175:僕の夏休み
数日が経過した。美香さんの容態が未だ安定しないのもあって、俺も家でリモートワークってことにしている。まあ、今日になってやっと顔色が「普通」になった感じ……かな。
陰陽寮の動きは、未だにハッキリとしていない。倉橋さんが内部から、「耳目」片矢さんが外側から情報収集を行っているのだが、肝心の上層部の動きがハッキリしない……らしい。
「陰陽寮の上は、長老会。……正直、現在何人の長老がいて、それがどういう力を持っているのか? なんていうのは一切謎のままなのだよ……。それこそ、我々総領に属する者でもこの程度の知識しか持ち合わせていないのさ」
倉橋さんが知らないっていうのは……。
「その妙な秘密主義は……強大な力を洗脳に近いやり方で従えているという恐怖を隠すためなんでしょうかね」
「そう……かもしれないね……。彼らは遙か昔から、我々能力者を
「廃止?」
「そう。だが、能力者の世界では、陰陽寮は今も引き続き、稼働している。これは今の陰陽寮が、元々、裏と呼ばれていた組織なのだよね……」
「表の陰陽寮と、裏の陰陽寮ってことですか?」
「そう言ってしまえれば簡単なのだが……実はそれすらもハッキリされていないのさ。確かに村野くんの言う通り、我々の反乱が怖かったのかもしれないね。考えれば考えるほど、秘密主義が過ぎる、しかも過剰な」
「現在もそれが続いていると」
「ああ、それこそ……「耳目」……いや、既に片矢くんか。彼は陰陽寮に所属する能力者の中でも、最上級ランクだろう。現場の最高責任者として活躍していたのは間違い無い。だが」
「ええ。彼ですら、何一つ情報は持ち合わせていないに近かった」
そう。
絆が断たれた片矢さんは自由に情報を話せるようになっているのだが、自分の上司に当たる長老会については、ほとんど情報を持ち合わせてなかったのだ。
「「星詠み」ですら知らないのだからな……過剰すぎる」
当然、最初から絆に支配されていない美香さんにも、確認してみた。未だ体調はあやふやなままだが、こちらの質問に頷くことくらいは出来る。
長老会について知っている事が無いか確認したが、首を横に振るばかりだった。
「それで、今日の相談なのだがね。「星詠み」の
まあ、そりゃそうだろう。攫ったと思われる要注意人物の自宅にいるんだからね。
「なので、将来的に「星詠み」の住居として使ってもらおうと思っていた山奥の別宅に、一緒に移動するというのはどうかな」
「俺も……ですか?」
「そう。キミもだ。こちらとしては、しばらくキミに大人しくしていて欲しい……というのが希望だ。それこそ、村野君、キミ、今後、普通に出勤しようと思ってるだろう?」
え? そりゃ……。
「ええ、そりゃそうです。働かないとお給料貰えないですし」
倉橋さんが頭を抱えた。
「……証拠は無いが、明らかに敵対し、さらに、組織の超重要人物を連れ去った犯人が……当たり前の様に日常を送って働いている。それはもう、組織として何とかして拘束しようと動かざるをえないのは……判るよね?」
別に襲ってきたらはね除けるだけだし……家は基本、結界で入って来れないだろうし。
まあ、とはいえ。
「能力者の損耗を畏れていますか?」
「ああ、それも必要な損耗ではなく、完全に無駄な損耗だ。キミが人類に仇成す脅威であれば、いくらでも命を賭けよう。だが、陰陽寮というこの国の組織の都合、さらに歪みがあるのは明白。悪いのは正直、こちら側だ。「星詠み」……美香さんの様な少女を酷使して死んだとしても、これまでも何も無かったのかと思えば……キミで無くとも憤りもするさ。絆が薄れるまでにどれほど……の能力者が理不尽に死んできたのか」
「まあでも……仕事が~」
「その辺はどうにかしよう。今の会社を辞めて、若島辺りに所属している適当な会社に所属してもらう。仕事は全てリモートワークで行うということにすれば、どんな場所にいても、様々な仕事に対応出来る」
俺、会社……辞めるのか。うん。まあ……そこまで執着が在るわけじゃ無いから……いいけど……。あのプロジェクトもそろそろ俺が対応しなくてもちゃんと動くだろうし。
「軟禁する様で心苦しいが。少なくとも陰陽寮の内部事情が判明するまで、半年くらいはかかるか。長くて申し訳ないが、大人しくしていてくれないだろうか。そうだな……別宅にも念のためにここと同じ結界を張ってもらえればうれしい。生活に不安が無い様に準備するよ」
はっ! そうか!
「判りました。了解しました! まあでも、そちらに移動して、即働くんじゃなくて、しばらく休暇を取ってもいいですかね?」
「? ああ、まあ、仕事……も最初は無い様なモノだろうし……というか、こちらの都合でもあるのだから、別宅にいるうちは仕事をせずに休んでもらっても構わない。いや、それにしても別宅から出ない状態で休暇かい?」
「ええ、詳細は……内緒ですけどね……何よりも一番は俺がその別宅から外へ出なければいいんですよね?」
「ああ。一番の目的はそこだ」
うむ。良く判った。というか、了解しましたとも! そうですよね! これはもう、運命ってヤツですよね! 転職! 素敵ですよね!
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