145:簡易ってことは
倉橋さんが目を閉じて……掌を片矢さんに向けている。おお……なんか凄い……拳闘士じゃなくなっているにも関わらず、気力が溢れているのが判る。というか、これ……大丈夫なのか? もの凄い量の気力を放出してるぞ。
「家の……身内の人間……が未だ呪縛に囚われたままか。片矢……家か。陰陽寮の「耳目」としては新参だな……。うーん。いや、ならなぜ、ここまで……確か……先代の、星詠みの巫が確か……片矢だったか? いや、そういえば……その娘が……星読みの力を……」
明らかに、片矢さんが動揺している。が。別に反抗しようとしているわけではない。つまりは、それが真実だということなんだろう。
凄いな……なんていうか、リーディング、読心術だっけ……。そんな超能力みたいな……ってでも、確かに、俺が悪意に対して結構自由度高く対応出来ているのと同じ様に、さらに気力操作に長けてくるとこういう事も可能になるのかも? とも思えてしまう。
でも大丈夫なのだろうか? 気力喪失で一瞬死んだ経験(多分)のある身としては、この力は危険だと身体が告げている。
まあ、倉橋さんもベテランなんだし……あ。汗掻いてるな……本当はかなり無理をしてる?
「ああ、私の力は「懇願」。想い願う事で、相手にとって良い効果が上書きされる。まあ、対象者の許可してくれればなんだが、許可さえあれば、その気力の形にアクセスして、様々なヒントを感じることができるんだよ」
おおーそれはスゴイ……ってあれ? 俺も読まれてる?
「……村野くんの気力……というか、存在はこの家にいるとかなり大きく漏れ出しているからね。集中しなくても伝わって来てしまうな」
え……そんな……困る。
「くくく。本当に細かい部分は伝わって来ないから大丈夫だ。ただ、私は男役ではないぞ」
あ。やば。
「さて。陰陽寮の重要な役職に「星読み」がある。まあ、アレだ、未来予知能力を持つ能力者がその役目を担う。ん? 何か?」
「その話……いまさっきしてたんですよね。片矢さんが、未来視……「星読み」「糸解き」「夢解き」なんていう能力名を上げてくれて」
「それは、多分、彼が現状では言えないなりに、その辺を伝えたかったと思って良いだろうな。そうか。一般論として……自分を縛る事項とは別にモノを語った感じか。さすがだな」
そうだったのか。やるな。カタヤン。
「……村野くん、「耳目」片矢氏はここに置いてもらうわけにはいかないだろうか?」
ん? どういう?
「以前も言った通り、彼の様に支配から脱したいとする能力者は、我が家で軟禁状態にして「反体制の実情と自由な空気、そして各種情報」に触れてもらって、徐々に緩めていくのが普通なんだ。でも、多分、片矢氏が生きていると判れば、追っ手が掛かるのは絶対だろう。さらに……彼の気がかりが、人質や、命の危険に晒される可能性も高い。そうなった時、我が家では対応しきれないだろう」
「倉橋家でも……ですか」
鏑木さんが心底驚いたという表情を見せた。
「これは……今やどの家も同じ様な状況だと思うのだけれど、能力者の数が激減しているのだよ。特に、海外勢と手を組んだ能力者達……いや、能力者を手に入れた海外勢と行った方がいいね。それが厄介でね。どうしてもそちらに力を回さなければならないんだ」
「そうなんですか……」
「何よりもここは上級結界以上の術が施されているからね……多分、一番安全だし、家から出なければしばらくは「片矢氏の生死」が外に漏れない。それはもの凄く状況を楽にしてくれるハズだ」
上級結界? うーん。そういえば、襲撃してきた陰陽寮の能力者もそんな様なことを言ってたな。
「ああ~そういえば、さっきのヤツは既に片矢さんが死んだと判断してた感じかも」
「状況を聞くにそうなるだろう。片矢氏を追っていたのは多分、「風切」草薙、草薙家の双子とその兄弟のハズだ。幾ら「耳目」といえども、武家の、しかも「風切」四兄弟から逃れられるとは誰も思うまい」
そうなのか。まあでも、頭は悪そうだったけどなぁ。草薙とかカッコイイ名前なのに。国宝の剣名と同じ読みだし。
それにしても上級結界か……。
「あの、ここの結界と同じ様なモノでよければ、若島さんの屋敷にも設置しましょうか?」
「なんだって? それは……うれしいな。いいのかい? よほどの極秘案件だと思って、聞くことすら憚っていたんだが」
「そうなんですね……うーん。ごめんなさい、馬鹿にするわけでは無いですが、これは簡易結界と言いまして、結界の中では最低ランク……だと思います」
「か、簡易? だって? この緻密で……さらに、確か、村野くんに対する悪意に対して反応するとか、他人に悪意を抱いているなんていう曖昧な設定を個別に施せる結界が……簡易?」
DPの自販機の様なアレに、そう書いてあったしなぁ……。
「若島邸には……すぐにでも施行してもらいたい。出来る事なら倉橋の家にもお願いしたい所だが……こちらは一族のうるさ方を説得する必要があるな……。まあ、それは後でいいいか。まずは、若島邸を頼む」
倉橋さんが頭を下げる。って鏑木さんがビックリしているって事は、家の当主って殿様みたいなモノで、滅多矢鱈に感謝の意を表したりしないんだろうな。舐められちゃうから。
「判りました。じゃあ、後で一緒に行きましょうか。説明してもらった方が早いだろうし」
「判った。そうか……しかし……これが……簡易……か」
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