いているんだ……というのは聞かないことにしておこう」


「ええ、まあ」


「さて。本題だ。以前言った通り、村野くんには既に、出向に次ぐ出向で若島のに所属する名ばかりの商社に異動してもらった。最終的にもう大丈夫となった場合、戻るというか選択肢も残してある」


 ㈱ヒイラギ総合商事・経営企画部課長……聞いたことない会社だ。まあ、ダミーというか、若島くらいのになれば、中身の無い会社をいくつも抱えていておかしく無い。


「面倒だったでしょうに……ありがとうございます」


「役職もダミーで、部下はいない。基本はリモートワークによるアドバイザーだ。手掛けていたプロジェクトの相談も乗れる様にしておいたよ。まあ、そのうち、コンサル業務も頼まれるだろうね」


「はい。それはまあ、これまで通りというか。というか、営業や訪問がないだけ、楽でしょうね」


「そう言ってくれると助かる……全ては……私の我が儘に近いからね……」


「能力者を無駄に減らしたくない……ですよね」


「ああ。できれば……できればだが、陰陽寮と総領七家、その戦力をそっくり残したまま、改革してしまいたい……そのためには、君を患わせたくないし、怒らせたくないし、関わらせたくない」


 まあ、それが正解だろうなぁ。


 というか、倉橋さんも、片矢さんも。二人とも今後の日本、そして「海の底より来るモノ」=「呪」との戦いを思い浮かべている。ちゃんと自分たちで戦う未来を思い浮かべて危機感を感じ、具体的な方法を模索している。

 それこそ……倉橋さんなんて賢いのだから、俺の力を利用して、権力を握ることも不可能じゃ無いハズだ。でも、それじゃ権力を握った後に戦力が減りすぎる。

 全面的に戦った場合……それこそ、数が多くなれば俺も本気を出さざるをえない。【手加減】にも限度がある。


 俺の力を認めてくれているのは確実だ。最終的にどうにもならなくなったら、助力を乞われる事だろう。

 だが、それに頼ろうとせずに、輝かしい未来を勝ち取ろう、生み出そうと必死だ。


 それは尊敬に値する。


「面倒をかけて済まない……」


「だから、それはいいですって。別に自分は積極的に誰かを傷付けたい訳じゃ無いですから」


「だが、降り懸かる火の粉は?」


「そりゃ、払いますよ。その時に裏拳が当たってしまう可能性は高いですけど」


「そうだな……その裏拳の破壊力が凄まじいだけだな」


「そうなるようですね……」


 やれやれ……という困った顔。


 だって本来なら、俺には手加減する義務すらないからね。やろうと思えば証拠を残さずに人殺しができてしまったのだから。

 

「ということで、早速で悪いのだが、明日には移動出来るだろうか? 様々な理由が重なって、で明日から数日はヤツラに隙が大きくなる。このタイミングをを逃すと……病人を運ぶのは難しくなりそうなんでね」


 俺が一人で、まあはメイドズを連れてくらいだったら、【隠形】を駆使していつの間にか移動している……なんてことも可能だろう。


 だが、美香さんを連れ出すことはかなり難しい。倉橋さんが出来るタイミングがここしかない、チャンスだというのなら、そうなんだろう。


「判りました。言ってありますから準備は問題無いと思います」


 メイドズには既に、持ち出すモノはまとめてもらっているし、俺の荷物も用意してある。まあ、機材や、生活用品なんかは、ダンジョンの【倉庫】に収納してしまった。


 次の日の朝、倉橋さんに手配されたマイクロバス(探索手段防御能力機能付き)に乗り込んで、全員で移動を開始した。


 美香さんは起きれるようになっているのだが、歩いて車に乗り込むのか、車移動はどんな震動が加わるか判らない。基本、ストレッチャーでの移動になる。


 うーん。バス乗り降りとかでバレないのかな……。自宅から乗り込む場合は大丈夫だろうけど、向こうは……うーん。


 到着したらすぐに、簡易結界を展開だな。


 


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