170:リラックスタイム

 何とか、就寝前の一時間程度……は、自由に使えそうだと判断した。強引に。


「今から……開かずの間で集中修行するから。スマホの電源切るし、中に入って一時間くらいは連絡が取れないけど心配しないでいいよ」


「畏まりました。御主人様の仰せの通りに」


「何か連絡が来たら、出てきてからまとめて教えてくれる?」


「はい、お任せ下さい」


 ……森下さんが……普通に話が出来るようになったのだが。無駄に固い。というか、無駄に俺を崇め奉ってきている。既にすっかり、松戸さんと絶妙なコンビネーションでグイグイ来る。仕事熱心すぎだ。


「んじゃ、よろしく」


 なるべくさりげなく、ダンジョン扉の間に滑り込むように入り、鍵をかける。いざという時、彼女達なら蹴り飛ばして入れそうだけど。


 そのまま、扉をくぐった。


「お疲れさまです。お待ちしておりました。睡眠時に何か危険に巻き込まれたりしませんでしたか?」


 新生シロが……椅子から降りてこちらに歩み寄り、笑顔を向ける。


 お、おう……ちょっとまだ慣れない。外見は……もの凄く丁寧な喋り方をする大人びた表情の幼女だからなぁ。


 以前のシロは何だかんだでマスコット的なアレだったし。なんか、これくらいの年齢の幼女、少女とのコミュニケーションなんてよくわからん無いよな……。


「なんとかなった。と、思う。ただ、時間がリンクしているので、こちら側で無駄な事が出来なくなった。今も、一時間で戻らないとメイドが部屋のドアを蹴り飛ばして突入してくるかもしれない」


「ダンジョンへは入れませんが……」


「そうなんだけどね。そうすると、俺が部屋にいないのもバレちゃうからさ。その状況で出て行くのは……ちょっと……」


「説明が面倒くさいですしね」


「そうそう。でさ、現実世界に戻っても、シロと会話できる様には出来ないのかな?」


「会話……ですか?」


「これまでは無理だったことが、今は出来る様になっている……なんて無い?」


「そう言われてみれば……少々お待ちください。……ああ、確かに……。特異点である次元扉の周辺であれば、意志の伝達が可能になりました」


「次元扉っていうのは、ダンジョンへの扉、ね?」


「はい」


 うし! やった。これでかなりの時間を短縮できる。


「周辺って言うのは……距離でどれくらい?」


「あの扉は、当初から、扉を中心に……結界を生じさせています。その結界内ということになります」


 そう……だったっけ? 気がついてなかったな……。


「判った。なら、扉を出た部屋に戻って、イロイロと話を聞くんでいいかな?」


「はい。レベル30で得た能力の説明が一切出来ておりませんから」


「というか、メモろう。今回の入手した能力って?」


「まずは、迷宮創造主補助機構附属多方向対応支援妖精最終世代第弐形態進化に対応したことで、私自身が上位種へと進化しました。これによって……」


 うん、それは実感している。


「ああ、詳細は後で、俺が外に出てから聞くんでいいかな? 残りの能力を羅列してくれない?」


「はい。では。強制的に発動したのが【異界接続】となります。さらに。★固有スキル【渡界資格】付与、固有スキル【言語理解】付与、固有スキル【次元扉】が付与されています」


 ……なんか、スゴイ事を言われている気がするけど……うーん。まあ、後でいい。


迷宮創造主ダンジョンマスターがレベル30になったことより、スキル【鑑定伍】【倉庫参】【収納壱】が解放されました」


 ……メモメモ。よし。


「とりあえず、詳細は向こう側で聞くよ」


「はい、問題ありません」


 気になる気持ちを押さえて……扉部屋から出て、一人用のソファを持ち込んだ。これは倉庫の奥にしまってあった、多分、祖父が愛用していたらしい古美術品だ。

 古いので革が若干固めになっているが、大して傷んでいないし、座り心地は良い。リクライニング気味のデザインで、そのまま寝てしまう可能性も高いので、ちゃんと毛布も用意しておこう。

 これまではソファでリラックスする生活をしていなかったので使って無かったが、オットマンも発見したので座りやすそうだ。


「新しい修行方法を思いついたから、今日はそっちでやってみるわ。なので、スマホは繋がるかな。多分。誰かから連絡が来たら、緊急以外は予定通り一時間後にして欲しいけど」


「はい。畏まりました」


「たまに独り言をいうかもだけど、気にしないでって松戸さんにも伝えて」


 黙って頭を深く下げる森下さん。ソファを運んでいる時に遭遇したので、そう説明しておいた。

 

 よし。これでよし。ソファに優雅に腰掛けて、足もオットマンに乗せる。おお。


(シロ、どうよ?)


(問題無く通じているようです。この距離であれば意思疎通に障害ありません。さらに、【鑑定】のシステムの持ち出しも可能にしておきました。【鑑定】……と考えてもらえれば、目の前に表示されるハズです)


(おおーってそれ、なんか、RPGっぽくない? それってゲーム画面のステータス表示だよね)


(ゲーム画面がどういうことか判りませんが……)


(まあ、いいや。んじゃ……【鑑定】)


 目の前に板のようなモノが浮かび上がり、そこにステータスデータが表示されている。


名前 村野久伸むらの ひさのぶ

種族 ハイエルフ


天職 魔術士

階位 48

体力 88 魔力 109


天職スキル:【平静】【魔術参】【魔増】【復唱】


=隠蔽=========

天職 迷宮創造主ダンジョンマスター

階位 30

体力 27 魔力 118 


天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】【異界接続】【渡界資格】【言語理解】【次元扉】


習得スキル:

【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】【拳闘】【手加減】

=隠蔽=========


「ええっ!?」


 我ながら……結構デカい声が出た。






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