138:メイド談義?
「見た? というか、見えた?」
森下が頷いてから、首を横に振った。
彼女は最近ではスッカリ、口を開かないのがデフォルトになってしまった。
まあ、元々口数は少なかったが、「命令者にとっての必要なこと」しか喋れないという状態は、「間抜けな言動しかできない」と同じ様に精神的に来るハズだ。こうなるのも仕方ない気がする。
最近はむしろ、ちょっとノリノリで無口で通している気もするし。
「あれは……本当に魔法なのかな? 昔TVで見てた正義の味方、魔法少女みたいな」
いま、私達が生活しているのは村野邸の離れというか、別棟だ。通常の客間ではなく、お客さんが訪れた際に数日宿泊できる様に造られている。トイレも付いている。
御主人様が言うには、先々代の頃にはこの部屋に下宿人がいたらしい。
メイドなのだから、本来であれば、御主人様の部屋の側で24時間体制で待機。交代で常時対応出来る様にしたいのだが、「それだけはマジデやめて」と懇願されてしまったので諦めた。基本、夜23時になったら部屋で休ませてもらっている。
「能力者のさ、「力」の種類とかって超絶極秘事項だった事もあって、あまり明かされてなかったよね。能力者は誰もが隠してたし。……でも。噂みたいな感じで漏れて来てたじゃない? 御主人様みたいな力……聞いたことある?」
首を横に振る森下。当然だけど、あんなの見たことも無い。
能力者の力っていうのは、視覚的に何か表示されない事が多い。目で追えるのなんて、よほど強力な力を行使した場合くらいだろうか?
身体を速く動かすとか、敵の「気」を纏った攻撃を防ぐとか、気配を消すとか、見えない盾の様な板?を 生み出したり。
あと虫を操るっていう鳥肌モノの能力もあったけど……それは、私達に未だ残っている「気力」による呪縛の応用だろう。
まあ、とにかく。長い針金の様なモノがダンボールを貫いたり、それを一瞬で燃やしてしまう様な、強力な炎が出現したり。
穴を開けるとか、燃えるとかは……まあいい。本当はあの威力は異常なのでスルー出来ない気がするけど。
最大の問題は穴を開けた「棘」と「炎」が私達の目の前に「棘」と「炎」として表示されたことだ。
「「気炎」と呼ばれる能力の使い手は多いわ。でもアレは、炎をイメージした気の力で相手を攻撃する感じだし。使用時に空気が揺らぐから、それが炎に見えるってだけ」
森下が頷く。あ。スマホに文字を打ち込んだ。
森下:確か、その「気炎」を極めた能力者が「火炎」って呼ばれているってチラッと聞いたことがある。
「そうなんだ。でも……アレはあんな……「気」で揺らめいている状態なんかじゃなかぁった」
そう。最近、森下とはメッセージアプリで文字でコミュニケーションを取れることが判明した。
以前……牧野に操られていた時は、出来なかったのは確認している。
それこそ、拉致されて気力で拘束、呪縛されていたのだから、外部に連絡が取れるようにしているワケが無い。
それこそ、今どきメッセージアプリで連絡を取り合えないなんてあり得ない。非合法組織ほどその辺の連絡方法は充実していてるのが当たり前だ。
だけど、私達は常に牧野の周囲に待機していて、離れて連絡を取る様なことは無かったので必要無かったのだ。
それが、御主人様に命令者が変更されてから、イロイロと束縛が緩くなっているのに加えて、思考出来る範囲の自由度も上がっている。
まあ、そのせいで森下は少々思考が混乱してしまって、喋ると「何かおかしく」なってしまう。御主人様への報告が、微妙に正確さが欠けたりするのだ。
なのでそれがイヤで、話さないという選択? に至っているわけだけど。
森下:それにしたって、御主人様のあの力は異常。私達だけじゃなくて、ギリギリ「気力」を扱えるレベルの三沢さんですら見えてたみたいだし。
「うん。……私達は一体……「誰」にお仕えする事にしたんだろう?」
森下:御主人様の正体なんてどうでもいい。どっちにしろ牧野に使われていた時よりも何千倍も良い。
「そうだね……それは確かに」
というか。
「……あーというか、アタシ、完全に牝対応だわ。森下は?」
森下:……私も。
まあ、それはそうだろう。牧野の元にいた頃は毎日服薬させられ、常に発情状態で「飼われて」いたのだ。
そして、毎日いや、常に、その手の……性的な奉仕をさせられていた。単純に性欲は強くなっているし、身体は求めてしまう。
その時に仕込まれたのは「強者に対して絶対服従し、心の底から奉仕をしたくなる」という暗示……いや、呪縛だ。
私に与えられていた命令「間抜けな言動しかできない」は解除されたが、主人の命令に絶対服従……などの呪縛は未だに解けていない。というか、解けていなくても、既に身体はそういう風に仕込まれているのが自分でも判る。
あんなスゴイ力を目の前で見せつけられて、欲情しないハズが無い。
「御主人様、どう見てもノーマルだもんね……前みたいに二人一辺とか無理だよね~というか、一人ずつでいいから夜の御奉仕もさせてくれないかな」
森下:なんか強固に拒絶されている気がする。そりゃ、殺す気で掛かってきてた女相手じゃ……興奮しないよね。なんか怖いし。悲しい。
「そりゃそうか……ん……」
森下の長い指が……首筋を撫でた。
「臨戦態勢なんだから……ね? してるときが一番ヤバいって、実際に知ってるでしょ?」
ダメ? っていう顔をされるとちょっと弱い。
「ダメじゃないけど……」
というか、逆だ。御主人様の力に当てられて、さっきからずっと熱くなっている。
森下が微妙に口角を上げ、ニヤッとしながら腕を回してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます