159:やる気スイッチオフ

 しばらくして、三沢さんの会社の医療スタッフ……とはいっても、医師免許&弁護士免許を持っているインテリ傭兵のマースさんと看護師さんが到着した。


 俺の見立て通り、診断結果は原因不明の衰弱。まあ、それが気力を消費しすぎたためだ……とは実証できず、現代医学ではほぼ何も出来ないという事だった。


 ただ、既に栄養剤の様なモノを与えた……飲ませたと言ったら驚愕していた。大きな病院で本格的に検査しないと本当の答えは出ないとした上で、マースさんの私見では既にそんな状況では無いらしい。

 彼は、過去三沢さんと敵対した能力者の検死も行っているそうだ。そのうちの一人が、美香さんと同じ様な症状で亡くなっていたという。


 俺が飲めなかったら点滴に混ぜて……と言うと「回復水」の「水」の部分に拒絶反応を示し反対された。まあ、その辺の知識は家庭の医学レベルの俺でも聞いたことがあるしね。


 が、「でもこれ、多分能力的な何かだと思うから現代医療の常識は関係ないと思うよ。多分、若干だけど、直接肌に振りかけても効果があると思うし」と言うと、研究のためくれくれ五月蠅くなったので、三沢さんにお願いしてさっさと帰ってもらった。

 こんなもの、自分の管理外に出した途端、目の色を変えて追いかけ始める輩が続出するのは間違い無い。


 今後の事を考えて、マースさんをどうするかは三沢さんにお任せする。とりあえず厳重注意をお願いして帰ってもらった。


 美香さん、さらに片矢さんの世話は、メイドズに任せて、仕事と言って部屋に入る。そう。元客間。ダンジョンドア部屋だ。この部屋の入口は【結界】「正式」でコーティングしているので俺以外には開けることができない。なので、メイドズも未だに、この中がどうなっているか知らないハズだ。


「ふう……」


 何かと怒濤の展開で少々お疲れモードだ。ぶっちゃけ、ダンジョンに行って、そこでゆったりと休めば、俺だけは体調バッチリ回復なんだが……最近はあまり積極的には利用していなかった。


 ちょっと前までは魔物との戦闘勘が鈍らないようにダンジョンを二周してから寝るなんて事もしてたんだけどね。


 その理由は。


 正直、ダンジョンで過ごしてこちらの世界に戻ると「どこかリセットされてしまう」気がするのだ。

 リセット……というとなんとなくライトな気がするが、問題はもっと深刻なんじゃ無いかと思う。それまで継続していた思いが切れてしまう。なんというか……もう、どうでも良くなってしまうという感じだろうか? 


 それこそ、長期のダンジョン籠りの前には、それまで自分が何をしていたのか、これから何をしようとしているのかを日記的に書き留めている。数カ月、下手すれば一年近く経過してしまった場合でも記憶はちゃんと維持できるようにしていたつもりだが、どこかおかしいことに気が付いた。


 時間経過しているのだから、テンションが下がるのはどうしょうもない。あと、やる気ゲージというか、勢いが無くなるのも仕方ない。


 それもこれも、純粋に時間経過による記憶の劣化に起因する現象だと自己判断していた。


 だが、深夜町内をマラソンしてから寝るなんていう1日のルーティンワークに「ダンジョン一周」を組み込んでみると、やはり、どこかおかしい。


 ハッキリと判ったのはついこないだ、だ。三沢さんの会社や師匠の道場に簡易結界を設置するため、その元になるアイテム、魔道具「簡易結界」をDPで交換するために、ダンジョンに向かった。


 あちらで過ごしたのは多分数分、だ。


 行ってすぐに戻ってきたのに……それまで「とにかく急いで三沢さんと師匠を守らなければ」と思って動いていた足が変に止まった、のだ。

 別に、彼らのことが「どうでもよく」なったわけではない。大切だと思う気持ちは継続していたのだが、どこか……色を失っていた。時間を置いたので冷静になった……だけではない。


 明らかにやる気……が減少していた。


 そこでダジャレの如く閃いたのが、やる「気」の気が気力の気なんだとしたら。もしかすると、このダンジョンへの移動には気力の類を消費しているのでは無いか? という仮説だ。


 この辺は心の微妙な動きなので気付きにくかったのだろう。やっと、これまでの異和感が結びついて腑に落ちた。

 得体の知れないシステム……は、若干、怖いし不安が伴うが、レベルアップはどう考えても必要だ。今回の施設襲撃、姫様奪回が上手く言ったからと言って、今後も同じ様に行くとは限らない。


 と、いうことで、とりあえず、今後はこちらの世界で一段落付いたタイミングでダンジョンに行くことにした。

 元々、変に成長してしまうと師匠に怪しまれてしまう~なんて思って、タイミングを選んでいたからね。


 今回は姫様……美香さんを助け出した所で一段落付いたと判断した。

 それこそ、襲撃者を「石棘」で撃退したり、陰陽寮の施設を強襲することで、殺してはいないが、かなりの数の能力者を戦闘不能にしている。

 どれくらいの経験値となるか判らないが、このままダンジョンに向かい何もせずに帰還しただけで、レベルアップは間違い無いだろう。


 そして大事なのは、レベルアップした後の慣らしだ。覚えたスキル等は十全に使いこなしてこそ。これまで以上にその辺をちゃんと身体に染みこませようと思う。


 現状のステータスはこんな感じだ。


名前 村野久伸むらの ひさのぶ


天職 魔術士

階位 33

体力 81 魔力 86 


天職スキル:【平静】【魔術壱・弐】【魔増】【復唱】


=隠蔽=========

天職 迷宮創造主ダンジョンマスター

階位 25

体力 25 魔力 100 


天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】


習得スキル:

【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】【拳闘】

=隠蔽=========


 

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