174:巫

 片矢さんはどこか、意気揚々と部屋を出て行った。


 うーん。良いのか? こうやって周りに人を増やしていってしまって。


 正直、今後のコトを考えると、俺は一人でいた方がいいと思うんだよなぁ……何かと面倒なことになりそうだし。


 でもなぁ……追い出すのもなぁ……。


 ああ、そういえば。


「「星詠み」の……片矢さんの姪御さん……えっと美香さんだっけ、容態は?」


「はい。水分だけでなく、流動食なら受け付けるようになってきています。御主人様の言われたとおり、彼女の口に入るモノは全て、あの水を使っております」


 お。なんか森下さんが流暢に返事をしてくれるとなんか、新鮮だな。うん。こんな感じでしゃべる人だったのね。


「流動食の中身は?」


「水以外は、至って普通の滋養強壮に良いと言われているモノを少量、ミキサーしたものを」


「判った。俺が用意するよ」


 ダンジョン産の食材は……俺が調理した残りをメイドズが調理することはあるが、基本、俺がいないと新規で入手出来ない様になっている。


 メイドズの二人も、俺がいつの間にか「桃(のようなもの)」を手にしている……という認識のハズだ。


 飲み物は最初に彼女に与えたヤツにしてと。「回復水」に「ホルベ草」を少々。「モモ(のようなの)」で味を調える。


 流動食は……本当はおかゆ的なモノがいいんだろうけど……ってそうか。おかゆの水を「回復水」にして、米は普通のでいいよな。具に「ホルベ草」と魔物の肉……そうだな。個人的に一番身体に良い気がしたオーク肉を圧力鍋で煮込んで、細かく裂いて、ボロボロにして入れよう。


 出汁は普通に即席のモノで済ます。


 詳細は分からないけれど、キノコはそれなりに【倉庫】にぶち込んである。最初は無視していたのだが、行く度に結構レアっぽいのが存在するのに気付いて、摘まむ様になったのだ。

 

 将来的にはそれで出汁を取るっていうやり方もあるけど……今は使えないな。ダンジョン産じゃなくてもキノコは怖いからね。

 ああ、そういえば、この辺のキノコを少量食べて、ワザと毒状態になって、毒耐性のスキルとかゲット出来るのかな? 良くラノベとかである感じで。……怖いか。時間が合ったらやってみよう。


 って、肉の煮汁がもの凄くイイ感じだったので、少量加えるだけで、とんでもなく深い味付けになった。あとは塩、胡椒でイイ感じだ。


 やばい……やはり、ダンジョン産の食材を使うと料理がおかしい方向で旨くなるな。


「これ食べさせてあげて」


「はい。というか、今、意識がおありなようです。御主人様が寝込んでいると聞いて心配されてましたので……」


「ああ、そうなの? 一番体調悪い人に心配させちゃったか……。判った。俺が持ってくよ」


 部屋に入ると、そこにはお世話係の女官の人……えっと。


「櫻井さんです」


「櫻井です」


 あれ? あと二人は?


「一緒に助けていただいた、姉と妹は、倉橋様の別宅へ行っております」


 ん? どういうことだろう。


「倉橋様が「将来的に「星詠み」の巫をここで匿うのは辛くなるかもしれない。なので、移動出来る場所を確保しておいた方が良い」と、仰いまして」


 森下さんが補足してくれた。


「今は全く使っていない別宅があると言うことで、そこを使える様に……と、二人が派遣されました」


「アレ? というか……絆……は?」


「姉と妹は既に倉橋の御大の御力で回復致しました。私はもう少し……ということで、ここでお世話を」


 ほうほう。まあ、うん。ならいいや。というか、倉橋さん……どんだけ「力」を使ってるんだか……アレ、とんでもなく消耗するっぽいのに。本当なら何日も準備にかかるみたいだし。


 ベッドに近付く。


 こちらに目が向く。ああ。こんな顔をしていたのか。と思ってしまうくらい、「星詠み」の巫、美香さんは劇的な回復を遂げていた。


 正直、施設から連れ出した時は、気丈な姿を見せていたが……外見は……見ている方が辛いくらいに衰弱していた。それが……。


「体調は。どうですか?」


「はい……生きて来てこれ以上はないくらいに良いです」


 いやいや、それはこれまでが最悪だっただけじゃないかな……。


「村野様も倒れられたと聞きましたが……」


「ああ、申し訳ない。疲れていたみたいで寝込んでしまいました。今は、ほら、もう。ピンピンしてますよ」


 持って来たお盆を櫻井さんにお願いする。


「食べれます……か?」


「はい……あの、多分。もの凄くイイ匂いが……してて」


「当然、慣れるまで少量です。というか、この匂いを「イイ匂い」と感じる様になったなら……身体が回復に向かっている証拠でしょう。良かった」


「全ては御主人様のおかげです」


 って……おい。ビビるって! 気配隠していきなりいるのやめてよ! 俺の感知外の能力持ちな上に、現状、敵意が無いから揺らぎすら感じられないんだから。


「御主人様……叔父様は村野様に?」


「ああ、命を賭してお仕えすることになった」


 賭さなくていいて……。


「ふふ……お困りになられてますよ?」


「それ、そんなに量もないから、食べてからにしましょうか。話は」


 櫻井さんが美香さんの身体を起こし、給仕し始める。おかゆは大した量じゃない。後はいつもの飲み物だ。まあ、既に俺が用意した最初の「桃水」は最初の一日で無くなっている。なので、久々のハズだ。


 量が少ないのもあって美香さんの食事はあっという間に終わった。


 その間、失礼かと思ったが、身体の様子を見せてもらった。気力の回復は……正直、それほどではない。

 だが、見た目……肉体的な回復はかなり顕著だ。今の彼女を見て、「幽鬼」という単語を思いつく人はいないだろう。


「癒水」は……いや、もう少し気力が回復してからの方がいいだろう。怪我ならね、強引に治すって手もあるんだろうけど、彼女の場合は、身体的な損傷は無い訳で。肉体的な治療ではなく、体力回復的な治療にこの「癒水」がどれほど効果的かよくわからないし。


 彼女の衰弱は非常に強力だ。回復しつつあるとはいえ、体調回復はとにかく早く安心が欲しいレベルだ。

 この段階になっても、片矢さんに「もう大丈夫」とは言い難いからなぁ……。




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