137:初見せ

「それにしても……いきなりですか?」


「うん、そう。いきなり」


 ニュースになった日の夜。三沢さんがうちに各種報告をしに来てくれた。イロイロと用事があったのでついでだそうだ。


 今回、俺が何をしたのか細かいコトが判らないと言うので、実演してみたのだ。


 目の前に、的になった穴の空いたダンボール箱がズタズタに斬り裂かれて転がっている。


「今のが、最初の方ね。これがアレだ、血が結構出ちゃって救急車がガンガン呼ばれちゃったヤツ。最初の四人はこれが彼らの脚部をズタズタにした感じ?」


「というか……これじゃこれじゃ……魔法じゃないですか!」


 そこ? ってまともに魔術を見せるの……始めてか。そうか……。


「えーだから……魔術って言ったじゃん……」


「能力なんですよね?」


「うん、まあ、だから、俺の能力だよ?」


「そういう……ああ、いえ……そうですよね。間違っていない。そう。間違っていないけれど……」


「まあ、で。いいや。ちょっと血が沢山出てしまったみたいで派手になってしまったから。五人目からはこうした」


 さっきまでは「石棘」の灰色の棘の直径が一センチくらいあった。


 あ。ちなみに、石棘の色は、発生させる「場所の素材」の色になる。今はコンクリート打ちっぱなしのガレージ内なので灰色なのだ。シャッターもちゃんと閉まっている。いくらちょっと奥まった所にあるとはいえ、ご近所さんに見られたら困るからね。


 目の前のもう一つのダンボール箱がいきなり弾け飛んだ。


「……細くなりましたか?」


「うん。本数とかはさっきのと同じ。でも、石棘を大体……二ミリくらいにした。イメージは針金ね?」


「これは……」


 三沢さんの汗が止まらない。冷や汗……か。それは……石棘の威力にビックリして……じゃないな。純粋に、俺がこういう魔術を使えることに対してか。


 って! そこでなんとなく後ろに振り返ると、メイド服の二人が土下座をしていた。って、え? なに? どういうこと?

 ちなみに、見たそうだったのでメイドの二人にも見学はOKした。さっきまで普通に立って見てた感じだったんだけど……。


「ど、どした?」


「これまでも心の底からお仕えしてきたつもりですが……今後はより一層……孝悌忠信、命を賭してお仕え致します……」


「どういう?」


「多分……私と同じ気持ちだと思いますよ……改めて、村野さんと手を組んでおいて良かった……と感じていますから」


「うーん。でもさ、三沢さんはもっと派手なの知ってるよね? 二人だって……って二人は俺と直接戦ってるじゃん」


「あの時は操られていた上に、薬も入っておりましたから。意識がハッキリしている状態で……御主人様の御力を冷静に確認出来たのは今回が最初となりますし」


 って師匠との稽古じゃ……まあ、うん。気力による身体強化とか、【加速】によるスピードアップくらいしか使って無いか。

 視覚的、物理的に不思議力の筆頭、魔術が発動するのを初めて見たら。こうなる……のか? ならないよね?


「とりあえず、土下座はやめようよ。それに、「これは」それほど大した力じゃ無い」



 顔を上げたメイド二人と三沢さんの頭の上にビックリマークがピコンッと浮かび上がった気がした。


「他にも……その、見せていただける様なモノが?」


「……こういう力ってアレだよね? 普通は見せつけたりとかしないものだよね?」


「はい。能力者同士の戦いは、お互いの力を探りながらの初見一発勝負となります。それこそ、さほど力が無くとも不意打ち一撃で命を奪ってしまえば、それは自分の強さになります」


「ネタバレは自分の命に関わる……と鏑木から聞いたことがあります……が。村野様の本来の実力はこの場で見せられる様なモノではない……と思い、つい、聞いてしまいました。申し訳ありません」


「ああ、うん、まあ、いいよ。そんな改まらなくて。自分の能力をひた隠しにしておきたい、それこそ、ここに居る「仲間」にも隠しておきたいとは思って無いから」


「いえ、でも、もしも、私達が敵に囚われ、再度操作を受けたりしたら……知っている事実を漏らしてしまう可能性も……」


 二人の顔が不安になる。まあ、そうか。彼女達はいつの間にかとはいえ、こちらに寝返ってるからね。再度、同じ様な事が無いとは思えないんだろうね……。


「大丈夫。心配しなくていい。君ら二人も三沢さんの会社の人達も、ああ、師匠のとこもか。どうにかするよ」


 あ。泣いた。泣かした。


「と、特に君ら二人には世話になってるからね。ちゃんとするから。ちゃんと」


「……あ、ありがとう、ございま……す」


「はい、ほら」


 そう言って、ズタズタになったダンボールと、細い穴は空いてるけどそれなりなダンボールに向かって指を向ける。


(火球)


 心の中で「あの」燃え尽くす火を思い浮かべる。一瞬だ。ほんの一瞬。普通の人なら見逃す可能性もある、瞬きの瞬間。まあそれでもかなりの高温になるのは判っていたので、火を囲うように「正式」で透明な四角い膜を構築する。


「火っ?」


 またも三沢さんが目を見張る。そして……泣いていた二人も強制的に涙が止まったようだ。


「正式」を解除する。


 瞬間の超絶火力に仄かに熱せられた空気が伝わってくる。追いかけてくる、ダンボールが燃え尽きた……匂い。


 指さしたダンボールは一瞬で黒いチリとなり、粉々となり……消え去った。


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