140:真の敵
「ボロボロになって倒れる直前に……ちょっと気になる事言ってたんだよね」
「気になる事ですか?」
「陰陽寮の上が割れたらしい。で。こいつは反対したそうだ。バケモノに手を出すな、と。ヒドイ話だよね。バケモノ扱い」
「いえ、それは……」
二人の顔が曇る。
「その部分は致し方ありませんかと」
「えー」
「人外レベルでの力強さに惚れ惚れ致します」
いや逆にキラキラした目で言われても……。森下さん。
「く……こ、ここ……は?」
おお。さすが「ケ〇ル」。あっという間に治療完了していたらしい。目を覚ました様だ。
良かった。外傷だけで、頭を強く打ったりとかは無かったのかな? というか、失血で気を失ったんじゃ無いのかな? 造血作用も多少はあるとか? 良く判らないな。
ああ、そうか。気力による攻撃ってなんか重いというか、ダメージを喰らうんだよな……。その流れかな。
「君らが何度も挑戦して入ることが出来なかった俺の家の中だよ。まあ、敵兵を部屋に上げるのはさすがに……なので、ガレージだけどさ」
簡易結界は今も起動中だ。
この魔道具の凄いところは、例え敵意を弾く設定になっていても、俺が許可すると思いながら結界に触れれば、魔力を判別して「例外」を即設定してくれる所だ。
「それは仕方が……な、いや……ありません。あ。き、傷が……」
起き上がって正座しそうだったので、横たわったままで良いと手で押さえる。
「うん、まあ、その辺は極秘なので聞かれても答えないけどね。で。さっきの話だけどさ。詳しく話してよ」
「……か、畏まりました。陰陽寮の……詳細は口にすることができません。縛られているからです……。とにかく、上に詳細を報告しました。天災レベルの脅威、脅威度は「超級呪」です。今、思えば、それが「いきすぎ」「あり得ない」等の意見を噴出させたのかもしれません。さらに言えば「海の底から来たりしもの」では「無い」と断言したのも、それらを助長させた可能性もあります」
顔色は悪いけど、意識はハッキリしているし、何よりも呂律がバッチリだ。回復魔術って凄いな……。アレだけ斬り刻まれる戦闘をすれば、確実に打ち身とか捻挫打撲箇所も多々あっただろうに。パッと見、骨は折れてなかったけどね。
今さらだけど、「癒水」の消費MPは結構大きい気がする。この術はあと何回使えるか? は魔術士に戻したら「なんとなく」判る様になってる事に気がついたが、細かい所はハッキリしない。
大至急「癒水」の消費MPを確認しておかないとだな。【鑑定】はダンジョンでしか使えないからな……。少なくともMP確認はこのあとすぐにやろう。何回使えるかって重要だ。
「私の報告した情報は結果として一切正しく伝わらず、尽く歪められ、上層部の派閥抗争に都合良く抜き出された様です」
まあ、良くあるっちゃ良くある話だけど、この人は「耳目」という通り名で呼ばれるくらいレベルの高い能力者だ。
これまで聞いてきた話では能力者の数は激減しており、個々の力は相対的に価値が上がっているのは間違いない。
だから、牧野文雄の様に、強力な能力者が一人いるだけでアレだけの組織が創れてしまったのだ。
にも関わらず……ということは……。
「上層部は……20年前から変わっていない上に、未だに呪縛が絶対なものだと思っているってこと?」
「は、はい……その様です」
甘いな……まあ、日本の歴史と共に創られて来た組織の歴史は……覆るわけが無いと思い込んでしまうのも仕方ないことなんだろうか?
「そもそも……片矢さん……貴方が既に呪縛から逃れ始めてるのも気付かれてなかっただろうし」
「は、はい。今回……何度もしつこく進言したせいで、敵対者として判定された様ですが」
しかしひでぇな……。
「あのさ、多分もう、死ぬつもりでここまで来たよね?」
頷く。そして身体を起こした。正座か……正座なのか。反省感が強いよ……。
「でも回復したわけだけど。どうしたい?」
「敵対していたにも関わらず、命まで助けられ、その上何か言えるような立場では無い事は百も承知でお願い奉ります……」
ざざっと……正座からの土下座モードだ。
「いや……いいからさ。そういうの……」
「今後……御身には多くの
「それは……なぜ?」
「現状、我が国の
うん、まあ、でも、そんなの知ったこっちゃないよな……襲われてるわけだし。命がけだし。
「既に呪縛から抜けつつある貴方がそう言う理由は?」
「「呪は海の底から来たり」……わ、我々、
「んー? つまり? 片矢さんは、真の敵と相対するために戦力を減らしたくないと?」
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