171:合理的

 種族……。おうふ、何? ハイエルフって。あれ? もしかして、この世界の人は全部、ハイエルフとか? 


(いいえ。違います。そちら側は、種族:人間の世界です。それ以外の種族は……事故が原因で幾億分の一くらいの可能性は存在しますが……私が知らないということは、大局には影響していないレベルということで、検証値に達していません。ハイエルフは希少種であり、上位種……様々な能力値が高くなる傾向にある種族、となります)


 何に対しての上位種か。というか……。マジで? 何で? 俺、どうして? 人間じゃないって何? これ。


(落ち着いてください。ハイエルフといっても名前だけで、そちらの世界で生まれ、人生を送る分には普通の人間と同じ様な生涯を辿る予定でした。元々外見は人間と変わらないですし、魔力が無ければ主な種族の特徴も発現しませんから)


 ふう……。そうか。


(人間と決定的に違うのは、そこです。切替の速さ。これが【合理的】となります。種族:ハイエルフの表示部分で詳細を希望します)


 ん? 言われたとおりにステータスの種族の所を心の中で強調する。→【冷静沈着】【合理的】【非協調】【生殖力小】と表示追加された。……これが種族特性か。


 って、そうか! 


 そうなのか。俺がチームワークを必要とする作業を、致命的に苦手だったのはそういう事だったのか。そう言われると妙にスンナリと受け入れられた。


(これらの種族特性が迷宮創造主マスターの人生に影響を与える事はあったと思われますが。そこまで。のハズでした)


 でした? 変更があった?


(はい……そもそも。御主人様はそちらの世界で言う隔世遺伝でございます。当然、御主人様の御先祖がハイエルフということなのですが、種族戻りとなる確率は非常に低く、もしも、そうでなかったとしたら……今回の件は……あ。その辺は女神クリュセリアが直接話をするそうです。こちらで時間が取れるときにお願いしたいとのことです)


 了解。クリュセリアという女神様はこれまで俺に話しかけてくれていた方……なのかな?


(そうなります。女神は……非常に申し訳ないと。まずはそれを伝えて欲しいとのことです。貴方を巻き込んでしまった、と)


 そうなのか……うーん。まあ、それは……このダンジョン全体の仕組みに? ってことなのかな?


(はい。世界の理に関係する話となります)


 大きく出たね……それは……判った。女神様には気になさらずと。そう、返事を。


(さすがハイエルフですね……理解が早く助かります……とのことです)


 まあねぇ……何らかの事情があって、このダンジョンシステムが創られた。


 その場合、多分、創ったのはその女神様だ。これまで俺にかなりのヒントをくれてたし。


 そんな「神」がわざわざシステムを造り、さらに世界に生きる有象無象の一人である俺に直接声を掛け、「巻き込んだ」と謝罪したいという。

 それは俺を利用してでないと守れない、維持できないモノだった。まあ、この場合は世界だろうな。

 ああ、もしももう一つの、ダンジョンのある世界ってのが別の世界なら、二つの世界を守りたいと考えて、現状があるということになる。


 そんなん大きな事を言われたら、経緯は関係なく、しょうがないな……となるに決まってるからなぁ……。


 世界の維持と俺の平穏。


 そりゃ、俺個人としたら自分を優先したいけれど。けれどもさ。世界の行方が貴方の肩に掛かっています……と言われて、それを安易に問答無用で「受け容れない」って選択は無いよね……。責任云々言われちゃうのはイヤだけど。

 女神というか、統治者としたら、たった一人の生け贄で、その他大勢、さらに世界全体が守れるのだとしたら、犠牲も止む無しと判断するに違いない。


 まあ、そんな切羽詰まった諸事情は置いといて。


 現状、俺はこのロゴブロック風に創られた「dungeon」システムを非常に楽しませてもらっている。

 おかげで現実世界で面倒なことになってる気もするけど、元はといえば、自分自身の我を通しただけの事だ。


 それこそ……「dungeon」システムが無ければ、あの時、拉致られた三人娘を助け出すことは出来なかった。


 自分が助けたいと思った人、大切だと思っている人が、目の前で奪われていく。それを助けることが出来ない。そんな無力感、絶望感を味わうのは……森下社長と戦場を逃げ回ったあの時で充分だ。


 なので、女神様に謝罪は不要と伝えて欲しい。そんなことよりも、今回のレベルアップだよ、大事なのは。


(はい、判りました。では一言だけ。ありがとう……と。再び休眠状態に入りました)


 うし。んじゃさ、続き続き。種族がハイエルフっていうのは判った。で。それ以外にもイロイロあるよね。


(では。どれからいきましょう)


 順番に行こうか……固有スキル【渡界資格】っていうのは? 


(【異界接続】で繋がった世界……そちら側の地球とは違うもう一つの世界へ移動する資格になります。正確に言えば、そちらの地球と異世界の地球とでも言いましょうか)


 もう少し判りやすくしたいな……こちらの世界を、俺に取っての「現実世界リアルワールド」だとすると、そちらは?


(「異世界クリュセリア」でしょうか。そう呼ぶ者はおりませんが)


 判った。とりあえず、異世界でいいや。ラノベとかでお馴染みだし。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る