133:共闘

「それはスゴイ……というか、それなのに、なぜ過去に、能力者を救済できなかったのですか?」


「先ほど言った様に……縛りから抜け出すにも適性があるのです。個人ごとに。確率は30%程度だったようです」


「その……70%に当てはまってしまった者たちは?」


「……自ら命を絶てる者は断ち……縛りに強制されて襲いかかって来た者は討たれ。家族で逃亡してきて、親だけが、子だけが抜けた時等は……地獄だったそうです」


「それは……」


 地獄だろうね……。クソが。


「しかし縛りから抜け出したいと思える時点で、抵抗力が高いのです。それでも二十年前まではまさに命がけでした。それが、現状では気付く者も多くなってきていますし、縛りから抜けられる者も100%に近くなっています」


「今も……その抜けられなかった者は……」


「ああ、しばらくは軟禁状態で過ごしてもらって、抜けられるまで何度もうちの縛りで上書きしていきます」


「二十年の年月は劣化激しいのか、ほとんどが一週間程度で上書きされますな」


「それでも、上書きなのですね」


「そうなのです。先ほど、抜け出す云々と言いましたが……本当の所は我々の家の「ある程度自由度の高い」縛りで「上書き」する手法しか確立していません。縛りを完全に解除することは未だに不可能でして」


 あれ。松戸さんの牧野……「傀儡師」の呪縛……じゃなくて縛りは弾き飛ばせたけど……うーん。アレはなんか違うのかな? 違うか。


縛り:生きる為の根幹部分を拘束するようなモノ。


規制:松戸さん、森下さんの「賢く無くなれ」や「必要なこと以外しゃべるな」の様な浅めの縛り。


 って感じだろうが。なんかもう、この人達の世界の専門用語がちゃんと確定してない感じで、凄く居心地が悪い。というか、イロイロわかりにくい。口伝で伝わって来たんだろうな。書面に書き付けて、体系化して……っていう客観的な分析が加わってない気がする。そこまで極秘だったのは判るけど。多分、家ごとに隠語が違っている気がする。


 ここで言ってる縛りは、彼女達の御主人様が俺に誤認定されているって部分だな。あれは解除できてないし。


 そっちもな~多分、森下さんのと同じ様に身体の中に埋め込まれてるんだろうなぁ。


「正直、村野さんは……余り他人に干渉されたくないタイプだが、他人を支配したいとは思って無さそうだったのでね。こうして会話が成立して、あわよくば抱き込めるかと思ってたんだけど」


「倉橋様……そのような直接的な」


 若島さんが呆れ顔だ。


「くくく。抱き込めそうにないね。下手すれば此方が取り込まれてしまいそうだ」


 うーん。まあ、コッチの件について、誰かの下に着くつもりはないなぁ。


「だが、共闘は出来そうじゃないか。どうだろう?」


 共闘、か。


「ファーベルの三人娘に関しては、自分の目の前で酷い目に合わされるのはイヤだなと思っただけなんですよね」


「くくく。たったそれだけで。自分に少々縁のある者の為だけに、牧野をやったのかい?」


「あーそうですね、やりましたね。あそこまで容赦なくやろうとは思ってなかったんですが、現場に行ったら気が変わって」


「気が変わった?」


「奴ら、全部の拠点で攫ってきた女の子を犯してたんですよねー。特に最初に行ったマンションのヤツは二人殺してたのを目の当たりにしてしまって」


「そうかそれで気が変わって全殺しか。私たちも大概どこか壊れていると思っていたが、君もなかなかだね」


「オカシイですか?」


「いや。非常に好ましいね。もう少し若ければ惚れていたな。ああ、そうか。おひいさまも、封印の下で潜在的に気付いている可能性もあるな……」


 いやいや、とりあえず、その話は面倒くさくなりそうだから避けて行きたい。

 

 というか、この人……何歳なんだろうか。ぱっと見は本当に……三十代前半なんだが……さっきどう考えても「若島さん」よりも年上的なセリフがあったろ。


「村野くん。女性の歳を詮索するのは失礼というものだよ」


 うん、目線でバレた。で。いつの間にか年上口調に変化してる。


「まあ、良いだろう。君も正直に教えてくれたからな。自分で言うのもなんだが、年齢にしては……というのは確かだな。……戦争経験者なのは確かだな」


 うん。おかしいってレベルじゃないよね。


「おお……おもしろいな。村野くんにそんな顔をさせるのは、なかなか難しいハズだ」


「本当ですか?」


「本当だよ。多分、私の持つ能力のせいだろうね。詳細は教えられないが。老化はしているのだが、普通よりもゆっくりの様なんだ」


 ……そうか。というか、それで納得していんだろうか。納得するしかないか。


「美魔女って感じだろ?」


 ええ、そりゃもう。一般に美魔女と呼ばれているマダム達が霞んで消えてしまうくらいには。


「共闘とは具体的には……どうするのですか?」


 三沢さんが問いかける。


 彼も、俺と組んだ時に同じ様な事を考えていたハズで。だからかいつの間にか非常に冷静に分析していた感じだ。


 って、年齢でビックリしなかったの?


「……というか、まずは。三沢さん、キミの会社と村野くんの関係は? なんとなく、依頼者と警備員……以上に、かなり近しい感じがするのだけれど」


「我々、星沢警備保障は現在、事、能力者の件に関しては村野様の手足となって動いています。当然、牧野興産や陰陽寮の件で今後大きく揉めることになっても尖兵として戦うつもりです」


 あれ? え? 同盟じゃ無かったっけ? んん? どういうことだ? 俺の手足っていうのは、俺の部下っていうか、配下みたいな感じに聞こえたけど。


「ほう……聡いな……三沢さんはイロイロな情報をちゃんと手に入れられていない段階で村野くんに降ったのか」


「ええ。間違った判断だとは今も思っておりません」


 あ。また降ったとか言った。


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