142:実働部隊

「で。どうしようか……面倒だな……」


 あ。心の声、漏れた……。


「申し訳ありま……せん……。いや、でもですね、じ、自分は既に致命傷を受けて……命からがら……なんとか追っ手を撒いてあそこにたどり着いた……ハズなんですが……というか、自分が生き延びて、御迷惑をかけることになるとは……」


 まあ、そういうことだよな。多分、嘘は言っていないし、間違ってない。この男は……俺に情報を伝えて死ぬことを選んだのだ。自分の願いを俺に託す為に。


「まあ、うん、面倒くさいけど……そもそも、面倒なことになってるから、今さらか。んじゃ、ちょっと行ってくるよ」


「な、まさか!」


 そう。片矢さんは着けられていないと思ってたみたいだけど~っていうか、よく考えれば「耳目」の長だもんな……。俺の【気配】に引っかからないくらいの高レベルな【隠形】系の能力者なわけで……なんかあるのかな。


「失った血は回復していないから、確実に貧血気味のハズだ。ってことで、面倒をお願いして良い?」


「はい。お任せ下さい」


 森下さんも頷いた。


「んじゃよろしく」


 さっきと同じ様に、ふらっと買い物に出る様な感じで、自宅を後にする。


 実は、自宅を囲む簡易結界は現在、三重に施してある。

 一番外周は今から悪事を働こうとしている人間をなんとなく寄せ付けない、弱い結界。

 二番目は他人に対して法を犯すレベルで悪意を抱いている人間を通さない、強度中くらいの結界。これは自宅周辺の道に施してある。中には何の感情も抱かずに俺を殺そうとする者もいるだろう。それをはじく。

 三番目は、俺に対する明確な悪意や敵意を内包している人間を拒絶する最大出力の結界。元々はこれだけだったヤツだ。


 で、招かざる敵は、二番目の結界に拒まれて、中に踏みこめずにいた。三名……。それなりの……能力者なのだろう。アレだ、アイツらが片矢さんをズタボロにしたんだろうな。ってことは。


 簡易結界の「外」へ足を踏み出した。そのまま人気の無い高速道路下の公園に向かう。まだ、午後になったばかり。さらに、このご時世、外で元気に遊んでいるような子どもはそういない。


 実際に誰もいなかった。


 端にベンチがあるだけで、遊具も何も無いガラーンとした公演の中央まで足を進める。そして。振り向く。


「で? 何の様かな?」


「バカが……まんまと出てきやがって……誰が仕掛けたかしらないが、あの上級封印内にいればこちらから手を出すことは出来なかったのにな」


「し、仕掛けても良いか?」


「もう少し待て」


 そこに立っていたのは同じ背丈で、同じ黒い戦闘服の男三人。単色、黒の戦闘服の上にダウンパーカーを着ているので、街中で浮いていることもない。


「お前が村野だな……「耳目」の死体を処分してくれてありがとうな」


 感謝される筋合いは無い。あと、やはり、片矢さんは死んだと思われてるのか。


「一度だけ。聞いてやる。お前は化者カノモノとして生きる覚悟はあるか?」


 それにしても不用心だよなぁ……片矢さんを見習えばいいのに。非常に脅威度が高いとする報告は意図して刎ねられたか、こいつらが信じていないだけか。


「聞いているのか!」


 そして、結界の外で、対峙して今なお、俺の力を感じられていないのはちょっと力不足なんてもんじゃない気がする。


「チッ!」


 舌打ちと共に、三人の両手から「気力」が溢れ出て、纏わり付き始める。全員が何かブツブツと呟いている。


「……おん願い申し上げ奉りまする……」


 呪文詠唱が歌舞伎だ。


ズシュッ!


 唐突に。俺の顔目掛けて手を付き出して、その力をこちらに飛ばして来た。三人の両手分、計六発。当然の様に避ける。


 そして、避けた方向に若干追撃する気力の刃。まあ、これで片矢さんを抉り取ったというわけか。


 俺がギリギリで避けた一撃は、そのまま結界にはじかれて砕け散った。


 問答無用で宣戦布告か。完全にこっちを舐めてる、バカにしてるんだよなぁ……。能力者って基本、単純というか、単細胞というか。レベルの低下はそういうモラル的な部分にも影響が出ているのかな?


「自分が所属する組織の諜報部員が同じ報告書を何度も上げて来る。それを知らない、聞いていない時点で、捨て駒なんだろうな……」


「あ? お前今、何をいっ」


 あえて急所を狙わない様に注意して、同じく六発の風刃を放った。


ザシュザシュザシュザシュ。


 二人は、急所以外のどうでも良い部分を抉られて、その場所を手で押さえている。


 残りの一人は、なんとか初撃を避けて、避けたのだが、さらにホーミングで追い立てられてゆく。


 俺と対峙していた場所から離れていくのが判る。


「そっか……陰陽寮には実働部隊がほぼ無いって聞いてたけど……本当に無いんだな」


「なにっ!」


 いや、血を流しながらそんな顔されても。


 ああ、ちなみに、三人とも最初から【隠形】による、認識阻害は使っていない。というか、使えないんだろうな。


「貴様……裂けろ!」


「……おん願い申し上げ奉りまする……我が刃、我が狙う場に突き刺さり、それを切り裂き、給え。……おん願い申し上げ奉りまする……」


 放たれたのは時間差で四つの刃。離れた一人はまだ戻って来れてない。なんか可愛く思えてきた。バカなんだな。

 かなり遠くまで行かないと、ホーミングから逃れることは出来なかったようだ。

 


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