157:顔色

「改めまして。村野様、この度はありがとうございました。そして、先ほどは申し訳ありません。叔父が反逆の罪で処分されたと聞かされた直後でしたので、皆、少々気が動転しておりまして……」


 三沢さんの運転するマイクロバスは待ち伏せ、襲撃等にあうことなく、あっという間に家まで辿り着いた。

 当然ながら、自宅周辺に人員は配置されている様だが、かなり遠距離からの体制に移行したらしく、現状の俺の【気配】では探知することが出来なかった。


 まあでもなぁ~今回の件でさらに監視強化、隙あらば襲撃とか、そういう状況になっていくんだろうなぁ。


 姫様奪還時、当然ながら【隠形】は発動させている。さらに監視カメラは全て潰し、違法侵入や誘拐等で立件されるような証拠は一切残っていない。


 近接戦闘時に、俺たちが三人組だったことはさすがにバレているだろう。でなければ、さすがに狙撃は不可能だ。まあ、ほとんど【結界】で防いだのだが、的はずれな軌道も多かったから、イロイロな意味で【隠形】できていたコトが判る。


 まあ襲撃を受け、姫が奪われたのは事実だ。それを行った者の詳細は不明……だとしても。これまでに起こっている事象、事案から簡単に推測できる。


 三人。俺とメイドズ。うん。そもそも、陰陽寮のヤツラが実力を計りかねている存在なんて……俺以外にいなそうな感じだったしな。


 バレバレか。


 なんせ、片矢さんが死んだ(と思われている)のは、そもそも俺絡みだしな。そこからも繋がるよな。


 狭いとは思うが、倉庫になっていた部屋を何とか開けた。片矢さんはそこで寝てもらって、ソレまで片矢さんが使っていた部屋に姫とお付きの三人を詰め込んだ。

 

 早急に彼女達の行き場を確保しないとだろうな……。


「ああ、問題無いですよ。というか、貴方たちも予想しなかったタイミングだったから、これだけ簡単に連れ出せたんだから。さすがにあれがあの拠点の通常戦力じゃ……ないですよね?」


「はい。そうですね……海外の勢力と本格的にぶつかる可能性が高いということで、初野瀬……私達のいたあの拠点の名です……からも臨戦態勢の拠点に人が回されたみたいで。あそこに残っていたのは、必要最小限の守護部隊だけだったハズです」


「丁度良かったってことか」


「そうです……ね」


 そうか。まだ不安か。


「ああ、ここは大丈夫……結界の強度ってヤツ? が倉橋さんの保証済みだから。少なくとも、ここから出なければ襲われるコトは無いよ」


「……く、倉橋家の御大……ということでしょうか?」


「ん? そうだけど」


 ……長年、仮想敵になってたってことだもんな。イロイロと複雑な想いがあるのかもしれない。その辺の詳しいこと片矢さんに聞ければいいんだけどなぁ。


「それよりもさ。ごめん。美香さん……だったっけ?」


「はい。その名でお願いします」


「君の現在の状態は……いつ倒れてもおかしく無い……様に見える。というか、こないだ瀕死の重傷を負った片矢さんよりも遙かにヤバい状況……だよね?」


 美香さん……は、明らかに驚愕の表情を浮かべた。片矢さん……も気づいていなかったのか? どこか驚いた表情に切り替わった。


 あ。


 もしかしてこれ、【隠形】の様なスキル、能力を使用してるパターンなのか? 明確に見破りというスキルがあるわけじゃなくても、同系統のスキルを所持しているとそれが通用しない感じになる「気がする」。


「見えて……いらっしゃる……のですね」


 俺の目には限界ギリギリにしか見えない。正直、病室でベッドに横たわっているのが似合う様な表情だ。


 何か……緩んだのか。若干、力が抜けたのか感じで目をつぶった。


「はい……その通りです。叔父様は回復された様ですが……私は……多分、もう、長くは無いでしょう」


「それも判る?」


「ええ。判ってしまう、が正しいのですが……」


 うん、そういう力なんだろうなぁ……。でも。


「こちらが勝手に見た感じ、貴方は「能力」の使いすぎじゃないかと思います。能力者達の能力……の元になっている力を俺は「気力」と読んでいるんですが。これは非常に危険な力で。使いすぎ=死に直結していると思われます」


「……」


「それは自分も……以前からそう考えていました。我々の能力を発動させているのは生命力そのものなのでは無いか? と」


 片矢さんが口を開いた。この手の蘊蓄系の話は喋れるんだな。


「ええ。正直、使い込んでいけば、自分が後どれくらいその能力の使えるか……なんていうことは判ります。ですが、限界は……どこまで使えるのか? は踏み込んでしまうと判断できなくなるのです。なので命が下されれば否応なく」


 怖ぇなぁ……一度死にかけた(というか、死んだっぽい)身としてみれば、その状態で能力を使い続けているのは怖い。俺と違って彼らには数代、数十代に渡る知恵とか蓄積とかあるハズなのに。


「判りました。とりあえず、ここに居る間は貴方のは、力を使用することを禁止します。気力回復を第一に考え、体調回復を主軸に生活して下さい。正直……今の顔。妙齢の女性にい言っていい言葉ではないと思いますが……「幽鬼」という単語が思い浮かんでしまっています」


 がーんと……さっきよりは軽めだったが、美香さんがショックを受けている。いやいや、ぶっちゃけ、シャレにならん感じなんですけれど。平気なのかな?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る