166:達成感
ダンジョンは俺の魔術如きでは絶対に壊れたり、燃えたりしないらしい。というのをシロに確認して以来、何度も何度も。実験を繰り返しながら、「火球」で蟻を爆散させ続けるお仕事を繰り返していく。
というか、俺、なんでこんなに同じ事を繰り返し続けることに嫌悪感とか、異和感を感じないんだろうと思いながら、繰り返す。
……子どもの頃から経験値稼ぎ大好きだったなぁ……。
それか? それなのか? 俺は今、本物の経験値稼ぎをしているのか? すごいなー。楽しいなぁ。
経験値がどれくらい稼げてるのかは判らないけど。でも、「火球」が蟻の数、配置、モンスターハウスの大きさ、に合わせてカスタマイズされ、どれくらいの大きさで、位置で爆裂することで、最大効率を稼ぎ出すのか? がデータとして積み重なっていく。
「……アレだけの数の蟻が。さらに女王蟻二匹も……たった一発の「火球」で……か」
まだ、数匹の蟻がギリギリ逃れることはある。が。いけた。今のは会心の一発だった……。
手を握る。強く握る。ああ。これが……これが充実感なのか。
両親を失い、天涯孤独、一人で生きて来て。学校に通い、仕事をして普通に生きて来た。戦争に巻き込まれるなんて普通じゃありえないイベントを経験したり、恋人が出来たこともある。
そりゃ当然、やりがいというか、嬉しいなと思うことは山ほどあった。とにかくつまらない人生だった……というわけじゃない。朝起きて、仕事して、帰ってきてTV見て、ネットして、眠って。その繰り返しの中でいろんなイベントもあって。
これが普通。これが当たり前、これが日常……と思っていたし、客観的にみて、「そんなもん」だろう。三十代のオジサンになりかけの人生は、こうして収束していくのだ……と考えていた。
まあ、親が残してくれたこの家を失いたくないななんて思うので、伴侶を得て、子どもを……なんて考えたり。
そうして生きて来た自分が。そんな感じで生きて来た自分が。
こんな異様な興奮、激情を。手を握ることで力の入るような感動を。
「ぁぁあぁあぁあああああああああああっっっ!」
喉の奥。肺、そして腹の底……から。思いがこみ上げてくる。小さかった音は、次第に次第に大きくなり。自分の身体を共鳴させて、震え、震動となり、俺の身体の外へ弾き出されて行く。
口が大きく開いて、身体全体が強張り、握っていた拳が開いて、手のひらと対面する。
俺は。ここにいる。そうだ。俺はここで、生きている。動いている。工夫している。進歩している。成し遂げている。
はあはあ……。
なんか……爽快感はあるけど。発散されたという感じでは有るけれど。
スゲー疲れた。
身体全体に力を入れる……っていう行動は……疲れるんだね。アレが慟哭……ってヤツなのだろうか。生まれて初めてやった気がする。普通するの? 俺の様に普通に生きてて、ああいうの。
オリンピックの選手とか、ベンチャー企業の社長とか、ドラマの主人公なら普通かもだけど。
まあ、うん。誰も見ていないから良いよな。今の……公園とかでやってたら……と思うとちょっとヤバいもんな。公園で「火球」は使えないか。うん。
それからは……至って普通に。これまで以上に淡々と、同じ事を繰り返して行く。
魔術士のレベルはいくつか上がった。何もスキルは覚えなかった。副職にしてる職業はレベル10単位でスキルを得るのは確定なのかな?
レベル44か。
名前
天職 魔術士
階位 44
体力 86 魔力 102
天職スキル:【平静】【魔術参】【魔増】【復唱】
=隠蔽=========
天職
階位 29
体力 26 魔力 114
天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】
習得スキル:
【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】【拳闘】【手加減】
=隠蔽=========
現在やってる、「一発の「火球」で敵を倒すという訓練」を行っていると【復唱】は大してお仕事をしていない様に思う。そりゃそうか。
だけどその前の、「火球」を複数出現させて敵を倒そうなんてやり方だと【復唱】の有る無しの影響が大きい。というか、当たり前の様に複数の「火球」を発動していたが、あれって【復唱】が無いとかなり難しい、できなかったことだったや。
常時発動型のスキルって訓練しているうちに、いつの間にか使っている事が多い。使って行くうちに、ジワッと馴染ませていくのが重要なんだろうなと、やっと判ってきた。
なので、途中から、一発発動ではなく、一回で二発の「火球」を発動させて、自分の求める効果が得られるように攻撃方法を変更した。
二発の発動位置をずらせば、もっと広範囲に効果を及ぼすことも出来るしね。
と。ある意味、このダンジョンシステムにも慣れて、イロイロと考察する余裕も出来てきたな……と思っていた自分に……「お前はまだまだ、何も判っちゃいないんだぞーーっ!」と百メートルダッシュしてからのドロップキックで突っ込んであげたい。
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