149:遠阪全滅戦

「当時は蔵品家とはいえ、能力者に人権を……なんて間違っても言えるような状況では無かった。そう考える事自体が御法度だったからね。強力な呪縛によって……それこそ私自身も抜け出すのにかなりの時間を要したよ。倉橋家は蔵品家の台所……まあ、金策のために動く役目も負っていた。なので若島家を始め、能力者の血の薄い分家筋と行動をすることも多く、一般社会に触れる機会が多かった。そちらに意識が向くほど、逆に「化者カノモノは押さえ付けなければならない」「化者カノモノの力は恐ろしい」「制御されなければ全てが滅ぶ」なんていう呪縛が延々と脳内で繰り返されるんだよ……。自分の事で精一杯で、他人……化者カノモノをノケモノとする手助けをするなんて、考えることもできなかった」


 そう思うと、呪縛が薄れ始めている今は、能力者にとってそんなに悪い状況では無いのかもしれない。今後、時間の経過と共に、さらに逃れやすくなっていくのだろう。


「まあ、襲われた蔵品家はそれなりに耐えた。だが、さすがに……倉橋家以外の家全てに組まれてしまい多勢に無勢。蔵品の本家、本屋敷も蹂躙された。その際に……攻め込んだ他家の「誰か」が、触れてはいけないモノに触れた」


 倉橋さんがそう言うと……周囲の温度が下がった気がした。実際に無意識のうちに気力の操作でそうなったのかもしれない。


「蔵品家の能力の本質は「封印」だ。そして、その屋敷の地下奥深くには……いつの頃からか、蔵品が封印し続けていた「異形」が眠っていたんだ。やつらは愚かな事に……それを……封印を破壊した」


「!」


 片矢……さんが一番動揺しているかもしれない。というか、この辺も把握していなかったのか。


「すまない、持ったいぶって話始めたが、実はこの時点で私は、遠阪を離されてしまった。一族を賭けた緊急自体に戦う気満々だったんだがね……先代に説得されて遠阪以外の能力者をまとめるために、東京へ移動したんだ。まあ、数日後、一切連絡が取れなくなってしまって慌てて駆けつけた時には……生きていたのは数名だった。遠阪の里のあった土地は……燃え尽き、荒れ果てた山谷が広がるばかりさ。そしてその生き残りも数日中に死んでしまった。聞き取れた真実も断片的でしか無い。だから、ここからは半分くらい予想になってしまうが……多分、間違っていないだろう」


 片矢さんか、鏑木さんか。ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。


「蔵品家の崩壊と共に、封印が破壊されて「異形」が出現した。その「異形」は蔵品家一族がいつ頃からか「一族の使命」として封印し続けていた存在で、封印が解かれた瞬間に周囲を、そして能力者を破壊し始めた。長年封印されていたことが関係していたのか、その強さは異常だった様だ。蔵品の家は数分で消滅。里全体が壊滅するまで丸一日かからなかったらしい。その後、「異形」は復讐かの様に十二家の生き残り、化者カノモノを殲滅。その時点で生き残っていたのは、各家の当主クラスの強者くらいだったという」


「当時、里にはほぼ全ての当主が揃っていたハズです。……音無、蔵品、不動、鴻巣、里禅寺、倉橋、奉宗院、椎堂、草薙。十二家の内、戦闘能力の高い本家と呼ばれた武闘派は九家。残りの唐貼、猪戸、光埜の三家は情報収集と補給の三家。つまり、その時点で当主が九名とそのお付きくらいしか生き残っていなかったと?」


「ああ、そういうことになるね」


「……たった数日で……数十名に……能力に差はあれど、あの里には二千人くらいの化者カノモノが暮らしていたはずです。それが……」


「私が帰ったときには既に……全てが終わった後だった。最終決戦時に生き残っていたのは、多分、不動と椎堂。そしてうちの先代。「耳目」のキミなら知っているだろう?」


「……「豪炎」の倉橋……。「懇願」と呼ばれた気力による精神操作が主流の家を超武闘派に変えた当主ですね……」


「ああ。先代はとにかく異質だった。うちの家は村野くんに説明した通り、本来、「懇願」やそれこそ「傀儡」なんていう相手の精神に作用する力で、他人を操って戦うのが主流だった。だが、それをたった一人で覆したのが先代になる。まあ、私の父だね。彼は気力を炎とする「火炎」「気炎」といった能力をさらに強力にした力を操っていた」


 片矢さんも頷く。そんなに有名だったと。というか、半分味方で半分敵だもんな。知ってるか。


「「豪炎」と呼ばれた父と。あと、不動の「鉄壁」。さらに、椎堂が「虫呼」だな。生き残った三人はさすがに弱体化した「異形」に最終決戦を挑み……「退かせた」らしい。事実、里に「異形」らしき痕跡は一切残っていなかった」


「倒した……ではなく?」


「さすがに、里の総力と、当時最強と言われた父や不動、椎堂の当主の攻撃によって、それなりのダメージは受けていたらしい。「異形」は何処と無く消えた……んだそうだよ。その三人が命を賭けて、退けるのがやっとだったらしい。これが20年前の「遠阪全滅戦」の真相だな」


 なんか情報多いよなー。聞いといてなんだけど、もう、面倒くさいなー。ダンジョン籠もりたいなー。レベル上げとかしたいなー。








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