134:後ろ盾

「残念ながら、さすがに私や若島が、今この場で降るというのは厳しいかな……抱えている家の者や、若島なら会社の人間がいるしね」


 そりゃそうだよ。というか、降るってなんだって話だし。


「いやいやいや、さっきから聞いてたら。三沢さんと俺は同盟を組んだ……と思っていたんですけど。違いましたっけ?」


「いえ、違いません。同盟です。ですが、同盟とは、同等の力を持つ者同士であれば、対等になりますが、片方が余りに巨大な場合は「同盟という名の臣従」となるのです」


「まあそうだね。というか……三沢さん……気力はそこそこ使えるとはいえ、能力者では無いのに、良くそこまで決断したね……牧野興産の現場に居たわけじゃないだろう?」


「ええ。あの場で何が行われたかを実際に見たわけじゃ無いですよ。ですが、なんていうか……圧倒的な何かを感じたんですよ。昔戦場で生死を分ける選択をしたときの何かを」


「おお。その「何か」は多分、我々の能力に近しいモノだと思う。大事にしたまえ」


 まあ、そういうの無いと……即死ぬからね。戦場は。


「我々の関係はそんな感じなんですが……共闘というのであれば、倉橋さんと若島さんの言ってる事が真実だという保証が欲しいですね」


「ふむ。そうだね。三沢さんの所にいる「屋守」……の現在の棟梁は連絡は取れるかい?」


「ちょっと待って下さい」


 三沢さんがスマホを確認する。


「丁度、外周りから戻った様です。呼んでよろしいでしょうか?」


「ああ。構わないよ」


 三沢さんの会社、星沢警備保障の従業員入口は目立たない裏側にある。そもそも、この正面玄関と応接室は飾りで、裏側の一階、地下一階、地下二階部分がこの会社のメイン部分だ。そっちに戻ったってことなんだろう。


 スマホで連絡を入れると、すぐに鏑木さんが現れた。と同時に。


 吃驚して跪き、頭を下げた。


「自分の枠内に御大が居られると知らず。失礼致しました。修行不足を実感しております。まさかお待たせしてしまいましたか?」


 鏑木さんの横顔に汗が浮かぶ。冷や汗ってヤツだろうか。


「いやいや、問題無いよ。「屋守」の。そもそも、キミは私の事を知らないだろう? 縁切りした時は先代だったハズだ」


「いえ……あの時……私も共にありました。御大はお変わり無く……」


 この間、鏑木さんは、跪いたまま微動だにしていない。見事だな……。


「そうか……そういえば……まだ幼い子が一緒にいたな。今は何と名乗る?」


「鏑木と」


「そうか。鏑木。息災か?」


「はっ。おかげさまで」


「それは良かった。でだ。申し訳ないが、我が身の後ろ盾をお願い出来ないかな? 三沢さんと村野くんに我が言を信じてもらわねばならなくてね」


「あ……は、はい、しゃ、社長、この方は……紛れもなく、総領十二家、本家が一つ倉橋家の御当主にて御大。本来であれば私の様な下々の分家の者は直言憚れる方であります。この方が「真である」としたことに反対する言葉を私は持ちません。何よりも……私が今、ここにこうしていられるのも、倉橋家の「縁切り」のおかげでございます。出来る事なら御機嫌損なうことが無きよう……お願いします」


「そっか。鏑木がうちで働いてくれる元を作ったのはこの方か」


「当然、それを行えば、こうして我が家に対して好意を持ってもらえるという打算があってのことだ。さらに、縁切りした直後はなるべく自分たちの自由を重んじているが、回り回ってうちに属してくれる者も多いからね」


 そりゃそうだよね。長年苦しめられてきた縛りから解放するのに、「我が家に所属しろ」って言われたら、これまでと変わらないのでは? と疑っちゃうもの。二の足踏むよね。


「どうだろう。三沢さん、村野くん」


「鏑木がそこまで言うのであれば、何も問題はありませんよ。我が社……というよりも私は彼のおかげで命を救われたことが何度もある。つまり貴方のおかげで生き延びたと同意。嘘が無いと信用しましょう」


 おお。三沢さんがなんかカッコイイ。


「村野くんもそれでいいのかな?」


「構いませんよ。というか、俺は元々、貴方が嘘をついているとは思っていませんでしたし。ただ、自分の勘で三沢さんの会社を説得するのは難しいし、無責任だなと思っていたので黙っていただけです」


「では共闘ということでよろしいかな?」


 若島さんが俺に言った。いえいえ、できればその判断は三沢さんに……。


「双方が襲われた場合、出来る範囲で助け合う……ということでどうかな? 正直我々も人数が足りていない。陰陽寮や六家の者、いくつかの勢力が同時に向かってきた場合、守ることだけで精一杯になる」


 お互いの戦力のすり合わせが出来てないのに、出来る範囲でっていうのもちゃんちゃらおかしいが、現状ではこれが精一杯かな。


 現段階では、お互いに自分たちの能力を明かすことは出来ないからね。


「その場合、三人娘はお任せしても大丈夫ということですか?」


「ああ。こないだの一件以来、抜かりないように護衛を配置している。まだしばらくは三人一緒の行動をお願いしてしまうことになるが、それは許してもらうしか無いな」


 陰陽寮の動きが怪しいよなぁ……。確かに。


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