148:やっと本題?

「まあ、能力者に通用するのは、同じ能力者の攻撃だけだ。これは今も昔も変わらない。我々に通用する「破気」弾丸が登場したからといって、それを撃たれても感知して避ければ良いわけだし、撃とうとしている所へ踏み込めば良い。厄介なのは、この弾丸を撃つのは別に、能力者でなくても良いという部分だな」


 でもそれは……大ごとだよな。というか、物量で攻められたらヤバい状態だろう。タダでさえ遠距離からのスナイプは脅威だ。


「まあ、ここまで拳銃弾、拳銃弾と言ってきたのは、GHQがその表記に異常にこだわったからだ。実は能力者は通常弾であれば、拳銃弾どころではなく、散弾、ライフル弾のあらゆる弾丸、挙げ句の果てに砲弾ですら傷が付けられなかった。彼らはひた隠しにした様だがね。だが、現実問題として弱点が無かったわけじゃない。焼夷弾、榴弾などで発生した熱及び物理エネルギーは完全に無視することは出来なかった。「破気」の弾丸はその辺を上手く形にしている様だけど」


 ああ、さっきの爆弾を完全に防げない問題と一緒か。


「さて。そんな現状の元になったのが、今回の話の核心だ。20年前の事件。一般に「遠阪局所地震」と言われている自然災害を我々は「遠阪全滅戦」と呼んでいる。総領十二家の終わりの始まりという事件だ」


 それまで芝居がかっていた倉橋さんの目が……真剣になった。鏑木さんもその辺の話の詳細は知らないらしいからな。


「そもそも。総領十二家という家は一つの家から始まっている。無氏家むしけという今では何一つ語り継がれていない家だ。この家は、神から使命を託され、この日本という国、いや、この地球という世界を守るように働くことを強要されたという。この辺の情報も口伝でしか残っていない。所謂「使徒」として生きよ定められた者たち。その際に神から命じられた最大のお題が「海の底より来るもの」……人間の天敵「異形」との戦いだ」


 神の使徒……か。つまり元々能力者は化者カノモノなんて差別される対象では無く、選民。人の上に立つ者として君臨していたのかもしれない。何かのきっかけに逆転されたとか?


「「異形」は実体を持たない。なんというか……概念というか、念そのものというか、とにかく表現がしにくい、あやふやな存在だ。だが、現実としてそこにいるし、ある。ヤツラが人間の天敵となる理由は、「異形」は人間を侵食することで、個性、個体を得るからだ。これはヤツラにとって非常に甘露……らしい。「異形」は人間に侵食し、個体化することで、初めて、「生きている」と感じる様になる。自分という存在を感じるらしい。つまり、そこに人間がいれば絶対に襲う。生存本能的に天敵なのだな」


「そんな敵が強いのですね?」


「埒外に強い。理の外にいるという言葉がよく似合う存在だよ。そんな「異形」からの攻撃を受け止められるのは化者カノモノ……能力者だけだ。さらに、人間に浸食した「異形」にダメージを与えられるのも能力者だけ。つまり、能力を持たない一般の人間は……無抵抗に浸食され続けることになる」


「浸食とは?」


「精神を喰われ……空っぽになる。意識を奪われてしまうと思っていいだろう。そしてその状態の空っぽの人間は、「異形」の思いのもままに操られる。そうならないように我々がいるのだが」


 鏑木さんの倉橋さんを見る目が熱い。あ。片矢さんも結構熱い眼差しだ。


「神から使命を授けられた「無氏家」は、「異形」に対抗するために一族を増やし、家を増加させていく。一番最初にできたのが「音無家」。次に「蔵品家」。そして「不動家」。この御三家が確立した。その後、徐々に家が増え、十二家になった辺りでバランスが取れたのか、それ以降、家が増えることは無かった」


 長くなりそうな気がしてきた……。この話。


「ああ、すまんね。総領十二家の興亡についてはどうでもいいな。問題は20年前の事件だ」


 あ。興味の無い顔をしていたのがバレた。


「先ほどの総領御三家の中でも、いつからか総本家を名乗っていた第一位の音無家が、第二位の蔵品家を族滅させようとしたのが発端となる」


「!」


「なっ!」


 片矢さんもビックリした顔をしている。「耳目」が知らなかったのか?


「ああ、この件は、陰陽寮にも漏れていないよ。知っている者は全員死んだ。企んだ者も、襲われた者も。ね。総領十二家の最大危機、その引き金が内輪もめだからね……情けない」


 悔しげな表情が本気なのを物語っている。


「一番最初の手は非常に古典的な手法だ。蔵品家に通じる上水道に細工され、飲み水全般に徐々に蓄積するタイプの毒を使われた。これによって家人が全体的に衰弱していた様だ」


 毒……か。でも気力ってそういうのには効かないのかな?


「当然、ただの毒ではないよ。特殊な植物の樹液等を気力によって精製した特別製だ。しかももの凄く微量に、気力でも感知出来ないレベルまで薄められていた。それを数年がかりで仕掛けられていた様だ。この部分に関しては、計画発案者が優れていたのだろうね」


 一度仕掛けたら、ずーっと滲み出ていく……あの、トイレ、便器に設置するタイプの青い洗浄の……みたいなのを置かれちゃったのかな?


「いつの間にか衰弱していた蔵品家に音無家、不動家、里禅寺家等が一斉に襲いかかった。実はね、以前から実力という意味では蔵品家は他家を圧倒していたんだ。うちの家の大元になった、いわば「能力者の側に立つ」家だ。今とは比べものにならない強烈な呪縛によって、我々は完全に支配されていたにも関わらず、裏で活動を続けられていたのだからね。そんな家には大っぴらには出来ないが、自ら命を捨ててでも恩を返そうとする能力者が多数存在した。それが他家にとっては目障りだったのだろう」


 今の倉橋家を考えれば、そのバージョンアップ版なのだろうか。って今の倉橋家自体も良く判ってないけどね。

 というか、その状況、今よりも確実にヤバかったし、揉めてたよな。親子でどちらかが呪縛の上書き出来なかったとき、解除できなかった方を切ることもあったって……言ってたしな。

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