143:趣味
「片腕落ちちゃったヤツが一人いたけど、落ちた腕拾って逃げ帰ったのでまあ、大丈夫じゃ無いかな?」
いや、全然大丈夫じゃない。
「申し訳……ありません、私をすぐに放逐してくだされば……」
「多分だけど、片矢さんがどこに居るのかは向こうにバレバレなんだと思う。アレじゃ無いかな。太古からの契約、呪縛にそれも含まれているというか。ポジション的に、結構上だもんね」
「……そう、かも……しれません。というか、そもそも、離反するという事自体が過去に無かったことですから、私レベルでも判っていない契約内容があっても不思議ではありません」
あと、余りにも綺麗に逃げちゃったのも原因の一つじゃ無いかな? 跡形も無いから、どこかに隠れたっていう発想になるわけで。
で、片矢さんが直前の任務で拘っていたのは俺との一件だ。
そして、その俺といえば、自宅には簡易結界のせいで一切近付くことが不可能になっている。中に入れば姿が隠れることになる。
→片矢さんが逃げた大体の方向が判る
→その先には不可思議な結界を生み出している調査対象者がいる(俺)
→そりゃその中に逃げ込んだに違いない
→死にかけだったから別に気にすることも無いだろうけど
ってな感じか。
「命を奪わずに……お手を煩わせてしまい、誠に申し訳なく……」
「ああ、うん、そもそも悪人を殺すことに何か感じる人間じゃ無いみたいなんだけどさ。イロイロと話を聞いて考えたら、さっきのヤツラなんて「操られた弱者」そのものだったからね。誰が悪いって、仕方なかったとはいえ、この能力者を支配する呪縛を生み出したヤツだよね」
「は……そもそも……し、神話ですが……陰陽寮と総領十二家の設立は……天照大御神とされて……おりまして」
凄いとこ来たね……。
「ふう……そんなビッグネームが登場しちゃったら下手に批判できないか」
「か、神々の考えるところ、定めた仕組みとあれば、我らはそれに従うのみ……と」
そうなるよなぁ。信仰心の薄い俺の様な日本人でも日本創生の神話に関してはそれなりに知ってるもんな……。
「まあ、うん、だからって片矢さん……というか、陰陽寮がこれまでに犯してきた組織や仕組みに対する横暴で利己的な手段が許されるわけじゃ無いと思うんだけどさ。でも、貴方のようにそこに組み込まれて、呪縛によって使われていた能力者個人がどこまで責任を取らなければいけないかっていうのは考えちゃうよね……」
「……」
人の命を守るという意味であれば、能力者にだってその権利はあったはずなのだ。にも拘らず、神からの命令という建前によって、無駄に命を散らしてきた。長い歴史だ。その数はどれほどなのだろうか。
「ふう……とりあえず、未だ残る呪縛をどうにかしないといけないか」
「呪縛……しかし言い得て妙です……実は陰陽寮では絆……と」
うわ……思い切り詐欺師のやり方じゃん……。
とりあえず、困った時のなんとやらポジションに落ち着きつつある三沢さんに連絡を取る。
話をすると……「耳目」がうちにいるというのはかなり驚愕の事実だった様で、すぐに鏑木さんと共に向かうということだった。
とりあえず、悪意がほぼ抜けている片矢さんが何かする事は無いだろう……という俺の勝手な判断で部屋に案内した。
メイドペアにはメチャメチャ反対された。最低限でも身動きできないように拘束する様にと。
んーでもなー。やらないと思うんだよなぁ~。
「その確信は……御主人様は人を、懐に入ってきた人間を安易に信じすぎです。お人好しにも程があるかと」
と、まるでちょっと頭の悪い全方向善人の様な事を言われてしまった。
いやいや俺だってさ、別に無条件で、ちょっと前まで敵だった人を自由にさせたりしているわけじゃないよ?
それこそ、貴方たちが畏れたり、重んじてきた気力というパワーがね。そんな感じで反応してるもんだからさ……。ここまで至近距離であれば、拳闘士の時に感じていた気配察知や識別というか、索敵みたいな能力に引っかかるしね。
ということで、片矢さんにはソファで食事をご馳走している。もの凄く美味しそうに食べているが、さりげなく、魔物の肉を食べさせてみた。ちょうど、血肉になりそうな臓物系の肉が、あっちにしかなかったのだ。
圧力鍋を使って、短時間でじっくりことこと煮込んで、既製品のルーをぶち込んで出来上がりだ。水は回復水を使用。
……まあ、わざと、というか、実験だ。グリーンスムージーは余りにも高い効果が発揮されてしまったけれど、今回のシチューには魔物の肉と、回復水しか使用してない。
明らかに失血状態で青白い顔をしている人がどれくらい回復するか確認したい。
これくらいはしてもいいよね? 俺、この人に何度も殺されそうになってるし、鏑木さんなんて爆弾投げつけられてるし。
「これは……なんというか……いや、気のせいではないというか、凄まじく美味いのですが……肉は……内臓系なのは判りますが……なんの肉だかは……いや、でも、そもそもの味が。し、市販のルーを使われていたのを見ましたし……圧力鍋に何か……いや、違う……これは……」
はい、片矢さんがこれまでにないテンポで……食レポYouTuber的な言動を繰り返し始めちゃった。というか、こいつは……。
「食べるの好きなんですね」
「は、いや、あの……はい、任務柄、全国を巡ることが多く、あの、旨いものを食べることだけが唯一の趣味でして……あの。すいません」
まあ、今回のシチューが旨いのは命が助かった直後で舌や感覚が麻痺しているからって感じに落ち着いたようだ。
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