141:日本壊滅

「はっ……それでも、対応出来るのは通常の「異形」までです。もしも20年前と同じ様なことが起これば……に、日本は……壊滅するやもしれません」


 それにしてもいつの間にか敬語なの? なんで? っていうか日本全滅、壊滅……か。


「そんなに?」


「私は……陰陽寮の調査偵察を担当しています。……いえ、いました。つまりは、「異形」に関しては日本で最も情報の集まる場にいたにも関わらず、あの時の脅威の本質は理解出来ていません……」


 言い方がまどろっこしいのはアレか、縛られてるからか。


「そしてこちらの戦力が……当時はまだ私の上が数名いましたし……20年前には……総領十二家がありました。御大……各家のしかも武家の当主を含め、主力が多く揃っていたにも関わらず、あの結果です……」


「今と昔ってさ、戦力比でいうとどれくらい? 大体でいいよ」 


「昔が100とするのなら……今は5以下かと。それも少々補正が入っております」


 5%……以下か。まあ、そりゃ……不安にもなるか。


「でもだからって、能力者の人権を無視して、呪いで縛り続けて、道具として使って良いわけがないよね?」


「……」


「そもそも、言ってる自分がそれでいいの? って話じゃない?」


「……は、いえ、ですが、日本という国を守るためには……」


「人身御供になるってこと?」


「能力者全員が、片矢さんと同じく志願してるのならそれもいいけどね? 違うよね?」


「……」


 言ってる事は判る。判るけど。それは支配する側の言い分でしかない。言いなりになるしか無い奴隷を使っている時点でお察しだ。


「その、心配している「異形」ってのはそろそろ来るの?」


「……正直、私には情報が降りてきていないので確たることは言えません。ですが……「先読み」「月読み」「星読み」と言った能力を持つ者が感じていないワケが無いのです」


「ごめん。ちょっと整理してくれないと判らない」


「未来視と言えば判りやすいでしょうか。その力の度合いや所属する家によって呼び名が違いますが、先ほどの「先読み」「月読み」「星読み」「道読み」「糸解き」「夢解き」……数瞬先が判るモノから、数日、数カ月、数年先が判るモノまでイロイロ存在します。長い年月が判るモノほど、曖昧な表現になることが多い様ですが」


「聞いたことがあります。能力者の家は、とにかくその「星読み」の能力者を確保したがるという話を」


 松戸さんが聞いたことあるということは。


「牧野の第一命令も、それでした」


 だよね。


「未来視なんていうそんなに便利な能力者……沢山いるの?」


「いえ、一時代に多くても数名……少なければ存在しない期間も多い様です」


「って、能力者がそんなに減少している現状じゃ、いないんじゃないの?」


「20年前の件で多くの化者カノモノ……能力者が死にましたが、その多くは武家……戦闘担当の者たちです。我々の様な斥候諜報担当や、非戦闘担当の者は比較的生き残りやすかったのです。特に、当時、東京や大阪、九州で活動していた者達は駆けつける前に、全てが終了した者も多く」


「その中に、その未来視が沢山含まれていたと?」


「そこまで多くはありません……が。私が知っているだけでも5名はいたかと。全てが現在も生き残っているとは言い難いですが、半分は……」


「まあ、それくらいは生きててもおかしく無いか。陰陽寮にも?」


「……」


 あ。その辺は……っていうか、陰陽寮の事は言えないんだっけ? 


 陰陽寮は日本古来から存在する行政機関だ。そこまでは俺も知ってた。

 でも、いま、片矢さんが言ってるのはその裏で、同じ期間存在してきた歴史と伝統と闇を抱えた巨大組織だ。今は弱まっているんだとしても。

 そんな組織が……「星読み」の様な判りやすい、超重要な能力者を確保していないはずが無い。それこそ、昔読んだSF漫画でも子供の様な老婆が軟禁されてたし。


 つまり、片矢さんは「言えない」からそこは伏せられてるけれど。陰陽寮以外の情報の解説をすることで、暗にそう伝えたいのだろう。


「判った。まあ、片矢さんは……総領……今は六家、その上の陰陽寮が、未来視の力で迫り来る「異形」の力を感知しているハズだ……と。にも関わらず……有効な対策をしていないと。そういう事かな?」


「……」


 肯定と受け取っておきましょう。


「解せないのは。片矢さんが「異形」が仕掛けてくるのを「何故、知ってる?」ってとこかな」


「……」


 その顔。というか、この顔をしているときは、「私は呪縛によってその辺言えません」ってことなのね。覚えた。


「その不信感もあって、片矢さんは現在ここにいるという感じ?」


 話を聞く限りだと、

・片矢さんは「異形」の情報を手に入れた。

・陰陽寮はこれまで通りの対応。牧野や俺に対してイロイロ仕掛けているのに、「異形」対策は何もやってない様に見える。

・反感不信感から、俺の情報を「正確に」伝えようと必死になって煙たがれる。

・煙たがれる以上に、うざがられる。さらに何かヤバい部分を突いてしまって、消されそうになる。

 で。今ココ。


 まとめるとこんな感じか。呪縛で縛られてる能力者、クソ面倒くさい。話通じない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る