153:選手入場

「へー」


 初めて。【結界】「正式」が貫かれた。さらに、その銃弾矢弾は「正式」の内側に瞬間的に設置したブロックで止まった。食い込んでいる。これが「破気」の弾丸か……。


 ちゅーか、これ、弾が当たった瞬間に何かが発動したな。なので、二重に【結界】を用意すれば止まるな。多分。「正式」よりも発動が早いけど脆い、「ブロック」でも二重に配置すれば防げるな。


ガス! ガス!


 連続して二発。うん。というか、ブロック四つで無事阻止完了。コツとしてはブロックとブロックの間に隙間を作る、くっつけないのがポイントです。


 まあ、そもそも、倉橋さんが言っていた通り、飛んでくる弾丸のスピードに瞬間対応出来てしまえば、何てことは無い。長距離になるほど、対応出来る時間が増加するだけだ。


 必殺技……的な扱いなんだろうな。さっきからよーく狙って撃ってきているのが何となく判る。元々、副職を拳闘士にしていなくても、【気配】のおかげで敵からの攻撃にはそれなりに対応できてたからね。細かい所が判らないってだけで。

 

「……おん願い申し上げ奉りまする……我が刃、我が狙う場に突き刺さり、それを切り裂き、給え。……おん願い申し上げ奉りまする……」

 

 お。詠唱。聞こえるように言わないとダメなのかな? これから行きますよって、バレバレなのって致命的じゃない? なんだっけ、草薙さんとかいう家の「風切」だっけかな? 


 まあ、そりゃそうか。「耳目」を仕留めたヤツラはいるよな。うちに仕掛けて来たのは復帰してるのかな? 陰陽寮の怪我の治療のシステムってどんな感じなんだろう? 気力を使用した回復術とかあるのかな?


バス! シュシュシュシュ!


「破気」の弾丸と共に、俺目掛けて幾つもの「風切」が放たれた。あ。幾つかはメイドズにも向かってるか。

 ってさ。秘密兵器、必殺沢の「破気」の弾丸ですら防がれてるのに……普通に仕掛けて来てどうするよ……ひょっとして俺にやられたヤツラが……ちゃんと報告を上げてないとかなのかな? つまり、俺の情報を共有していない? ぇ……そんなこと有り得るの? 小規模単位での活動が主とはいえ、軍隊のような性質を持ってる組織で。


 正直、【結界】の「正式」を一番初期の円形、ドーム型に発動させておけば、「風切」は完全に防げてしまう。さらにその周囲に「ブロック」を用意すれば、「破気」の弾丸も全く怖くない。


 片矢さんは念のため、彼の使える最上級の【隠形】、【隠密】を使い、姿を隠してもらっている。これを使うと気配が完全に遮断されるのだが、ほぼ移動出来なくなってしまう。実はまったく移動できないわけじゃないのだが、もの凄く時間が掛かってしまうのだ。

 なので、俺たちの後ろからゆっくりと着いてくる予定だ。対象を救出してしまえば、別に隠れている必要も無いのでそれまでの辛抱だ。

 まあ、あと、もしも万が一、俺たちがヤバくなったりしたら、それを囮にして、彼が単独で姪御さんを救出して逃げる事になっている。


「それにしてもさ。現状の……この絵ってさ……選手入場というか……俺、悪役?」


「ええ、そうですね……攻撃を全て跳ね返し、敵陣営を堂々と闊歩していらっしゃいますからね。しかも美人のメイドを二人従えて。その姿、まるで古の王侯貴族のようかと。とりあえず、敵から見れば……さしずめ魔王! そのものでは?」


 森下さんも、そうそう、その通り、うんうん納得的な感じで頷いてるし。


「……ぇぇ……そんなにか……。というか、松戸さん、なんか容赦無くなって来てるよね……」


「御主人様には何ごともハッキリ言わないと伝わらない事が多いと理解しましたので。さらに、何かぼかしたり湾曲した言い方はお嫌いでは?」


 まあ、そうなんだけどね。正直、仕事ならともかく、プライベートで腹の探り合いはもの凄く面倒くさい。


バス。バス!


 様子見しながら撃っているのか、「破気」の弾丸が散発的に、さらに射撃ポイントを変えて来ている。


「くそっ。貴様なんだ! 何者だ!」


 うーん。多分、こいつ、草薙だかっていう片矢さんを殺そうとして追いかけて来たヤツラの仲間だな。追いかけて来た時もこの手の頭悪い事を言ってた気がするし。

 こいつらは……武闘家とか、傭兵、兵士……まあ、なんでもいいか。 戦う者……ではないな。犯罪者や暗殺者だったりするのであれば、詠唱だって残さない方が良いし、さらに私語というか、口げんか的な罵り、独り言を叫んじゃうなんてもっての外だ。どこに監視カメラが動いてるか判らない現代社会で。


 と、言いつつ、この施設の監視カメラっぽいのは尽く破壊させてもらっている。アレだ、前に牧野興産のチンピラビルで経験積みだからか法則的なモノは判っているし、能力的にも上がっているわけで。尽く破壊できていると思う。


「く、くそがっ!」


 それにしても……一族全部で頭が悪いのか。草薙って名前はカッコイイのにな。


 無駄に怒りの形相で立ちはだかったのは、三人の男。群れるの好きか。ツレションとか行くのか。

 正直レベルの低さが良く判る。何故、正面に出てきた? さらに顔付き、体付きがハッキリと認識できる。片矢さんなんてかなり近付いてもさっぱり認識できなかったぞ。


 苦無……というか、短刀、脇差しを構えている。


シュシュ……シュ……


 事前に詠唱していたのか、放たれた「風切」とほぼ同時に俺に襲いかかってくる。タイミングをずらし、テンポ良く、襲いかかる作戦……あ、アレだ、黒い三〇星だ。












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