155:最上階

 エレベーターホールというか、通路まで入り込んでも、誰も近付いてこない。


 というか、気配的に、そこまで気力を使いこなしている人間=強者はいないようだ。なら。このまま、エレベーターで最上階まで行くのが正しいのかな?


 目の前のエレベーターだけ稼働状態に戻して、ボタンを押す。カードキーとか、指紋認証とか顔認証とかその辺のセキュリティシステムは存在しないようだ。


 というか、この施設に入る際にもの凄い調べられるのかな。いきなり中に侵入すること自体が想定外だとか。


 確かに。


 さっきの八人も、狙撃手達も、慌てて用意したって感じだったな。想定していた方向から俺らがやってこなかったんだろう。で、明らかに人員不足、要員不足って所か。


 そもそも。俺らがここを強襲して、姫を奪いに来るなんて予想しないか。倉橋さんも大笑いしてたしな。あり得ないって。


 最上階到着。


 ああ。さすがにエレベーターのドアの前、その周辺に使い手が三人。


 ドアが開く。


「侵入者に問います。何者です」


 ……馬鹿なのかな? 侵入者に誰何して答えが返ってくると思っているのだろうか? 


 ただ……塔の最上階、居住区に居る能力者は、星読みの巫の側近だから、片矢さんの身内……の可能性も高いと倉橋さんが言っていた。


 片矢さんに頼まれている身だからね。ちゃんと答えましょうかね。あ。というか、俺が片矢さんの関係者じゃないか? と考えた? とか? 違うか?


「「耳目」の片矢さんに言われて、囚われのお姫様を救出に来ました」


「当主様に……しょ、証拠は? 証明できますか?」


「なら、そもそも、貴方が姫様の近衛だという証拠は?」


「なっ……わ、私たちをうたが……」


「だって知らないし。俺。別に君らを全部排除して先へ進んでもいいのだけれど」


「と言い合ってても無駄なので。割り符、持ってる?」


 俺は片矢さんから預かってきた割り符……なんか、電車の切符みたいな木の小札? に、文字が書いてあるヤツを相手の方に投げる。


 廊下の影から女性が出てきて、それを拾った。自分の持っていた小札を取り出して、合わせる。何かがボウッと……気力による認証の様なモノが行われた感じ……かな?


「た、確かに当主様の割り符……。しかもこれはつい最近、力を込められたモノ……」


「ということで、良いかな? 俺は姫様を片矢さんの元へ連れて行く。急がないとドンドン面倒になるんだけど」


「……判りました。こちらへ……」


 案内されたのは生活感を感じるマンションの部屋。まあ、居住区と言われればそんな感じかな? という区画だった。

 普通に洋室。ソファ。ここまでコンクリート打ちっぱなしの無骨な造りだったのが、いきなり普通。ちょっと異和感を感じるけど……内装業者とかに発注したときに既存のマンションの造りをそのまま流用した……のかな。


 ここに居る女性三人と、その姫様の四人で暮らしているのだろう。というか、本来はここではない場所で生活していたのかな? ここは監禁、軟禁? 用か。


「当主様……叔父様のお使いの方ですか?」


 俺たちのやり取りを聞いていたのだろう。ソファの前に立っていたギリギリ少女……と言えるような年齢の女性がこちらを見つめる。身長は子どもと大人の間くらい。大体140センチ弱だろうか。淡い青のワンピースが似合っている。が。


「あ。ああ」


 なんだこれ。彼女は……多分、眉目麗しき乙女……なのだと思う。所謂、姫様顔、美少女顔と言っていいだろう。


 だが。


 目が大きいのだが、その下に大きく黒い隈……か。そして、頬のこけ方。明らかにやつれてる。身体も細い。良くこれで立ってるな……っていうくらい、気力の反応も弱い。


「酷使……された結果ですか?」


「星詠み」のかんなぎ……姫様だけでなく、お付きの三人も反応する。多分、側近である彼女達が一番気にしていたのだろう。


 まあ、いい。今はいい……。


「とりあえず、ここから離脱するのが先です。お連れしてよろしいですか?」


 姫様が頷く。ん? お付きの人みたいに、俺の事を疑ったりしないのかな?


「疑うだけ無駄です。貴方がここまでこうして普通に辿り着けている事自体が異常です。つまり、貴方は先ほど仰ったように力尽くで私を連れ去ることが出来ます。この状態で誰何などなんの意味がありましょう?」


 まあ、そうか。というか、この娘もアレか。倉橋さん系か。って「星詠み」って未来視だとか言ってたっけ? そりゃそうか。気力から相手の意思を読み取る……その積み重ねが未来を読むことに繋がる……のだとしたらこちらが本家だ。


 というか、彼女の能力をちょっと考えただけで、正直、恐怖心が発生してしまった。彼女が未来について何かを知る時、どれだけ、どれほどの気力の深読みが必要なのだろうか? そりゃ……やつれるよ……な。


「私は……そんなに怖い容姿をしておりますか?」


 ぐはっ……いや、ちが……すまん。ごめん。


「御主人様……失礼です。ここに靴は……有りませんね?」


 ハッとした。そうか。この人達は靴が奪われてる……のか。マジで軟禁だな。


 お付きの人達は、全員、使用人って感じの服を着ている。焦げ茶の地味なワンピース。メイドさんに比べるとかなり大人しい。


「では、姫様は私たちが抱き上げてお連れします。お付きの方は……鍛錬されている様ですし、御自分の足で……よろしいですか?」


 三人が頷く。森下さんが姫様を抱き上げた。お姫様抱っこってヤツだ。


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