152:敵基地?

 車から降りてここまで約十分程度……か。


 深夜。満月が近いのか大きな月が出ていて樹木に遮られている所以外は、ほんのりとした明るさが嬉しい。【気配】のおかげで暗闇でも大概の障害物は「判る」のだが、明るい方が楽だ。


 まあ、そんな月夜なのだが、奥秩父の山林は鬱蒼とした木々によって行く手を阻まれている。その中を最短距離で駆け抜けていく。

 目の前に現れる枝木は正式を纏っていることで跳ね飛ばされていった。


【結界】は凄く便利だ。基本的に、常に正式を纏う様にしている。さらにその状態でブロックも瞬間的に大きく出せるように訓練している。鏑木さんを爆発から守れなかったからね。

 俺の能力はダンジョン特化なのか、こちらの世界で使用する際には若干使いにくい。

 ただ単純に使っているだけで、熟練度みたいなモノが稼げているハズだ……と思いたい。


 さすが、陰陽寮の「耳目」。俺のすぐ後を着いてきている。ちょっと力を入れて走ったから、それなりにスピードが出てしまった。メイドズの二人も身体能力的にはかなりのものなんだけど、かなり遅れている。まあ、この辺でちと待とう。


 とはいえ、片矢さんも肩で大きく息をしているか。


「この奥?」


 片矢さんが頷く。表情が険しい。これだけでも辛いのか。本当に厄介。


「申し訳ありません……」


 若干遅れて二人が追いついた。とりあえず、今回、彼女達には戦闘力を期待していない。ちゅーか、さすがに敵の最大組織の、重要施設に乗り込む=命のやり取りが発生する。そこに参加は……なるべくさせたくない。

 なのに、どうして連れて来たのか。助け出したいのが片矢さんの「姪」だからだ。俺と片矢さんだけだと、どうしても、女性に対する配慮が欠ける事になる。というか、凄く面倒だ。

 

 確保から移動等の補助まで、全部やってもらいたい。彼女達二人なら、一人が抱えて一人が護衛を務めるなんてことも可能だからね。

 これで……万が一……全裸確保になっても安心だ。いや、アレは牧野の趣味であって、陰陽寮がそうでないことを願っているけど、この二人の時がね……。うん。


 再度、片矢さんの指示の元、走り出すと……いきなり……目の前に、巨大なコンクリート塀が出現した。


「なんだこれ……」


 つい、こんなセリフが漏れた。山中にいきなり……これは……あれだ、映画とかニュースで見た、昔の刑務所の壁だ。いや、それよりも高くて頑丈そうな作りだ。


「施設の周囲はこの手の円形の壁で囲われています」


「刑務所の壁よりも高いよね……これ。凄いな」


「通常の刑務所の壁は約5メートル弱ですが、これは15メートル程度あります」


 あ。これは引っかからなかったんだ。何が言えなくて、何が言えるのか、本当に良く判らないな。


「というかさ、ここに来るまでに……感知されてるよね? 当然」


 頷いた。というか、片矢さんの顔が歪む。それは辛いのか。


「迎え撃ってこないね」


「来ませんね……歯ごたえの無い」


 いやだから、うちのメイドさんはなんでそんなに好戦的かな。今回の襲撃は基本、不殺よ? 殺さずよ?


「まあ、アレだけ派手に撃退しちゃえばね……。周辺偵察していたのは全員怪我してるし、さらになんだっけ、片矢さんを追いかけて来たヤツラも結構なダメージを与えたし」


「素晴らしい御手際です」


 褒められるとちょっと恥ずかしいけど……。


「で。片矢さん、仕掛けてこないのなら、好き勝手にやらさせていただこうと思うんだけど。姪の人はどこにいるの?」


「え、えんの、東側……の、塔に」


 ああ、まあ、うん、今のセリフがタブーに触れているのは良く判る。なんとか、絞り出すように呟いてくれた。


「ういうい。そこだけは聞かないとね。判らないからさ」


 施設の壁沿いに東側……に移動する。


「うし。んじゃ行こうか」


 今回はさっきも言った通り不殺だ。なので、奇襲からのスピード勝負になる。


(大地操作……)


 歪む。目の前のコンクリートの壁が黒く凹む。ん。所々引っかかるのは鉄筋か。肉の中に魚の骨がある感じというか……。


「スゴイ……」


 メイドズも片矢さんも驚愕の表情を浮かべている。


 まあ、目の前の……これ以上は無いって位の強固な巨壁にズブズブと穴が空いていくのだ。


 倉橋さんの力の使い方を真似て、右手を挙げてこう、手から出力している感じで歩を進める。本当は右手は必要無いんだけどね。


 コンクリートに穴を開けて、鉄骨を消去する。さらに崩れないように固める。幅は1メートル、高さは2メートル程度。本当はアレだ、高さを抑えて、目立たない様にしないとなんだろうけど。既にこちらがここに居ることがバレているのなら、お構いなしだ。


「さ、行こうか……」


「畏まりました、御主人様」


 二人が恭しく再度御辞儀をする。って何? どしたの? って片矢さんも一緒に頭を下げた。


「何?」


「いえ、参りましょう」


 みんな、なんか、変に高ぶってない?


 って開通だ! それまで停滞していた風が抜けた。向こう側まで貫いたトンネルが完成する。


 メイドズが露払いかの様に先に立って歩き始める。いやいやいや、だから、そうじゃなくて。君らが先を歩いていたら確実に狙ってくるヤツが……。


ボスッ!


 ほら。外に出た瞬間にとんでもなく重い音が聞こえた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る