156:詠み
塔に開けた穴までは何一つ反応が無かった。
多分、外に出た瞬間にイロイロと仕掛けてくる算段なのかな?【気配】に遠隔から狙ってるのがハッキリと判る。とはいえ……五人か。さっきまで向かってきていたヤツラは全員待避したようだ。というか、そうしないと失血で死ぬからね。そこまでブラックじゃなくて良かった。
それにしてもいくら人手不足とはいえ……ここまで人がいないとは思わなかったな。これだけ立派な拠点なのだから、少なくとも数百人単位の戦闘員……能力者が詰めていておかしく無いのに。
ん? お付きの人たちの挙動がおかしい?
「大丈夫ですか?」
松戸さんが声を掛ける。森下さんが姫様を抱いているので、必然的にそれ以外の人達は松戸さん担当って感じになっている。
「は、いえ、連れ出された姫様を奪回する……とすれば……ええ」
最初に俺に話しかけてきた女性がそう答える。ああ、そうか。ここでも呪縛が起動しているのか。そりゃそうだ。
多分、彼女達は現在実行形で呪縛とせめぎ合っている。この呪縛のせいで、軟禁状態からの脱出も思いつかない、思いついたとしても実行できないのだ。
今は、姫様は抱っこして「強引」に連れ出されているし、お付きの人達はそれを取り返そうと頑張っているって構図か。
まあ、ここにいる姫様+三人が全員、それなりに呪縛から解かれていて良かった。激しく反抗されたりしたら、何らかの処分をしないと……一人なら抱えていけたかもだけど……いけなかったわけで。
月夜の中庭。塔から外に出て、外壁へ向かう。俺達はまあ、ともかく、姫様一行はとにかく危険な時間を短くしたい。ということで、思い切りダッシュさせた。
その後ろを守る様に、【結界】「正式」を広げて俺も着いていく。
バスバスバスッ!
しかしこの期に及んで「破気」の弾丸による狙撃……か。何か混ぜてくるかと思ったんだけど、それは時間的に無理があったか……。
近接攻撃役の能力者も既に尽きたのだろうか? 誰も突っ込んでこない。
とりあえず、狙撃手にもう一度「石棘」……と思ったのだが、一切近付いてこない上に、常に移動、さらに一定の遠距離をキープしている。とりあえず、適度に術を巻いてみるが、多分、大した効果は得られないだろう。
あっという間に外壁、しかもさっき俺が開けた穴に辿り着いた。メイドズとお付きの人達に穴をくぐらせる。
進入口の周辺には「耳目」片矢さんが待機している。彼がこちらに姿を見せていないという事は、壁の外から襲撃を受けたりしていないということになる。実際、【気配】にも敵を感じていない。
穴を通り抜けたので、とりあえず、適当に塞いでおく。完全に補修できるわけでは無いが、外側は埋められたハズだ。
「美香!」
「叔父様! 亡くなったとばかり!」
と。思ったら、感動のご対面だ。まあ、そうか。
「急いでずらかるよー。でないと、片矢さんとの約束が守れなくなる」
片矢さんがハッとした顔をして頷く。こちらへ……と言う感じでハンドサインを示した。
片矢さんが指示したのは、俺たちが乗ってきた車を停めた場所へ向かうルートでは無かった。若干異和感を感じたが、まあ、今さら、しかも姪を連れた状態での裏切りも無いかと思って、素直に着いていく。
「星詠み」の巫である美香さんのお付きの人達も、元々片矢さんの部下だったらしい。なので,あまり気にせず山林を駆け抜けていく。
しばらく山を下りていくと、林道が出現し、そこに小型のマイクロバスが停車していた。
片矢さんが車の窓をノックする。と。ドアが開いた。
「お疲れさまです」
鏑木さんか。というか、そうなるとこの車は三沢さん……か。運転席の窓が開いて、顔を覗かせる。
「村野様、急いで。ここまで乗ってきた車は、既に回収させてあります」
ありがたい。というか、帰り、ワンボックスカーだとギリギリの人数だったんだよね。
逃げながら探っていた限りだと、拠点周辺に人が出ているようだった。周辺の探索が中心で、車で出たヤツもいたみたいだけど、どちらかといえば、拠点までの道を中心に探索していた感じだ。
こちらは既に、山一つ越えた国道付近まで退却を完了している。さすがにこれだけ離れてしまうと、細かい動きは追いかけられない。
まあでも、判るのは、こちらを追いかけている能力者はいない。「耳目」のお墨付きだ。所々にダミーで囮を作って攪乱したらしい。
三沢さんの運転でとりあえず、「一番安心」らしい俺の家に向かう。ここからなら一時間は掛からない。
「村野様、ありがとうございました」
ん? あれ? 「星詠み」の巫、美香さんから御礼を言われた。彼女、呪縛は……平気なのかな?
「私は、生まれた時より絆から外れております。そもそも、「星詠み」などの「刻解き」の役職に就く者は、
そうなのか。「星詠み」なの? 「星読み」でなく。
「どちらでも問題無いかと。私達は昔からの呼び方である「詠み」としていますが。「読み」でも間違いではございません」
説明されたとき、混ざってた気がする。
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