131:おひいさま
「意味も何も。そのままなのですよ。我々はつい先日大きくしくじった。それを救ってくれたのが、村野さん、貴方だ。そこに謝意を述べ、一回借りが出来たから、そのうち返すねっていう」
うん、それはまあ、なんとなく判ったけど。しかしイチイチ芝居臭いというか、絵になるというか。
「そもそも。姫……とは?」
「ああ、そういうことか。それは……気付けなかったのか。ああ、それもそうか……」
「ええ。かの封印は御大自ら行ったハズですし」
どういうこと?
「我が……孫として育てております、桐子様は……元を正せば若島家の本家である蔵品の直系。おひいさまになります」
「……」
おうふ。一番お姫様っぽくない元気娘がお姫様……しかも、総領十二家の中でも人権派というか、
「か、確認させて下さい。えっと、確か、蔵品家というのは二十年前の件で滅んでしまったと言われている……」
さすがの三沢さんも急展開に汗が出てる。
「ええ、そうです。その蔵品家、です。あの地が壊滅する数日前にその脅威を感じた当時の蔵品家当主が、生まれたばかりの娘に封印を施し、分家の金策筋であった若島家に託しました。その赤子が彼女です」
ほほぅ……。倉橋さん、滑舌良いなー。
「そもそも。蔵品家は総領十二家で副総領を務める「原初の御三家」のうちの一つ。
「おひいさま……いえ、桐子様は現在もその力を封印されておりますが、いつそれが解けるか予断を許さない状況なのです。そもそも、封印の効果は10年程度と言われておりましたので……」
「桐子さんの封印が解けると……?」
「その力に誰もが気付くことになります。特に陰陽寮の連中はなりふり構わず確実に確保に走るかと」
それほどスゴイ、力なのか。
「そこまで大切なのであれば……なぜあの時は護衛がいなかったのですか?」
「当時、私は他家との小競り合いに出張っておりました。それでもウチの者を二名ほど張り付かせていたのです。が。そこにこれまた違う家に所属していた
「迂闊……ですね」
「ええ。何の反論もございません」
「さらに、その後も少々別件のゴタゴタが続きました。なので、こちらから撃って出ることは不可能な状態で。そんな折り、三沢社長から護衛の話をいただき、これ幸いとばかりに乗らさせていただきました」
そういうことか。
「そんなことをしていたら、いきなりの牧野文雄……いえ、「傀儡師」牧野の消失です。これはただの消失じゃ無い。文字通り、牧野興産ビルの上階消失。ヤツの過去の痕跡全体を消し去る巨大な力です。牧野文雄は有力な家の出ではないのですが、特に強力な力を有していました。私は直接対峙したことはないですが、陰陽寮の指示で向かった他家の能力者が何十名も散っています。それがたった一晩で……ご存じないかもしれませんが、こちらの世界では衝撃のニュースでした」
……今考えれば正直、もう少しイロイロと考えて穏便に事を進めれば良かったと思ったりもしている。後悔はしていないけれど。
「その後、僅かでも真実に近付こうと情報を集め始めたところ、三沢社長の会社が確実に絡んでいることを確認しました。そこで若島に頼んで三沢社長と話をしてもらい、対応等を確認してみると、どう考えても裏に実力者の影が見え隠れしました」
これは別にしょうがないよな……そういう観点から探りを入れ始められたら、いくら三沢社長だってボロは出るだろうし~落ち着いて対応出来ているだけでも、ある程度予測は出来てしまう。
「ただ、我々としてもその実力者に近付くのは非常にリスキーです。なので、まずは護衛としてなら……紛れ込めるかな……と。そこで偵察を重ねて、情報を精査し、それから交渉を行おうかと考えていたのですが。紛れ込めてなかったようですね」
「いや、お見事でしたよ? 正直、陰陽寮の「耳目」がうちに襲撃を仕掛けてこなければ、気付かなかったと思います」
「……さすがに、陰陽寮の指揮官が動いているのを確認して、少々こちらも焦りまして。それにしては実働部隊は様子見の雑魚でしたが」
「正直、威力偵察……にしても異和感がありましたね」
「多分ですが……陰陽寮の組織的にもイロイロと不都合が生じているのではと思います。指示を出す者が複数名存在していて、「耳目」もそれに従わなければならないと……」
「あの人、中間管理職ですか……ああ、苦労してそうな顔ですもんね」
ぷっくくくくく。
これまた、美しい忍び笑い。絵になる。映える。
「ああ、そうですね。くくく。世界に畏れられるあの「耳目」を……中間管理職……くくく。さすがです、村野さん」
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